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第198話 二人の疑問

「絶対おかしいと思う。ジューロー様がこの村を去るなんて・・・絶対ありえないと思う。」

「・・・実は、私もそう思ってたんだ。」


セイムは安心した。エメリが同意してくれた事もそうだが、おかしいと思った人が私以外のも居てくれた事が。


「部屋に大切な物が、そのままにして置いてあるのもそうだけど・・・

何ていうか・・出ていく様子が全くなかったの。」


「そうだな・・・他の人に言っても、そりゃあ出ていこうとしている人が、

まわりに悟られるような行動は起こさないだろうという意見もあったけれど、

ジューローに限っては、その行動はあてはまらないと私も思う。」


セイムの部屋にエメリと寄り添い、小声で話し合う。


「ジューロー様の家の台所には、翌朝食べるであろう食材が用意されていたわ。

出ていこうとする人が用意するだろうか?たとえ用意しても、食べるか持っていくと思うのだけれど・・・」


「ええ、それにジューローが家を出てすぐゲタン族長と話をされていた時、すごく眠そうな顔をしていた。今から村を抜け出そうとしている人が起きてすぐに出ていこうとするかな?・・・・そもそも寝るのかな?そんなに出て行く時間ピッタリに起きる事が出来るのかな?」


二人はお互いに疑問に思っていた事を話し合う事によって、

心のつかえが取れたような感じがして安堵した。


「なあ、私たちだけでゲタン族長に話を聞きにいかない?」

「ええ、そうね。まずは聞いてみましょう。」


セイムとエメリは家を出てゲタンの家へと向かう。

今は昼時なのでたぶん家にいるだろう。


新しくオランウータン村になってからゲタン族長の家は

村のほぼ中心の少し大きめの家に住んでいる。


本当は息子1人と夫婦の3人家族なのだが、

息子のゲフンは今、行方不明なのだ。


セイムは行方不明の原因を知ってはいるが、居場所は知らない。

本当にあの日以来1度も会っていないのだ。

というか、あの日以来、村人も誰一人としてゲフンの姿をみかけた者はいない。


「風になっちまったんだ・・・アイツは風に・・・・

その前にアイツは実在していたのか?全ては幻だったのではないか・・・」

そんな声も聞こえだしていた。


セイムは思う。本当にほんとーーーに会いたくないけど、

また会える日がくるのだろうか、彼と・・・・

そんな思いを抱きながら、その父親であるゲタンに会う。


ゲタンは昼食を食べていた。しかし心ここにあらずといった感じで、

ぼーっとして食べ物を口に運ぶだけの作業を繰り返していた。


「ゲタンさん」

セイムが声をかけても気づかないようだ。


「ゲタンさん、聞こえてるか?」

エメリがゲタンに近づき耳元で呼ぶ。


「あっああ、セイムとエメリじゃないか。どうした?飯を一緒に食うか?」


「いらないけど・・・ちょっと聞きたい事があるけどいいか?」

「ジューロー様の事で」


セイムの発言でゲタンは今まで惚けていた顔が、真面目な顔つきになる。


「何だ?ジューローがどうかしたか。」


「ゲタンさんはどうしてジューロー様があの日、村を出ていくと知ったのですか?」


「ああ、確か1週間前からある噂が耳に入ってな。初めはわしも全く信じておらんかった。毎日のジジイの行動をみてもそんな素振りが全くなかったしな。」


確かに1週間前ぐらいからだ、ジューロー様が村を出ていくのではないか?

という噂が広まりだしたのは。


初めは私たちの誰もそんな事を信じていなかったのだ。


今までも、これからもずっとジューロー様はこの森とともに生きると。

私たちは、それが当たり前だと信じて疑った事などなかったのだから。


「その噂の信憑性が高まったのは3日前からか、オランウータン村としてネルヌル族の村が合併し、再出発する日の宴の夜に出ていくと具体的な噂が流れ出してからだな・・」

ゲタンも記憶を新たに思い起こす。


その正確な日付とともに、ジューローには森の民だけでなく、

他の地域、ゆくゆくは王城も含めたこの世界を導く使命があるのだと

もっともらしい理由と一緒に。


ゲタン、セイム、エメリもその噂を聞いた時は今まで信じていなかった噂も、

あながち嘘ではないのかもという思いが混ざった。


なぜなら、アルーン村へ遠征した10日間だけでも盗賊を改心させ、

油の精製という仕事という間柄ではあるものの縁を結び、

名前だけだとはいえアルーン村の族長にもなり、新たな交易ルートまで

構築してしまったのだ。たった10日間だけで・・・・・。


その後にジューローが森を去るという噂が流れ、そこまでの才を森の中だけで埋もれさせてしまってよいのか、独占してよいのか・・・という思いを皆抱いたようだ。


結局その判断はジューロー自信の判断に任される事になったのだ。


だからこそ、みんな宴の後自分の家を出るジューローを見たとき、覚悟を決めたのだ。


ジューローの好きなように・・・と。


しかし、もし本当はジューローにそんな気がなく、

私たちの早とちりだとしたら・・・。


本当は村を出て行く気などなかったのに、

私たちが追い出してしまったのだとしたら・・・。


本当ならジューロー様に直接聞ければよかったのだが、怖かったのだ。

たとえ本当に出ていく事をジューロー様が黙っていたとしても

そういった嘘や、態度などは見破れてしまうものだから・・・。


だから怖くて誰も聞けなかったのだ。


「そういえば、あの時おれが何度も制止したが、ジューローはトイレに起きただけだといってたな・・・」


そうなのだ、最初は出ていくところを見つかったので、

ごまかすために言った事だと思っていたが、

本当にあの深夜にトイレに行きたくて起きたのなら、眠たそうな顔はうなづける。

つじつまがあってしまうのだ。


それよりもなにより・・・・


「あのジューローが背負っていた袋何が入っていたのだろう・・・・」

エメリも疑問に思っていたのだろう。口に出して言う。


ジューロー様が旅立つと思っていたから、てっきり旅支度が入っていると思っていたのだが・・・・部屋を見た限り無くなっている物がないらしい・・・

食料も家に保管されたままらしい。他で調達していたらその限りではないが・・・

とにかくあの日にジューロー様が旅立つ要素が無いのだ・・・あの噂以外は・・・


「ゲタンさんは誰からその噂を聞かれましたか?」


「確か・・・わしは2回ともマブシから聞いたと思う。」


とりあえず私たちは、今からその噂の出処を順にたどっていこうと思う。


※※※※


わしは、セイムとエメリ、二人の背中を見送りながら思った。

今回は思ったより笑いがはさめなかったな・・・・大丈夫だろうか?と。


次回も笑いが少なかったら読者が退屈なんじゃないだろうかと・・・

心配になったのでとりあえず今、俺はセイムとエメリを見送りながら、

そっとズボンを脱いだ。


ズボンをくるぶしあたりまでそっと脱いだ。


今、二人に振り向かれたら族長人生が終わる・・・・

終わってしまうかもしれないという強いスリルを感じながら、

そっと脱いだ。


そんなケツ丸だしの俺を、後ろからそっと見守る妻の優しさに気づかないまま・・・・




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