第200話 ジューロー登場
「ま、間に合った…危なかったわい。」
ジューローはセイム、エメリの前に背を向けて立ちふさがって、怪しげな男の短剣を、持っていた木の枝で打ち払い首もとを思いっきり打ち据え気絶させた。
「記念すべき200話に滑り込みセーフじゃ。主役なのに危うく出番がないところじゃった…。」
そっちの心配か~~~い!
というエメリさんのツッコミを期待しつつ振り向くも、二人は抱き合ったまま固まって動きなし。
「怖かったろうに…。でも、大丈夫じゃ!
わしが来たからには、アルソッ●の霊長類最強の女、吉田●保里並みに安心じゃ!」
とびっきりのいい笑顔で、あわよくば、このいい笑顔でわしの事、惚れないかな~ぐらいの希望を込めていい笑顔で言う。
「安心じゃ!じゃね~~よ、どこ行ってたんだよ!心配しただろ」
「ジューロー様ですか、本当に?吉田●保里っじゃなくて?」
エメリがラッシュ、わしのボディーめがけてラッシュじゃ。
3発に1発はいいのが、みぞおちに入る・・・げふっ。
セイムさんがわしの背中をぽかぽか叩く…
3回に1回は首もとにチョップが…げふっ。
「ちょっ、タイムタイム、タップじゃ、げほっげほっ。」
「やりすぎた…ごめんジジイ」
「すみません、つい。大丈夫でしたか?」
心配するわりには、結構いいパンチいれてたけどね…二人とも。
意図的?
「大丈夫じゃよ。まだ心臓は動いておるよ。あやうく止められそうになったけどな…。」
「そんな事よりどこ行ってたんだよ、ジジイ?」
「今までどこに?ううん、本当にジューロー様の意思で村を出て行かれたのですか?」
「ちょ、そんなにいっぺんに言われてもゆっくりゆっ…」
わしの視界の隅に気絶させたはずの男が立ち上がっていた。わしとエメリさん、セイムさんのやり取りを見る余裕も見せて…。
「さすが、ジューローだな。みかけのジジイの姿に騙されそうだぜ。」
「ほう、手加減なしで気絶させたつもりじゃったが、よく立ち上がれたのう?」
「油断させて…とも思ったが、ここにいたのはジジイだけじゃないようだからな…。今日はこのまま退散する…ぐっううう」
男は話の途中で地面にひざをつき、両手をつく。
「わしの大事な二人に手を出そうとして、そんなに簡単に帰すと思うのか?それともジジイの姿になめておるのか?」
男の直径1mに絞って重力をかける。
手をだすとは、ちょっかいをかけるという意味と、殺そうとする意味の二通りじゃがわしはどっちの意味でも許さんよ。ぬっ殺すよ!
「お前には質問に答えてもらうぞ。素直に質問に答えればいいだけの簡単なお仕事じゃ!報酬はお前の命じゃがのう。」
「ぐっ…なっそ・んな…こと、おれが…」
「では質問じゃ。なぜセイムさんとエメリさんを狙ったのじゃ」
「はっ…話すと思うか…この…オレが」
ドッシャアアアアアアアア!
わしがおもいっきり地面を蹴り上げる。
地面がものすごく深くえぐれ、上に蹴り上げられた土が男の上にぱらぱらと降り注いだ…
「はい、それは二人がスペード商会に探りをいれていたからです。」
男はスラスラしゃべり出した。
重力ではいつくばっておるくせに、淀みなくスラスラしゃべり出す。
「わたしの役割はスペード商会を探る者の排除だけです。スペード商会を探っているという情報を聞いて、脅す目的で襲っただけです。」
「と、いう事はお前はスペードから直に命令を受けておるのか?」
「そ、それは…言えません。」
「誰の命令で動いておるのじゃ?」
「……………………………」
苦しい表情を見せる男に、またおもいっきり地面を蹴り上げようとしたら横の死角から何か飛んでくるのが見えた。紙一重で避けようと身体をひねったが、腕をかすめじわりと血がにじむ。
避けて正解じゃ、刃物だったようじゃ。
その1瞬をついて、わしの重力変換能力から、男が範囲外に逃れてしまった。どうやら男の仲間がいたらしい。…5人も。
離れた位置から、顔の布を被り直した男が言う。
「今日はこの辺りで勘弁してやろう…。これからは、スペード商会を探るような事は遠慮してくれると助かる。…もう、あなたとは争いたくないですから。」
と、言い残し男達は素早く立ち去っていった。
残されたわしらには微妙な空気が流れた…
勘弁してやろうとは笑うところなのか?それとも本気で言ったのか?と…
※※※※
「えっ、やっぱり出て行く意思はなかったのですか!」
セイムさんの問いかけに答える。
「出ていくどころか、引きこもりたいぐらいじゃよわし。どうしてこうなった?」
「何ですぐに否定しないんだよ!ジジイ」
「漏れそうじゃったんじゃぞ!いや、正直漏れていたかもしれん。」
「そんな情報、聞きたくね~し。」
「それを除いても、あんなに盛大に送りだされては否定しようにも否定できる雰囲気ではなかったぞ。」
「そうですか…出て行く意思はなかったのですか…よかった。」
可憐じゃ…心底ほっとする表情のセイムさんをみて、わしは…わしは…ペロペロしたくなるぞ。…いや、照れ隠しじゃよ。
反対にガッカリした表情を見せるエメリさん。
…ツンデレじゃ!真性のツンデレじゃ。わかっておるよ…照れ隠しじゃろ。
「それにしてもいったい…どこからそんな話が…」
「それが、私たち2人で調べた所、村に出入りしているスペード商会の方だと突き止めたのですが…」
「それで襲われた…と」
「はい、そうです。ジューロー様が来てくれなかったと思うと…」
セイムさんがほっとする表情を見せる。
やめ~~~い。だからそんな顔を見せられると…わしは…わしは…ペロペロしたくなるぞ。…しつこいな、わし。
「あれから5日間もどこに行っていたんだよ、ジジイ。」
エメリさんが聞いてくる。
そうなのじゃ、実はあの後、ミチミカの部屋にいてスーパーひ●しくん人形がボッシュートされたと同時に下界に落とされたのじゃが…わしの身体埋められる寸前だったのじゃ。
行き倒れと間違えられて土葬される寸前じゃった。
ちょっと…ミチさん、ミカさんもっとわしを大事に扱ってよね。
と苦情をいれておいたのじゃ。
ミチとミカのところに行っている間に5日間も経っているとは…
そんなに長居した感じ全くなかったのに…
精神と時の部屋仕様だったのじゃろうか…あの部屋。
もちろんそんな事を2人に言える訳もなく…
「あー…土に埋まっていました…」
「「はっ?」」
「いや…だから5日間土に埋まってました。デトックス的な感じで…」
「わけわからんのだけど…」
「まあ、ジューロー様が無事でよかったです。」
「本当はよくないけど…とりあえず戻ろうか!一緒に」
わしの左手にセイムさん、わしの右手にエメリさんが腕を組んで歩き出す。わし1人では帰りづらいから3人一緒で帰ってくれるようじゃ。優しいのう…
わしは両手に華で、浮かれ気分でスキップをしながら歩きだす。
それにしても…
わしの噂といい、スペード商会の裏の部隊といいなにやら怪しいのう…スペード商会とやらは…スペード本人に問いただした方がよいかのう…一度スペードに会いに、城下町に行くか…。




