第135話 スブムセレブ
久しぶりにネル族に帰ったのじゃ。
最近はヌル族の方が中心の生活になってしまったので本当にひさしぶりじゃ。
何といってもセイムさんと会えるのが楽しみじゃ。
毎日毎日むっさい男衆に囲まれての仕事ばかりじゃから
本当にわしにとっての一時の清涼剤じゃ。
「ただいまーなのじゃ」
スブムの家の扉を開けて声をかけるが返事がない。
「誰もおらんのかー」
といい奥の部屋に行くと・・・・
部屋の隅に2人が固まって座っておる。
暗がりで見づらいのじゃが・・・
元族長スブムと奥さんのセレブさんか?
「どうしたのじゃ?そんな隅っこに座って・・」
「・・・・・・・・・」
「ん~~何かあったのか?」
「・・・・・・でしょ」
「はい?ちょっと聞こえづらいのじゃが・・・・」
「どうせ、私たちなんて・・・・・でしょ。」
「なんじゃ、もっと大きい声で言わんかい!ほれ!」
「「どうぜ、わだじだちなんで、いでもいなぐでも
いいんでじょ~~~~~~~!!」」
と夫婦揃って言われた。
ものすんごい悲壮感漂った顔で言われて
わしも思わず後ずさった・・・・。
「どうせ私たち夫婦なんて・・・新しい村に移住せずに、このままこの家と共に
朽ちていけばいいんだわ。そうよきっとそうよ。」
・・・奥さんちょっと、なにその卑屈な発言。
「そうだ、私たち夫婦はジューロー殿に見捨てられた身。
一緒に朽ちていこうセレブ!」
・・・スブムまで何じゃ、その絶望夫婦設定は。
「何じゃ二人ともどうしたのじゃ?悩み事ならわしに相談してみい。ん?」
二人ともジト~~~~とわしを細めで見ながら訴える。
「本当に覚えていないんですか?ジューロー殿、いやジューロー」
呼び捨てじゃ!わしを呼び捨てなんじゃ・・恐い。
「あっああ・・・あの件じゃな。
スブムの残したドングリパンをわしが食べた事じゃな。」
「ちっが~~~~~う。そんな事じゃね~よ。ぺっ」
うわ~~ツバ吐いたよ、この人・・・恐い。
「ごめんごめん、セレブさんが寝てる時に、
目に起きてる風の落書きをした事かな?」
「・・・・・・・覚えてないのかよ、ぺっ」
うわ~~夫婦揃ってツバ吐いたよ、・・・恐い。
「何じゃ何でそんなにやさぐれておるのじゃ。
言ってくれんとわからんのじゃジジイには。」
「本当に覚えてないようですね。ちっしょうがね~な。
お前のボケた頭にわかるように言ってやるからちゃんと正座で聞けよ、
クソが~~~~。」
・・・・ものすんごいムカつく顔で言われたけど・・殴っていいか?
ちょっと調子に乗り過ぎじゃないか?舌打ちとか・・・
まあ、教えてくれるっていうから素直に正座するけどもよ・・・
「102話だよ、思い出したか?」
「102話じゃと・・ええと確か題名が・・断崖絶壁オーシャンビューじゃったか、
みんなでリゾート地に遊びに行った回じゃったな。無理矢理だけど。」
「で、思いだしたのか?んん~~~~」
スブムがわしのアゴを持ってクイっとした。
今流行のアゴクイじゃ・・・腹たつわ~~~
「わしらだけで行ったから怒っておるのか?
いや、でもセコスの夫婦水入らずじゃたし・・・」
「ちが~~~~~う。もう1回良く読んでみろや、
ちゃんと書いてあるだろう~~あ~~ん。」
アゴクイをしながらくっさい息をは~~~~~ってしてきた。くさっ
わしはコピペをしてその文書を思い出す。
“もちろんスブム、セレブ族長夫妻も来ようとしたが、途中で巻いてやったぜ!
巻いたといっても崖から落としただけじゃよ。
いや、落としたっていってもそっとじゃよ、そ~~~っと落しただけじゃ。”
あっそうじゃった、ついてきてた夫婦を崖に落としたのじゃった。
「思いだしたようだな~~。そうだよ、ジューローは俺達夫婦を崖に
突き落としたんだよ。」
「いや、付き落としたといっても、そっとじゃったんじゃよ。そっと」
「そっともクソもあるか!崖に落ちたら一緒だっつうの!
あの後、私達夫婦がどんな思いをしてここまでたどり着いたか教えてやろう。」
「そう、あの儚くも、辛い修練の日々を・・・あなた言ってあげて!」
その話を短めにダイジェストで書くとこうだったらしい。
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崖といっても2mもない、まあ斜面じゃな。
斜面を滑り降りたら川沿いでつるつるすべる浅い水にはまって、
ウォータースライダーのように下流に流されたらしい。
その下流でちょうど地球でいうアライグマのような動物に
気を失っている間にワシワシ磨かれて肌がツルツルになって奥さん大喜び!
お礼を言いつつも、今度は森の中をさまよう。
花咲く森の道→熊さんに出会う→襲われる→全力ダッシュ→熊、
穴に落ちる→埋める→逃げる
海に出る→しばらく滞在する→満喫する→帰ってくる。
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・・・全然儚くないし、辛くもないよね。
熊が穴に落ちたあと埋めてるし・・全然余裕だよね。
後半もうただの旅行になってるし。
「さっ話も聞いた事じゃし、殴っていいか?」
わしは正座をやめ立ち上がる。
「いやいやいや、大事な所はそこじゃないでしょ!
私たち夫婦が健気な、身を粉にして平身低頭で使えて来たジューロー殿に
突き落とされたショックがこのようにやさぐれさせたんでしょう。そこが大事!」
だれが平身低頭じゃ。普通に接しとったじゃろ、人聞きの悪い。
「まあ、確かにうっとうしかったからといって、
突き落としたのはわしが悪かったのう。」
「だろ~~~~、さあ謝れよ、わしらに謝れよ。」
「わしもまだまだ甘かった。それは反省する。
じゃから、ちゃんと断崖絶壁へ行こうか?
な、2mと言わずに20m級の断崖に。大丈夫じゃ、
今度は這い上がって来れぬように
重しをつけるからのう。さっ、行こうか。」
「こわ~~~その顔こわ~~~。うすら笑いがこわっ。
殺す気まんまんだ~~~。」
わしから逃げ回る2人。
しばらく逃げ回ったが疲れたのか二人して床に突っ伏す。
ぜーぜー肩を上下させながらつぶやく。
「・・・・かったんだ。」
「さびしかったんだよ~~~~~~~~~。
みんなに置いていかれて、みんなが楽しく
過ごしている日々を想像して自分達も連れて行ってほしかったんだ。」
さびしそうな顔をして訴える夫婦にわしは何も言えなくなった。
二人の肩に手を置いて、声をかける
「いや、そんなの関係ない。あれだけわしを罵ったのじゃ、さっ行こうか。」
「鬼か?あんた鬼なのか?」
「ひどい。ひど過ぎる。」
「嘘じゃ嘘。わしらは家族じゃないか。確かにあの時はすまなかたったな。
本当はセイムさんといちゃいちゃしたかったから、
邪魔なお主等を亡き者にしょうとしただけじゃ。」
「ひど!謝りながら、まあまあひどい事言ったよこのジジイ。」
「さあ、みんなと一緒にご飯食べようかのう。」
「「いえ、私たちさっき食べたばかりなので」」
「セイムさんは?レイクやリイナもいないの?」
「はいみんな出かけていないので、食事はジューロー殿1人でどうぞ。」
・・・・・・何かこう・・一人で作って、一人で食べてると
物悲しくなってくるな。
寂しすぎて誰かを突き落としたくなってくるな・・・・
「スブム、さっ行こうか?」
「いやあああああああああああああああああああ」
その日の夜スブムの家から、
悲鳴のような、動物の叫び声のような、物悲しい慟哭が聞こえてきたそうな・・




