第21話 シギン登場!そして撤収
ガバアアアアア〜っとわしら4人の前にいきなり襲いかかってきた!
ここからの動作が全てスローモーションのようにみえる…
わしは瞬時にセイムさんをだき抱え、少し離れたセレブさんにダッシュして反対側に抱きかかえる。
ふとみると、目と鼻の先には絶望に顔をゆがめるスブム…
しょうがないじゃないか、わしの腕は二つしかないのじゃからと心の中で言い訳しつつ、しょうがないのでスブムにドロップキックをかまし、その反動を利用して、反対の茂みにダイブ!二人を離す。
起き上がってドロップキックしたスブムをチラッとみると、鼻水が放射線を描いて襲いかかってきた爪の下をかいくぐり、偶然にもセーフ!も…派手にぶっ飛び何か犬神家の一族を思わせるような体勢になるスブム…南無。
わしは起き上がって、その物体と対峙する。
全長200cmくらいの熊だった。いや、厳密にいうと熊のような動物だった。2足で直立していて、目が血走っている。ものすんごい興奮状態だ。
このまま闘えばチート能力のあるわしが勝つじゃろうが、殺したくはない。
なんとか落ち着かせたいが…よしあれじゃな…あれしかないな。この状況を打破できるのは…
わしが60歳から習い始めた詩吟を披露する時じゃ!
とうとうお披露目する時がきたわい。
本当は詩吟の発表会とか毎年あったのじゃが、いっつも嫁のさとみのフラダンス発表会にかりだされて
おったのじゃ。
いや、わしも言ったのじゃよ。詩吟の発表会に出たいって。
そしたらじゃよ、妻さとみが「あなたに見てもらえないんだったらわたしが1年頑張った意味がないじゃない!」みたいな事言われたら見に行くしかないじゃろ?
「あなたの詩吟は家で私がみてあげるから」ってなんか違くない?
わしだって…わしだっってみんなに聞いてほしいんじゃ〜〜
はあ、はあ、つい興奮してしまった。そんな積年の思いがとうとうこの異世界の地で叶う。
そんな気持ちで心を込めて吟じます。
「熊さん落ち着け」
おちつゥーーーーーーけェーーーーーーェェ
おちつゥーーーーーーけェーーーーーーェェ
おちつゥーーーーーーけェーーーーーーェェ
パチパチパチ茂みからセレブさんとセイムさんが拍手をくれる。
寝転がってるスブムを見ると白目向いてる。ヤバっ
熊を見ると直立不動で手をだら〜〜んとしてた。
顔は…あれっ効いてる!マジで!やってみるもんだな。半分冗談だったんだけど…
そのまま
よしィィーーーーーーよしィィーーーーーー
こっちィィーーーーーおいでェェーーーーーー
と唄ったら、おとなしく四つん這いですりすりしてくれた。
やった〜〜〜〜〜!
よし、お前はこの世界初の詩吟熊として世に送り出そう。そのためにも家で飼ってやろう。名前はシギンでいいだろう。
などと考えていたら、熊はくるりと反転して2足歩行でダッシュして逃げて行った。わしはいきなりの出来事に唖然としてポツーンと1人残された…
あれ?そんなに簡単に懐かないか…ちょっと残念じゃったな。
ダッシュして走りさった後よくみると気絶したスブムの顔に熊の足跡が…
思いっきり踏まれてんじゃん、スブム。
不憫な子やで………




