第195話 ジューロー出る
新しい村“オランウータン”で過ごす初めての夜。
飲めや食えやの宴会で大騒ぎをして、月が中天を過ぎた頃お開きになった。
皆が寝静まった深夜、1人寝ていたジューローはむくりと起き上がった。
「う~~飲み過ぎたか・・・トイレが近いのう。」
ぐっすり寝ていたのだが、パンパンになった膀胱に負け起きたのだった。
「ついでに、散らかしたゴミも捨てにいくか・・・・」
部屋の隅にゴミをまとめて入れてあった袋をかつぎ、
家の外にあるトイレへ行こうと、玄関を出る。
すると、玄関出てすぐ横に人影が・・・・・
「おわっ、びっくりした!・・・何じゃゲタンか・・驚かせるな。
わしゃビビリでチビリなんじゃから・・心臓止まるかとおもったぞい。
どうした?今のダジャレ笑ってもいいんじゃぞ。」
わしが寝起きの軽口をたたいておるのにピクリとも笑わん。
失礼な奴じゃ!
「こんな深夜に荷物を持ってどこにいくんだ?」
「えっああこれか、これは・・・」
「まあいい!ちょっと歩こうか。」
「いや、わしトイレに・・・」
「言わんでええ!ちょっと歩こうか。」
「お、おう・・」
ゲタンのシリアスな雰囲気に押され、尿意を引っ込めて一緒に歩く。
するとゲタンが歩きながら話出す。
「ジジイ、覚えてるか?初めて俺と会った時のことを。
外見は普通のジイさんなんじゃが、なんというか雰囲気がただならぬオーラを
かもしだしていてな・・・何者だって警戒してたな、あの時は。」
「ああ、覚えておるよ。スブムの家の前の大きな石の上に乗っておって、
飛び降りた時に足をくじいたこともな。あの時は笑いをこらえるのに必至
じゃったぞ。」
「うるさい!忘れろそんな事は。そういえばあの時に呪いカカカをジジイに
紹介してもらったか・・・押し付けただけじゃろうジジイ。」
「親切心じゃ。親心じゃよ。」
「うそつけ、ひどい目にあったわ。最初から薬草をくれれば良かったのに。」
わしらは歩きながら、今までにあったいろんな事を話あった。
まあ、ほとんどが笑い話じゃ。
「塩じいと一緒に四天王と呼ばれた事もあったのう。ハゲ四天王・・・・・」
「俺は違います~~~ハゲていません~~~。」
「まだ言い張るのか、お前はハゲてるよ~。ゲタンはハゲてるよ~。」
優しく、諭すように言ってあげた。
「へべれけヨコチン相撲のマブシの乱入や、アゴスの乱入。ラ・メーンとの
戦いもあったな。」
「・・・・そうじゃな・・・迷惑をかけたわい。」
わしはしみじみと言う。
「アルーン村から帰ってきた時はさすがのわしも驚いたぞ。
アゴが外れるかと思ったわ。村長に会いに言っただけだと思ったら、
帰ってくるなり“わし村長になったのじゃ”というから
とうとうボケが進行してしまったのんだ・・・と思ったぐらいじゃ。」
「勝手にボケさすな!なりゆきじゃ、みんな、なりゆきじゃよ。」
「あほか!ただのなりゆきなんかで、村長になって悪名高い盗賊ソウザ一味を
ぶっつぶして、カーン一味を仲間にひきいれるなんぞ、並のジジイにできるか!」
「・・・・そうじゃな。やっぱりわしの溢れ出んばかりのカリスマ性が
漏れ出しておるのじゃろうな・・・尿道から。」
「そこから?そこから溢れてるの?カリスマ性。・・・嫌なカリスマ性だな・・」
ちなみに膀胱もパンパンじゃから、このまま行くとおしっこも溢れちゃうよ。
「のう、ちょっとわしトイレに・・・」
と話だそうとしたら、急にゲタンが止まって、先程とは違い真剣な顔で話出す。
「ジジイには色々なことを教えてもらった。薬草、豆、ドングリパン、てりやきなどなど食事の改善から始まって、隠れん坊、鬼ごっこ、ジャンケンなど文化面もそうだ。それ以外にも道具だったり、学校だったり本当に色々な事を教えてくれたな。」
えっ何?急にまとめだしたけど・・・思い出から始まって急にまとめだしたけど・・
わし死ぬの?もしかして癌なのか・・・・・
それともゲタンが死ぬのか?
「そして最後にこの新しい村、俺達森の民の新しい村“オランウータン”を残してくれた事・・・・・・行くんだろジジイ?」
「は?えっ?どこに?」
トイレにはずっと行きたかったのじゃが・・・どういう事?
「今日新しい村が完成したのを見届けてから、
この村を出て行くつもりだったのだろう?」
悲しい顔をしてわしを見据えるゲタン。
「ちょ、ちょっと待つのじゃ・・わしは・・」
「いい、いい!何も言わんでいい!わかってる。わかってるから、俺達全員・・」
「はっ?全員・・・って」
ゲタンが合図を送ると、今まで暗かった辺りに急に松明が掲げられあたりを照らす。両脇に森の民が並び、わしとゲタンの前に飛行機の滑走路のような道が村人の灯りによって開かれる。
「みんなお主に感謝しておる。せめて黙って見送ろうという事になってな・・」
松明に照らされた顔を見る。
みんな見知った顔ばかりじゃ・・・わざわざ皆、見送りに来てくれたのか・・・・
・・・いや、わし全然出てく気ないよ。これっぽっちもないよ。
考えた事もないよ! こんな、しんみりしてる場合じゃないよ!
と、いきなりの演出にあたふた、尿意にモジモジしておるとみんなが
1人づつお別れの言葉をくれる。
「ジューロー様、このジョコ!離れても心は一緒です。」
「ジューロー様、おれ、おれ・・・ありがとうございました。」マブシじゃ。
「ジューロー様、またすぐに戻ってきてくれるよね?」レイクじゃ。
「・・・・・・・・おれも付いていく・・・邪魔か?」リューゴスじゃ。
「ばかやろう、黙って行くなんて水臭いじゃねーか・・帰ってこいよ」セコスじゃ。
「ジューロー様、これからも夫婦仲良くくらします」スブム夫妻じゃ。
まだ続くのか?
「美人塩は責任をもって、わしが・・わしの意思を次ぐものたちが・・」塩ジイじゃ。
「おかげ様で良き夫と巡り会えました。あなたの事忘れません。」チチパさんじゃ。
「最近胃が悪くて・・でもこんな時にスクラル○ート。良く効きます!」誰じゃ?
「ジューロー様、ありがとう!ありがとう!」最後はまとめてじゃ。
そして最後に現れた2人・・・セイムさんとエメリさんじゃ。
「あの・・ジューロー様・・わたし・・」
「ジジイ、あのよ・・あの・・・」
二人とも目がうるうるして涙ぐんでおる。そんな二人を見てもらい泣きしそうじゃ。
下もプルプルしだして号泣しそうじゃ。
お互い・・3人とも黙ってしまったこの状況をゲタンが明るく送り出そうと声をかける。
「ジジイ、俺達の事は気にするな!お前のやりたい事、やらなければいけない事を
思う存分やってこい!俺達はいつまでもジジイを待っているぞ。」
松明の灯りに導かれていつのまにか、村の入口に着いてしまった。
後はわしが送りだされるばかりじゃ。
・・・・・・どうしてこうなった。
わしはトイレに行きたかっただけのに・・・・
ただ、ゴミを捨てようとゴミの入った袋を持っていただけのに・・・
今、わしは万感の思いを抱かせられ、村を追い出されようとしている所なのじゃ・・・
しかも、あるのは膀胱にパンパン、ナミナミとたまった尿と
残飯や、ゴミがパンパンに詰まったゴミ袋のみで
村を追い出されようとしている所なのじゃ・・・
わしは尿漏れも辞さない覚悟で思いっきり走り出した。
村の外へと走り出した。
わしの後ろからいつまでも、いつまでも続く励ましの言葉、
お礼の言葉には一切振り向きもせずに一身腐乱に走り出したのじゃ。
中には別れを惜しんで、こっちに走り出してくる者もいたが、
全速力ダッシュで振り切ったのじゃ。
そして誰もいないことを確認して立ち止まり、わしは出した。
泣きながら全てを出した。思いの丈を・・何とも言えない感情を・・・
そして・・尿を。
2ℓは出た。




