第187話 何者かとの対話
【それがあなたの夢ですか】
わしは目を疑う。
先程の惨状など全くなかった事にされた空間ーーー
と呼べばよいのか?
体育館程度のガランとした部屋じゃ。
何もない。
目の前にいるのは、あのお地蔵さんのような子どもではなく。
豪華な袈裟のような衣裳を着た青年じゃ。
どことなくお地蔵さんの子どもが大きくなったような容姿じゃ。
【あなたのイメージにすぎませんよ】
どうやら、頭で考えたことが筒抜けらしいのう。
この空間では・・・
【こちらに座りませんか?】
どこからともなく、目の前に欧風の豪華なテーブルと椅子
オシャレなティーカップに紅茶が注がれた状態で現れる。
【どうぞ】
と、青年は自分の向いの椅子へと座るように促す。
わしは黙って指示に従う。
お互いに目の前のお茶をすすりながら沈黙する。
これを機に疑問を聞いてみようかのう。
あなたはだれじゃ?神か?
【みなさん、そうおっしゃいますね。“あなたは神か”と・・】
違うのか?
【わたしは神ではありません。】
それでは、あなたは誰じゃ?
【もったいぶるわけではありませんが、わたしは何者でもないのです】
何者ではない? 何か言葉遊びをしておるようじゃのう。
【すみません。この言語でわかりやすく説明しているつもりなのですが・・・
どうしても言葉の隔たりがおき、表現しきれないのです】
そこを無理無理言うとしたら?
ちょっと無茶ぶりを言ってみた。
【ん~~資格者が一番近いですかね。】
資格者・・・何の資格じゃと聞けば延々と続くことになりそうじゃ。
話を変えるがラ・メーンとお主は繋がっておるのか?
【ラ・メーン・・・ああ、モベの事ですね。そんな名を名乗っているのですか。
繋がっているといえば繋がっています。ちなみにミチとミカも私と繋がっています。】
えっそーなのか?
それではラ・メーンとミチとミカも繋がっておるのか?
もし繋がっておったのならとんだ茶番じゃがな・・聞いておきたいのだ。
【もちろん知らないと思いますよ。あくまでも私と繋がっているというだけで。】
ラ・メーンとあなたが繋がっておるのなら、わしを、わしの仲間を害する事を
止めさせてもらえんのじゃろうか?
【モベはある使命を持って動いています。
あなたを害する事が必ずしもモベにとっての悪ではありません。
この世界が、必ずしも善と悪に分けられないように、
今この世界が、あなたの物差しで動いてはいないのと一緒です。】
ラ・メーンがわしを害するのも、仲間を害するのもあなたの手の上ということかな?
若者はティーカーップを持ち上げ中の液体を飲む振りをする。
わしの質問には答えない。
ひといきついたのか、ティーカップを机の上に置き、立ち上がる。
そしてテーブルを迂回しながらゆっくりとわしに近寄る。
【あなたに提案があります。】
何じゃ?わしにとっての吉報か?良くない話ならきかんぞ!
【実はあなたも資格者なのです】
何?わしが資格者?わしもあんたの仲間ということか?
【仲間・・・・という意味ではないです。そのままの意味です。】
何の資格なのじゃ?刺客の間違いじゃなくて?
【ちなみにモブ、ミカ、ミチも資格者ですよ。彼ら以外にもたくさんいます。】
え~~~~わしが、あいつらと一緒じゃと・・何か嫌じゃ。
【ただし皆、無資格者です。あなただけですよ有資格者は。】
有無があるのか・・・なんか無資格者って全然すごくなさそうな響きじゃな。
【とんでもない!無資格者でもすごいことなのですよ。詳しくは省きますが、
それなりに使い道はあります。】
あまりすごさはわからんのじゃが、それじゃあ有資格者であるわしはもっとすごいのじゃろう!
【いえ、それはわかりません。】
すごくないんかい!
思わずツッコミをいれてしもうたじゃないか!
【あくまでも、資格が有るというだけで、無資格者より優れていると言う事ではないのです。】
一番聞きたいことじゃが、いったい何の資格なのじゃ?
【それは、言えません】
言えない? ここまでわしに話して、言えないでは何の為にわしはこんな所まで呼ばれたのじゃ。
【あなたは、今から決断しなければいけません。】
決断?それが言えない理由なのか。
【そうです。決断の後しかその理由を語れないしきたりになっているのです。】
そうか・・・わかった。それではその決断とは?
【これを見てください】
言うと同時に足下に宇宙が映る。
いや、実際にわしが宇宙に浮かんでいるように感じる。
【あれが惑星ドリスです】
な・・・に・・・
どうなっておるのじゃあれは・・・
6面?いや、4面なのか・・・
あまりの非常識にわしの頭がこんがらがってきた。
なんと、今まで星といえば球体を信じて疑わなかったのじゃが、
惑星ドリスじゃと言われた星は
サイコロのような6面体なのじゃが、横がないのじゃ。
もちろん空洞ということはないのじゃが、ドス黒くなってみえない。
左右の面が黒くなっていて、一直線に繋がっている4面に海、陸地が繋がっておるのじゃ。
どういう原理かまったくわからんし、信じられん。
【あの4面体の1面が、あなたの暮らしていた地域です。】
このようになっていたのか・・・改めて真上から見るとすごいのう。
ただただ驚くばかりじゃ。
【決断というのは簡単な事です。
今まで通りに、あの地でジューローとして生きるか、
次の階段にあがり、永遠の時を生きるか】
決断とはその2択でよいのか?
【はい、いつまでも考えてもらっても構いません。わたしも永遠の時を生きて
いるのですから。待つのは苦ではありません。】
今まで通りに、あの地でジューローとして生きる事にするわ。
【・・・早いですね。】
悩むことはないじゃろう。
わしにとっては1択じゃ。
【人というのは永遠の時を選ぶものだと思いました。】
もちろん、永遠の時も魅力的じゃが、
今のわしに森の民の生活ほど魅力的なものはない。
【・・わかりました。】
宇宙空間が消え、元の部屋に戻された。
【最後に一言、忠告です。】
何じゃ、気前が良いのう。
【あなたが、ここに来る前にみた夢。あれは現実です。】
なに?あれが現実だと・・・これから起るというのか・・・
【これから起こりうる事が、あなたの夢となって現れたのです。】
ラ・メーンか? 防ぐ事はできないのか?
【誰かはわかりません。モベかもしれないし、違うかもしれません。】
いままで目の前にいた若者は・・・若者の姿をした何者かは
一切口を開かずにわしの頭に直接言葉が流れ込んでいた。
もちろん表情も一切ないのじゃ。
わしのイメージじゃと言っておったのじゃが・・本当なのじゃろうか?
そんな彼が最後にわしに投げかけた言葉
その言葉を言い終わった時に、彼は・・・・初めて笑ったのじゃ。
【防ぐことができるか、できないかは・・・・あなた次第です】




