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第205話 トンカツ2

 「なっ…んだこれ?」


 どさくさにまぎれて、エメリさんに“つい”触ろうとしたわしはビクッとなった。

 「ど…どした?」

 心配して再度聞いてみる。


 「なに?これ…なんなの」

 「…ウソでしょ」

 「…これはなんて言ったら…」

 みながザワザワしだした。

 さっきまで静まりかえっていたのが急に口々に言い出した。そのザワザワを突き破る大きな声を出したのはカーンだった。


 「なんダスか~~~~これは~~~。うまい。うまいダスよ~~~。」

 訛り丸出しで大声を張り上げた。


 共同台所をつきぬけ、3軒先の家に聞こえるぐらいの声で。実際に何事か?と窓から覗き込む村人もおったぐらいじゃ。


 「すんげーうまいダス、何これ?何なの、なあ、な~って」

 …あの冷静なクールなカーンがまさかのタメ口。腹立つ…まあいいんじゃけど。


 「わかったか?これが油の力じゃ!」

 「油すげ~~ダスな。もっと、もっとくれダス。」

 他のみんなも欲しがるが断った。今から宴会だから我慢しろと。


 「まだまだ今から仕込みが始まるから、みなさんよろしく頼むぞ。わしは揚げ物担当としてどんどん揚げていくからのう。」

 みな、まだ仕込みが終わっていない事を思い出しそれぞれの仕事に戻る。もう陽は暮れておるから急がないといかん。


 「あっ、ササミさんとオッペンさんはわしに付いて、揚げ物を準備してください。」

 2人の女性を呼び止める。熟年な2人なら危険な油も安心して任せられるだろう。


 熟年な二人にはさまれて残念…ではないぞ!

 わしは全自動カラクリ人形のように右から左へ受け流しておるのじゃ。次から次へと揚げ物(今回はトンカツじゃな)を揚げては上げ、揚げては上げを繰り返す。なにせ100名以上だからな。もちろん熟年の二人に、揚げ方など教えながらじゃ。


 その間カーンはわしの後ろでジッと指をくわえて見ておる。よっぽど気にいったのじゃな。

 だいたいのメドがついた後は熟年2人任せて、宴会会場へカーンと向かう。


 宴会会場は村の中心に近い広場で、キャンプファイヤーでおなじみの真ん中に大きな

井桁いげた型に組んだ薪が天高く燃えている。実に幻想的じゃ。こちらの空はすごく澄んでおるのじゃろう、毎日が天の川のように広がる満天の星が輝いて見えておる。


 「おお、やっと来たか。カーンとジジイはここに座れ。」

 族長であるゲタンがわしらを呼び寄せ、主賓席?真ん中にカーンを座らせる。


 「みな~酒を取れ!これからわしらオランウータン村の同士となるカーン族長の来村を歓迎しての宴だ!まずは1言もらおうか。」

 ゲタンはカーンに目で合図をする。


 「みなさん初めまして、私がカーンダス。ここから東にカバで3日ほど行った所の小高い丘に居を構えているダス。」

 カーンは大勢の森の民の前でも全然臆せず、通りやすい声で続ける。


 「俺達は以前、盗賊だったダス!人間のクズだったダス!」

 急にカミングアウトし、まわりがざわつくも構わずに続ける。


 「あのまま続けていれば、そのうち討伐隊に打ちのめされて死、良くても血みどろの戦いに巻き込まれてのたれ死ぬところだっただろうダス。」

 カーンはわしの方に振り返り。


「そんな時に、このいけ好かないジイさんに出会って、仕事を与えられたダス。そんな人間のクズだった俺達はやっと、クズから抜け出し人並みの人間として生きられるようになったダス。ジューローには感謝しているダス。だから今は、いけ好かないジイさんから好かないジイさんにレベルアップしたダスけどな。」


 「いけが取れただけかい!」

 わしがカーンの言葉にツッコム。


 「俺達はまだまだ村とは呼べない集合体だか、これから努力でこのオランウータン村に負けないように村を築き上げて行くつもりダス。もちろん自分達のためにダス。お互いにこれから先も良き隣人であり続けられるよう望むダス!」

 高く掲げられた杯に呼応して、森の民もみな杯を高く上げる。


 「よし、それではお互いの前途を祝してカンパ~~~イ!」

 ゲタンの合図で宴が始まる。


 みなが高く掲げた杯を飲み干し一気に歓声が上がった後

 「みな、今日はこのカーンが作ってくれた油で作った絶品の一品がある。ぜひ油の力を感じてみてくれ。びっくりすぞい。」

 わしの言葉の後、女衆の手によって先程まで揚げていたアツアツのトンカツが運ばれてくる。


 結構大きめにつくったので全長20cmのかなり厚めのトンカツじゃ。みんな初めは炎の明かりでテカテカに光るキツネ色の物体に興味津々じゃったが食べるとなると、未知の物であるから、恐る恐る口に入れ及び腰じゃったのが、一口かじると…


 「………何これ?」

 「何これ何これ…すんげー旨い!」

 「外はサクサク、中はジューシーで旨い!」

 「中の肉汁がたまらん!」

 と大絶賛だったのじゃ。あんなに分厚いカツをひとのみじゃ。


 全然物足りなかったようで、

 「おかわりは?まだある?」

 「早くくれ!あと10枚は食べれるぞおれは」

 「出し惜しみするな!コラっ」

 みんなドンドンわしの前に集まってきたのじゃ。


 しかも鬼気迫る顔をして脅迫してくるのじゃ。ヤンキーじゃ、80年代のヤンキーを彷彿とさせる顔じゃ。


 「ちょ、お前等落ち着け、落ち着くのじゃ。」

 なんとか落ち着けようとするのじゃが、興奮は冷めやらんようじゃ。


 「このブタという動物はアルーン村から取り寄せておるのじゃが、まだこの村で繁殖していないし、取り寄せた肉にも限度があるのじゃ。それに今回カーンに作ってもらった油もまだまだ少量で…つまり1人1枚しか量が無いのじゃ。我慢してくれ。」

とわしは頭を下げた。


 そんなわしの姿を見て、みな諦めた顔をしてトボトボと自分の席に戻り出した。


しかし、やっと沈静化したトンカツへの意欲をわしの不用意な1言で脂肪事燃焼させてしまうことになってしまったのじゃ。


 「申し訳ないから、だれかわしの食いかけのトンカツ半分食べるか?」


 「うおおおおおおお~~~~」

 「俺だ!俺によこせ~~~~」

 「何言っているんだ、俺様だ~~」

 「てめええ~殴る事ないだろう」

 みんなが一斉にわしに向かって走り出したと思ったら壮絶な殴り合いへと発展したのじゃ。


阿鼻叫喚地獄絵図じゃ…この世の終わりじゃ…ぐらいの勢いで争う。


…というのが、前回の第204話の冒頭だったのじゃ。もう1回読み返してみるとよいよ。


これが後の第1回ジューロー食い残しトンカツ選手権の始まりじゃった…恐るべし油の魔力じゃな…


ちなみにトンカツの残りはみんなが争っておるうちに自分が美味しくいただきました。





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