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観察ごっこ 

作者: ユリイカ

変人現る/第1話


※ストーカー行為は犯罪です。真似しないでください。

 今日も寝てる、と八木はメモ帳に並ぶ文字の羅列に付け足した。

 何十ページと重ねられた紙の束は掌サイズ。持ち運びの手軽さと手ごろな値段で選んだ相棒とは、まだ日は浅いが馬が合うらしい。ボールペン・シャープペン・鉛筆。何で書いてもすらすらよく筆が進むし、消し後も残らない。

肌身離さず寝食ともにする程度である。執拗に構うせいもあってか当初の凛々しい姿は成りを潜めつつあるのだが。


 視線は斜め前の席に座る標的にあてながら、丸くなった角を撫でてやる。

耳にかかるぐらいのショートカット。柔らかそうな黒髪。視界に移る形の良い頭部をチェック。


 ターゲットと呼ぶに相応しいか八木は知らなかった。しかし、目を付けているという意味で用いるならば八木にとって、彼はターゲットである。


 窓側の前から3列目。一番後ろの真ん中に着席する八木の左斜め前にいる彼。



       「気になっているか?


       「彼を知りたいか?」


 もしそんな質問を振られたら、勿論yesと答えるだろう。ただし八木の場合、それらは興味であり趣味の範囲内である。年頃の、それも華の女子高生の恋愛事情とは全く異なったカテゴリーに分類されるものだった。


 だからもし、の話である。

 彼女が今時の女子生徒であったのなら、女子特有の仲良しグループの仲良しごっこに参加しいていただろう。



 そしてこんな話をしただろう。


 八木さんって梶くんが好きなのね。

 え、どうしてっていつも見てるじゃない。


 友達と自分の恋にきゃあきゃあ胸を高鳴らせる女の子たちは、早合点という女の勘を働かせ導き出したものを当然のように恋愛へと発展させるのである。


 王道であれば。

 そうなの、私梶くんのことを見つめてるの。だって好きだから眼が追っちゃうの。


  こんな可愛らしいお話へと進むのだろうか。

しかし、この物語の主人公は何の躊躇もなくこう返すだろう。



「私、梶くんのこと観察してるの。」


 ここで注意して欲しいのは彼女の発言ではなく、その手に持つメモ帳だ。


 相棒と八木がそう呼ぶメモ帳は4代目を襲名したばかりの新米である。がすでに数十枚分は文字で埋まっていた。



 その大部分を占める内容は彼、梶 十夜 カジ トウヤ に関する個人情報その他諸々。



 つまり観察記録帳。ストーカー行為の一歩手前辺りを右往左往しているちょっと変わった子。それが八木なのである。




 ふいに、ゆらりゆらりと不規則なリズムで揺れていた体が一際大きく船を漕いだ。


 (・・・あ、)と八木は胸中で呟いて紙の上を走る手を止める。崩れた姿勢を正す彼。もう少し居眠り姿を観ていたかった。授業中に不謹慎かななんて思いつつメモ帳をしまう。


 それと同時にまだ眠たげな瞳とかち合う。


 アーモンドを横にしたみたいな形。縁を飾るのは、マッチ棒を乗せそうなほど長い睫毛。




 微睡みの中の瞳は、それでもしっかり八木を捕らえた。


 クラスメイトは四十二名。その中から必ず、自身に向けられている視線を見つける。迷いもなく、身体中に眼が付いてるみたいに。



 梶くんは、変だ。

新学期から早二か月弱。調査を始めて一か月。八木の集めた膨大な数の情報はそう告げる。



 授業中寝ていたとしても、先生に名前を呼ばれるより前に絶対起きる。

 休み時間に、帰宅中。観察してるとすぐバレる。



 そして、必ず振り返る。目が合って、少し不思議そうに首を傾げて静かに佇む。



 だから、どうしようもなく知りたくなる。


 そっと怪しまれないようにノートを見るふりをしながら、口角が上がる。


 探し当ててみたい。

 何を隠しているのか。

 何を考えているのか。

 何を感じ取るのか。



 八木はもう一度だけちらりと梶くんを見た。彼は振り返り、そして悪戯を思いついた子供みたに目をキラキラさせた彼女に首を傾けた。








ここまでお読み下さり感謝です。

昔の掘り出し物を見つけたのでupしました。

気が向いたら、続きを書く予定です。

気長にお付き合いください。


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