第121話 スペード来訪
今、わしはゲタンの家の寝室にいる。
その横にはリューゴスが寝ておる・・・
また居なかったのう。
シスパと会うまではわしにべったりだったのに、
昨日今日とシスパと会う時には見かけんかった。
シスパ達が帰った後にふらっと何事もなかったように帰ってくる。
ひょっとして・・・・1人二役なのか?
だからわしの前に2人同時に顔を出さんのか。
なるほどのう。普段はリューゴスとしてわしのそばにおり、
王城の使いだということで頭の布を取ればシスパに早変わりじゃ。
なかなかやるのう・・・コイツ。
わしの好きな綾辻行人ばりのミステリーじゃわい・・・。
まあ、そんな冗談は置いておいて、どこにいっておるんじゃのうコイツは。
聞いても教えてくれんしのう。やれやれ、それではこちらも手を打つかな・・・
※※※※
それから4日後、珍しい人がゲタンの元を尋ねてきた。
「ご無沙汰しております。ジューロー殿。
第1回セイムお婿さん選抜会以来ですね。」
そこには、あの時のスペード、いや今ではスペード商会の会長が挨拶に来たのじゃ。
「おお、お久しぶりです。スペードさん、商会を立ち上げるまでに立派になられて。」
「いえいえ、まだ立ち上げたばかりの新米ですが、この度は1丸バッキャ(100万円)分もの
道具をご注文くださり、誠にお礼申し上げます。一度お礼を兼ねて挨拶をと思い伺いました。
これは、お近づきのお品です。」
と樽に入った液体のようなものを頂いた。
酒じゃ。森の民が愛飲するような果実酒ではなく、アルコールの臭いがプンプンする。」
「これは?」
「これはとうきびから作られたお酒と、とうもろこしからつくられたお酒です。
まだこちらの森では珍しいと思いまして持参しました。」
めっちゃいい笑顔で言うな~~。
もともとハンサムじゃから、わしでもコロっといきそうになる笑顔じゃ。
ジジイじゃけど。
「ありがたいのう、こちらはまだまだ開拓途中ですので食べ物や酒などは
非常に助かります。新しい発見が楽しみでのう。」
「気にいっていただけたら、ぜひとも交易品目でごひいきにしていただけたら。」
「ぜひ、これからも色々なものをお互いによろしくお願いします。」
しばらく2人で挨拶も兼ねて色々な交易の話をする。
本格的な交易は村が移転した後行う事にした。
それまでにこちらの品目やあちらで用意する品目などの照らし合わせ、
前のネズミの頃はすべて商人に丸投げしておった買取り値段なども
事前に両者で決めておくことにも合意した。
まあ、簡単な事だけじゃな今日話せるのは。
あっそうだ、ついでにこっちで製造している紙を見てもらおう。
「スペードさん、今わしらはこのような紙を製作しておるのじゃが、
交易品目としてどうじゃ?需要はあるのかな?」
「えっ、紙ですか。ちょっと見せてください。」
わしから奪うように1枚の紙を取って、食い入るように見るスペード。
しばらく折り曲げたり、はためかしたりして興味津々に観察した後、
「ジューロー殿、これはすばらしい紙です。
もちろん城下町でも少ないですが紙は流通しておりますが、
その紙は分厚く、目が荒く、質も悪い。だから金持ちや王城ではまだまだ羊皮紙が主流なんです。」
ものすごく熱く語るスペードにたじたじのわし。
「それに比べ、この紙は薄く、目も均一で荒くない。何より白いのです。
普通の紙は黄色がかったというかほぼ茶色なので、この白さは非常に武器になります。
この製造方法は?何が原料で?」
こんなに褒められるとうれしいのう。
わしが、発見しただけで実際は昔の人の英知じゃから、地球が褒められた気がして。
それにわしから見たらまだ薄黄色に見えるのじゃが、
こちらでは通常の紙が茶色過ぎるのか・・・それに比べれば断然に白くみえるのじゃろう。
「いやいや、紙の製造は教えられませんが、ぜひ交易で扱って欲しいのじゃ。」
「あっつい、取り乱してすみません。ぜひ、うちで取り扱わせていただきたい。
今、ある分だけでもいただいて帰ることはできませんか?」
「いいですよ、今ある分だけスペードさんにお譲りしましょう。」
といって倉庫に連れて行く。大分前から毎日作ってもらっていたので、実は
結構ストックがあったのじゃ。紙が売れなければ売れないで使い道がたくさんあるので
全然OKだったのじゃが、こんなに需要があるのなら紙工場を増やすか。
「こ・・こんなに。譲っていただけるのですか?倉庫ごとですか?倉庫込み?」
小ボケを挟んできたが、荒いボケじゃったので無視したのじゃ。
「ん、何ですか?紙と一緒においてあるこの黒い棒は?」
「ああ、これは黒棒といって紙に文字を書く用に、墨を固めたものじゃ。」
「ぐだざいいいいいい。これも全部ぐだざいいいいいい~~~~~~~~。」
こわ、あのイケメンスマイルが跡形もないのじゃ。
必至じゃのスペード。その顔必至さが伝わってきて、わしは好きじゃぞ。ポッ
「天才だ!あなたは天才ですジューロー殿。まだ王城でも魚から取れる墨を
羽根の毛先につけて書くのが主流ですが、墨を固めるとは・・・驚きです。」
ものすごい勢いで美辞麗句を並び立てられ悪い気はしなかった。
興奮おさまるまでじっくりと聞いた。
「ぜひ、この品目もうちの商会で取り扱わせていただきたいです。
とりあえずこの商品は今日持ち帰らせていただき、また後ほど市場調査をして
取引金額を決めたいとおもいますので、よろしくお願いします。」
わしの手を両手で力強く握り熱くお礼をいうスペード。
そんなに熱く握手されると惚れてまうやろ~~~~
ジジイですけど何か?
前に会った時にはまだチャラい若者感が強かったが、
今はもう立派な商会の会長の立ち振る舞いでしっかりして見える。
2ヶ月くらい会ってないだけで人はこんなに変わるものなんだのう。
「そういえば、セイムさんには会っていかれないのかのう?」
そう言ったわしに少し困った顔を見せるスペード。
「会いたいのはやまやまなんですが・・・まだまだ商会を立ち上げたばかりの
ひよっこですし・・もっと立派になって会いたいと思うのです。」
ええこやな~~あんた立派やで~~もうりっぱな男やで~~~~・・関西弁女将風。
「そうか、わかった。セイムさんはわしに任せろ。わしに嫁ぐからわしに任せろ。」
と軽く冗談をかましたつもりじゃったのに・・・
ガッっと胸ぐらを掴まれ、そこには豹変したスペードが・・・・
「わしお客さん、紙製造してる上得意よ!黒棒も製造してるよ!わし」
「そんなの関係ない!仕事は仕事!恋は恋、別もの!」
ものすごい自分勝手な理論じゃ・・
仕入れ先に手を出したらもう売ってもらえないよ!
しかもレアアイテム専属で卸してあげるっていってるのに・・
盲目?恋は盲目なの?
「落ち着け、スペード・・なっ手を離せ。わ、わかった、これをお主にあげよう」
と言って小袋をスペードに渡す。
「何ですか?これは。」
「美人塩じゃ!」
ババーーーーーーーーーーン
最近、美人塩大活躍じゃな。




