第190話 ラ・メーン三度
あれから2カ月、だいたい60日が経った。
明日は念願のネル族、ヌル族の新しい村“オランウータン”(わしが命名。森の番人という意味合いでつけたのじゃ。)が始まる日じゃ。
始まるという言い方はおかしいか。
機能する、といった表現が正しいのかのう。
もうあらかたセイムさん、セコス、スブム、セレブ夫妻などネル族の住人も
移住してきておる。
すべて明日から始まるのじゃ。
今は夜10:00ぐらいじゃろうか?
わしは村から少し離れたオランウータン村へと続く道の脇にある
空から青い月の光が降り注ぐ、少し広めの空き地のような所におる。
目の前には15、16歳ぐらいの少年がわしと対峙しておるのじゃ。
先程、わしが捕まえてこの空き地に誘導したのじゃ。
「おジイさん、何するの?自分何もしてないのに・・何か用?」
「こんばんわ!」
大きい声で言ってみた!
「・・・用がないから行くよ、おジイさん。」
「はい、大きな声で!こんばんわ!」
しつこく大きい声で言ってみた!
「・・・ぼけちゃったのかな?おジイさん。お大事に・・・」
「・・・・ボケてないぞ、ラ・メーン」
立ち止まった少年は向こうを向いたまましゃべる。
「ら・め・・・何?それ?知らないなぁ」
「えっそうなんじゃ?違ったの?そうかぁ・・・
わしも歳かのう、間違えちゃうなんて。」
「そうみたいだね。それじゃあボクはこれで・・・・」
「そうかぁ・・・まあ間違っててもしょうがない。今からわしは
お前をぼっこぼこにして森へはいかせんよ。ごめんなのじゃ!」
「・・・・えらい横暴だな・・・それは。」
「あれ、さっきと声が変わってない?少年の演技は?
なぁラ・メーン」
振り返った少年は・・・先程の幼い顔つきではなく、急に憤怒の表情を見せた。
「何でわかったんだ?ジューロー。」
「簡単じゃ、明日はわしらの村が始まる日。そんな日をぐっちゃぐちゃにしたいと
思わんわけないじゃろうからのう、性格の歪んだお主なら。」
「おお、そうさ、しかし残念・・・」
「あっそうそう、もちろんわし1人だけではなく、村を中心に半径5kmに渡って
森の民の屈強な男達が包囲しておるので、お前さんの仲間?
どうせ大勢で来ておるじゃろう、荒くれ者たちもとっくに退治されておると
おもうぞ。ほら。」
わしが指差す方向には火の煙が立ち昇っておる。
仲間が現れ、退治した場合に合図の狼煙をあげるように指示しておいたからじゃ。
「どうせ今度は広範囲に火でもつけようと思ったのか?」
全部見破られたのが悔しかったのか、唇を噛み締め肩を震わせる・・・
「それにしても、久しぶりじゃな。前回の登場が137話だから53話ぶりじゃ。」
「何の事だ?」
「いや、こちらの話じゃが、それぐらい久しぶりだという事じゃ。」
今まで、親の仇か!っていう顔でわしの事を睨み続けたラ・メーンが
ふと顔をゆるめ、やれやれ、というようなジェスチャーをみせた。
「ふ~~っ、今回は完敗だな。こちらの手を読まれていたのだからな。」
「おお、そうか。戦わずに物事が済むことはありがたいのう。」
「だから奥の手を出すことにするよ。」
「えっ、争うの?やっぱり争うの?」
「良く考えたら、他の誰にも邪魔の入らない状態でジューローと1対1で戦えるのだ。
こっちには好都合だったな。」
「やだな~~争うの。もう10時過ぎてるし・・・夜更かしすると肌が荒れるし・・・
家門限が7時だから早く帰らないといけないし・・・。」
「うっせ!女子か!60歳超えてるジジイのくせに、女子か!」
おっ珍しくラ・メーンがツッコンでくれたよかった。
「そうそう、前回お前にこっぴどくやられたからな・・・・
今回はこっちも少しだけ枷を外させてもらったよ・・・フフフッ」
「なに?そんな事ができるのか。」
「俺様を誰だと思っているんだ。クッククク、やられっぱなしでは
俺の気がすまね~からな。ちょっとしたレベルアップという事だ。」
わしは少し後ずさる・・・
「おい、ジューロー俺の目をみろ!」
「嫌じゃ、あれじゃろ?目を見ると操られるとかいうんじゃろ?」
「えっ違う、そういんじゃなくて、そんな能力じゃないから見てみ、ねっ」
「嫌じゃ~~、そう言ってわしを操って、エッチな事するんじゃろう。
エッチな命令をするんじゃろ。」
「そ、そんな事するわけないだろう!アホか!ジジイ。」
「今、どもったのじゃ。図星で慌てたのじゃろう。」
「違う意味で慌てたんだ!クソジジイが!」
「ほれ、すぐ怒る。見ても見なくても怒るんじゃろ?じゃったら見ないほうが・・」
「いや、怒らないから。怒らないから見て?ね、ね?ほら、見て?」
わしは両手で顔を覆いながら、いやいやする。
自分の目を見させようとして、その覆った手を両手で剥がそうするラ・メーン。
くんずほぐれず
見ろ、いや、いいから、いやだ、ちょっとでいいから、助けて~~
とのやり取りをしていたら・・・・
「・・・何イチャついてるんですか?」
「「あっ・・・・」」
自分の持ち場の仕事が終わって駆けつけてくれたマブシに
がっつり見られてしもうた。
お互いの手を握っていやいや、いちゃいちゃしているのを見られてしもうた・・・。
いや、誤解じゃ・・いちゃいちゃではないんじゃよ。
「大丈夫っす!おれ・・理解があるほうですから!
ただ・・・ちょっといきなりでビックリしたっていうか・・・誰にもいいません!」
マブシは人差し指で鼻の下をこする、古いジェスチャーをして
マブシなりの気遣いを見せた。
そんな優しさはいらん!
お互いの気まずさから、わしはラ・メーンと手を離しモジモジした・・・・
女子か!
付き合いたての女子か!




