第199話 噂の出所
ゲタンの家を去った後、私たちはまず始めにマブシに会い、話を聞く。
「マブシ!仕事中悪いな。ちょっと聞きたい事があるんだけど…」
「はい!エメリさん。自分彼女はいません!。」
何を勘違いしたのか、マブシは期待のこもった眼差しをエメリに向ける。
「いや、そんな事が聞きたいんじゃなくてだな…」
「大丈夫っす!みんなには一輪棒のスターってちやほやされてますけど、浮気したりしないナイスガイっす!」
「いや、だから、誰もお前の事は…」
「好きです!エメリ、俺とつきあっぼごおおおお」
エメリの渾身の右がマブシの右頬に炸裂する。
「聞けっていうのに…殴るよ!」
顔を真っ赤にしたエメリさんが言う。
「もう殴ってるじゃないですか!殴ってから言うんだもんな…ってて」
マブシは殴られた右頬をさすりながら愚痴をこぼすが、何だかうれしそうだ…
これがジューロー様の言っていたMか?
私にはよくわからない…
そう思うセイムであった。
「で、何が聞きたいんですか?」
「やっと本題だよ。聞きたいのはお前がゲタン族長にジューローの噂を伝えたそうだけど、それはだれから聞いたの?」
「あ~~、確かにゲタン族長にはオレが直に噂を伝えましたけど…もうすでに若い男衆の間では広まっていたからな…誰っていうのは」
「それじゃあ、その場で話していた者を具体的に教えてくれる。」
「ああ、それなら。その時は…」
そういった地道な聞き込みをしていき、総当たりでしらみつぶしに出所を当たっていく。
何度も何度も同じ質問を繰り返す。
中にはセイム親衛隊の方もいたようで、ジューローがいなくなった今、猛烈にアピールをしてくる輩も…
セイムの性格上、遠回しに遠回しに断るのだが…。
エメリは思った。
「火をつければいいのに…。アピールしだしたら火をつければいいのに。」
と怖い事をつぶやいた。
以前ジューローが言っていた、縄でしばると喜ぶMという習性を思い出し、
「縄で縛って火をつければいいのに…。」
と、怖い事を真顔でつぶやいた。
そうして、しらみつぶしに聞いていくうちに1つ有力な情報が・・・
交易を担当しているスペード商会の荷運びの若者から聞いたというのだ。
どうやら、調べていくうちに、複数の人がスペード商会の方から聞いているとの話が浮かび上がった。
ちょうど明日、10日に1度スペード商会から城下町の荷が届く日だ。明日学校の合間に聞いてみる事にしてセイムとエメリはその日は別れた。
※※※※
「はい、あの人です。今降ろした・・そうです、そうです。」
私たちは昨日スペード商会の方から聞いたという人に顔を確認してもらい話かけた。
「あの~、ちょっとよろしいですか?」
「はい、何でしょう。私は結婚していますが、あなたとなら嫁と子どもを城下町に捨て、森で生きる覚悟はあります。」
「いえ、不誠実な方はお断りします。ところで・・」
セイムさんズバッとあしらった。
あっ相手の男性こころなしかうなだれている・・・
こころなしどころか地面に付きそうなぐらいうなだれている。
よっぽどショックだったのか…
「はぁ…はい、はい。自分が聞いたのは…はぁ~~~~。スペード商会で噂になっていたので…はぁ~~~。」
めっちゃ落ち込んでる~~~~。
顔ミドリムシ並みに真っ青じゃん。
「その出元はわかりますか?」
セイムが気にせず声をかける。
「ん~~誰だったかまではわかりませんけど、ジューローさんは森を出た後はわたしたちのスペード商会にきてくださり、一緒に働くような噂もありましたね。確か…。」
他に2、3質問して仕事に戻ってもらった。
「エメリさん聞きましたか?」
「ああ、これは・・スペード商会発信で間違いないんじゃないか?」
「ええ、私も間違いないと思います。しかも働くという事はスペードさんも知っていたのではと…」
「スペードがジューローをあんたと離したいから画策したとか?
だいぶご執心だったもんね、セイムに。」
「もう!そんな事ないです。」
「ははは、とりあえずゲタン族長には知らせておこうか。」
私たちはゲタン族長がいる農業エリアへと歩く。
オランウータン村になって前の村と一番変わった事は村の仕事の利便性が高まった事だ。
製造業、農業、学校、生活区など役割により区分けする事により
無駄をなくし、仕事の効率化を促進した。
それに伴って私たちの生活にゆとりが出来るようになり、自由な時間が増えた。
これもジューロー様のアイデアの1つだ。
今まで食べる事、生きる事で精一杯だった私たちに
色々な可能性が産まれる心の豊かさを教えてもらい、森の民は皆、ありがたく思う。
そんな事を私が、歩きながら考えていた時、エメリさんがいきなり私を突き飛ばす。
「セイム、危ない!」
ガガガッッ
さっきまで私がいた場所に、刃物のようなものが刺さる。
エメリさんを見ると、わたしをかばって突き飛ばした際に、腕に刃物が少しかすったようだ。血がにじんでいる。
「エメリさん!大丈夫?」
「だ、大丈夫。かすり傷程度だ。ところで誰だ?お前は。」
エメリさんが少し薄暗い木々の方に向かって話しかける。
「さすが、森の民ですね。こんな暗がりでも見える目をお持ちで。」
木の間から、音も無くスっと男が現れる。
身体はスラリと細長く、顔は布で覆って右手には30cmくらいの短刀を握っている。
見た事のない男だ。
「あなたは誰?」
問いかける。
男は答えない。
じっと私たちを見据えた後、短刀を前に突き出す。
「もったいないですけど、黙らせてもらいますね…一生。」
男がいきなり間合いを詰め、短刀を振りかぶる。
エメリは咄嗟にセイムをかばい、上になる。
2人は同時に目をつむり身体を硬直させた…
一瞬の事だった……。
甲高い金属音がしたと思ったらドサっと、
なにか質量のあるものが倒れる音が…
二人はおそるおそる顔をあげ、目を開くと…
二人の前に立ちふさがるジューローの姿が…
「ジューロー様!」
「ジューロー」
二人は同時に声をあげる。




