第162話 泥棒
結局その日は村の人との交流で夜遅くまで、飲みまくった。
皆、へべれけになりオムラの家で雑魚寝になって寝た。
そして、村全体が寝静まった深夜・・・
「くくくっみんな寝静まったようだな。」
「はい、全員寝ております。」
「よし、じゃあいただくとするか。」
青い月明かりの下、マスクのように布を口に巻いた男達4人が
オムラの家の裏手につないであるカバ、ダチョウのもとに忍び足で近づく。
彼らの目的は・・・荷車に積んである品物だ。
さすがに、素で置いてあるわけではなく
何重にも布で縛って外れにくいようにしてある。
初めは、その布や紐を解こうと四苦八苦していたが、
途中で面倒くさくなったのか、刃物でズタズタに切り裂こうとした
その時―
「おい、それ以上お前の汚い手で触れるんじゃねーぞ」
ちょうど月灯りが、家の陰で見えない暗がりからその男は現れた。
男達は驚いた。全く気配がしなかったからだ。
いくら暗いといっても、目と鼻の先にある暗がりに人の気配を
感じないとは・・・・
「おとなしく捕まればひどい目には合わさない。
しかし抵抗すれば・・・・容赦しない。」
頭に布を巻いた男は、するどい目つきで、男達に忠告をする。
しかし、男達はその忠告を聞くやいなや、二手に別れて走りだした。
どちらかが囮になってでも、片方を逃す。捕まった方は運が悪いだけ。
それが男達の暗黙のルールなのだ。
逃げる時チラと見ると、先程の男は反対の組を追ったようだ・・・
しかし、油断はできない。他の仲間のいる安全地帯に逃げ込むまでは・・
すると、背後から近づく気配が・・・
気づいた時には時すでに遅し、
自分たちは地面に伏していた。一緒に逃げたもう1人も・・・
なす術もなく、あっという間にだ。
「逃げられると思ったのか?」
俺達を捕まえた男は・・先ほどの頭に布を巻いた男ではなかった。
くそ、仲間がいたのか。
そして俺たちは、先ほど品物を盗もうとした家に縛られ、連れられてきた。
そこには縛られて地べたに座る仲間2人もいた。
しこたま殴られたようだ・・・体中にアザが出来てぐったりしている。
それを見た仲間の男が、頭に布を巻いた男に声をかける。
「やりすぎじゃないか?お前なら無傷で捕まえられるだろう?リューゴス」
「・・・・・最後のチャンスを与えただけ。」
「チャンス?」
「オレに勝ったら逃がす。負けたら捕まえる。」
「・・・・ボッコボコだな。」
「・・・手加減はした。ジョコは?」
「大人しく従ってくれたよ。物わかりの良い奴達だ!」
何が!最初からこちらが手出し出来ないようにあっという間にねじふせておいて・・。
まあ、助かったけど・・・。
もし抵抗していたら・・俺達もあれ以上にボッコボコにされれいただろう。
それぐらいの力の差を感じた。
「よし、じゃあ寝るか。あと少しで夜が明けるけど」
「・・・・・・おやすみ」
俺達を縛ったまま放置して、男達は家に入っていった。
※※※※
朝になった・・・・
なぜ逃げなかったって?
ぐるぐる巻きだから・・・・
も~~う縄でぐるんぐるんに巻かれているから。
手足どころか、コマのように自由が全くきかないのだ。
しかも足に何かおもりのようなものも・・・・ひどっ!
すると家から60歳ぐらいのジジイが出てきた。
チャンスだ。このジイさんの同情をあおって縄をほどいてもらおう。
「ジイさん、ジイさん。」
声をかけるが全く反応がない。目の前にいるのに。
チクショウ!まさかボケているジジイだったか・・・・最悪だ。
「ジイさん、こっちだ、見えてる?オレ」
おっこっちを向いた。しかし声はすれど、見えてないのかキョロキョロする。
しまった、もう目が見えないジジイだったのか。
「ジイさん、声なるほうへ、ジジイ!ジジイ!ハゲジジイ!」
ドゴッ
ジジイが俺の腹にキックしてきた・・・
「誰がハゲジジイじゃ!」
鬼の形相だ・・って聞こえてるじゃん。
「ジイさん、よかった見えてるな。この縄をはずしてくれないか?」
「ほう、どうしたのじゃ?こんな縄だらけになって・・」
「いや・・・ちょっとお楽しみ中にエスカレートしちゃって・・・
嫁さんがこれなもんで・・・」
ドゴッ
ジジイが俺の腹にキックしてきた・・・
「そんなリア充なんぞ、簀巻きにして川に沈めればよいのじゃ!」
こわっ、なんていう恐いことを言うんだジジイ!
「うそうそ、ちょっと・・そうだ4人で遊んでたらぐるぐるになっちゃて
昨日からこのままで困ってたんだ。はずしてくれない?」
「そうか・・・それは困ったのう・・じゃあ待っておれ、刃物を探してくるからな。」
「ああ頼むぜ、できるだけ早くな!ジイさん」
「まかせておけ、亀のように急ぐからの!」
「いや、それ、全然急いでないから!急いで~~~~」
ヨボヨボと家の中に入っていく。
大丈夫かあのジジイ。いい笑顔で言ってたけど、ボケてるな。
だが、これで少しは希望が出てきた。手だけでも自由になればなんとかなる。
・・・10分、20分たっても出て来ない・・あのジジイ!
と、絶望しかけたその時、
あっ出てきた、やっと出てきた。
「ジイさん、ジイさん、遅かったじゃねーか・・どうし・・・」
めっちゃ口のまわり汚れてる。
がっつり何か食べた後が付いてる。
ジジイ、ものすんごい家でくつろいでるじゃね~~~~か。
腹立つわ~~~~。
「いや~~すまん。今まで全力で刃物を探したのじゃが全然見つからなくてのう」
うそつけ~~~~~~。
全力でツッコミたい。このジジイに全力でツッコミたいわ~~~。
しかし我慢だ。ここで怒ってはいかん。台無しになる。
「もうちょっと、もうちょっと探してみて。ねっお願い。」
「わしじゃわからんから、他の者呼んでこようかのう」
「やめてやめて他の人は呼ばないで! おれはジイさんに頼みたいんだ。
その、ジイさんは昔のおれの亡くなったジイちゃんに似てて・・・
だから他の人は呼ばずにジイさん頼まれてくれないか。俺の事を孫だと思って・・」
「誰が孫か~~~!」ジイさん急に怒り出した。
「なんじゃ、お前は大泉○郎さんの孫か!そうじゃないじゃろ?誰の孫じゃ!」
いきなりジイさん怒りだした。
引くわ~~~このジイさんの沸点がよくわからん。わけわからんわ~~。
で、大泉逸○って誰よ。
「あっ間違えた、おれの亡くなった父さんに似ているから。ねっ探してみて。」
「最初っからそう言えばよいのじゃ。ではすぐに探してくるから待っていろよ、息子よ。」
と、またヨボヨボと家の中に入っていく。
まただよ・・・10分、20分たっても出て来ない・・ジジイのやろう!
あっ、やっと出てきた。
「ジイさん待ったぜ~~刃物は・・・」
おれは絶句した。
なぜならジジイが持っていた物は・・・・




