第186話 夢(すべて)
わしは数日間カーン一味と寝食を共にし、
これからの事を含めたすべての案件をカーンに押しつけ・・
いや、一任して森の村へと帰路につく。
わしはダチョウ1頭で、いつものように街道を歩く。
ゆっくり歩いておった。
今回の遠征は、日にちにするとだいたい10日間・・・
いろんな事があったのじゃ。
この旅のわしの数々の武勇伝を聞いたら、
ゲタン、セコス、リューゴス、ジョコ、マブシも悔しがるじゃろうな。
セイムさん、エメリさんと会うのも楽しみじゃわい。
わしは森へと向かう。ダチョウに乗り、1人で向かう。
何時間も1人で向かう。
すると、新しい森の民の入口が先の方に見えた。
わしは急く気持ちを抑えダチョウを走らす。
おかしい・・・何かおかしい・・・・・
それが何か?と問われてもわからないのじゃが・・・・
ダチョウが走る早さに反比例して、わしの気持ちは不安になる。
そんな気持ちを抑えつつ、森の入口に・・・・
速度を抑え今は歩いておる。
森の入口から、わしの家まで・・・・・・
無音じゃ・・・
何も聞こえない・・・
木々も揺らいでおるのじゃが、無音じゃ・・・
そして肝心の村には・・・
ーーーーーーーー誰もいない。
呼びかけるが、それに応えるものはいない・・・・
わしの家に着き、ダチョウを降りる。
人の気配はしないが、わしの家に入る。
わしの部屋じゃ。
10日前に出たまま、汚いままじゃ。
ふと、窓を見るとーーーーーーーーーーーーーーー
外が真っ赤に燃えておる。
町中が火に包まれたかのように真っ赤じゃ。
わしは慌てて外に飛び出す。
すると、そこにはーーーーーーーーーーーーーー
村全体が真っ赤に染め上がって、燃え盛る炎に包まれていた。
樹齢何百年は経るであろう大木のはるか上まで燃え盛る炎に・・・・
それよりなによりも、わしが驚愕したのは・・・
森の民が倒れておる。
何人も何人もわしの目の前で折り重なるようにして
森の民が倒れておるのじゃ。
わしは目の前の光景が信じられず、
何かを叫び、走り出した。
何かを探しに走り出した。
走りながらも、ふと仰向けに倒れている森の民を見ると見知った顔が・・
スブム、セレブ、テヘペロ隊の子ども達・・・・ネル族の皆・・
赤い三連星、チチパさん、イカリ長介、テヘペロ隊の子ども達・・・・
ヌル族の皆・・
皆、仰向けに倒れて息をしておらん・・・・
なぜじゃ・・・・・
わしは立ちどまった。
すると、目の前に積み上げられた森の民の山がくずれる。
そのくずれた山の中には・・・
「ジョコ! リューゴス! マブシ! セコス! レイク! リイナ!」
思わず叫ぶ!
さらにその奥には・・・・・
「ゲタン! 族長のお前まで・・・・」
わしはその亡がらの前でひざまずき、泣き叫ぶ・・・
なんやかんや言って、わしはやはりゲタンを強く信頼しておったのじゃな。
ゲタンなら何とかしてくれるだろう。
ゲタンならわしがいなくてもうまくやれるだろう。と・・・
しばらく呆然と、ひざまずいたままのわしじゃったが
まだ、最後の希望だけが、わしの心支えておったのじゃ。
その時までは・・・・・・・・・・
いきなり燃え盛る炎が衰え、急に辺りが開ける。
それと共に、目の前に積み上げられた、森の民も、木も、家も何もなくなった。
そして開かれた先に見えるものはーーーーーーーーーーーーーー
2本の棒じゃ・・・
「まさか・・・・」
その2本の棒がゆっくりとわしの方に迫る。
「まさか、まさか・・・・」
手前100mも近づくとはっきりと見えるようになる。
「まさか、まさか、まさか・・・・」
2本の棒はわしの5m手前で止まる。
「うそじゃ~~~~~~~~~~~っっ」
わしは力の限り泣き叫ぶ!
その光景を見てわしは力の限り泣き叫ぶ!
ーーーーその木の棒には人が張りつけられていた。
1人は胸まで伸びた黒い髪の女性で、誰にでも優しく接する心美しい娘じゃ。
1人は肩まで伸びた黒い髪の女性で、いつも文句ばかり言うが優しい娘じゃ。
わしは2人の名を叫び、無我夢中でそれを掴もうと手を伸ばす。
しかし届かない。
どんどん遠ざかる。
わしの手の届かない所に。
2人はどんどん遠ざかる。
《あと少しだけ・・・・》
《あと少しだけ・・・・強さが・・》
《あと少しだけ・・・・わしに皆を守る強さが・・・》
あと少しだけ・・・・
【それがあなたの夢ですか?】




