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引き受ける

気分転換を兼ねて書きました。

文章の固さは、以前の投稿分に合わせています。

さらっと読み直した程度ですので、色々と読みにくいと思いますが、よろしければ。

あと一~二話で終わる予定です。

 時間は残酷だ。何も無いまま、このクラスと別れの時期が近づいて来る。

 意味は、これと言って無かった。ただ、部活の朝練に顔を出したく無くて、部室に顔を出さなかった。

 朝の誰も居ない教室。

 ガランとしている割に、妙に清々しくて。それなのに、気持ちは沈んでいった。


 誰も、このまま来なければいい。


 そんな風に思ったのに、そんな時に物音が響いた。窓を見ていた視線は、廊下へと動く。閉めた筈のドアは開いていた。そこに、見知った顔があった。同郷の内田ウチダだ。

「愁って、大野オオノくんと……仲いい?」

 入学以来、顔を合わせてなかったというのに、この馴れ馴れしさ。まぁ、同郷の奴らは兄弟みたいな感覚だから、こういう距離感なんだろうな。

 特に、こいつとは五十音順でも誕生日順でも、とにかく近くにいることが多かった。お互いに黒歴史を知っているだけに、変によそよそしくされる方が怖いかもしれない。

「まぁ、同じクラスだから……話すくらいはするかな」

 適当に返事をすると、

「なんだ、渡すの手伝ってもらおうと思ったのに」

 と、内田はムッとした。『使えない』とでも言いたそうだ。

 そういえば、今日は二月十四日。ああ、そういうことか。

 うっすらと化粧をしてる。……へぇ、色気づきやがって。

 小学校の低学年の時、男子も野良犬を恐がった。野良犬と遭遇するとみんなで青ざめたもんだ。ところが、こいつときたら。野良犬より怖い形相で、木の枝を振り回していた。野良犬からみんなを守る……というよりも、その様子が鬼に見えたもんだ。……そんなこいつがね。

 と、俺は思う。けど、そんな幼少期を知らない、高校で初めて出会った奴らは、こいつを『可愛い』と言っている。俺の知っている限りだと、人気があるのは確かだ。

 昔から変わらないポニーテールの所為か、俺には化粧の効果は皆無というか、何というか。

「じゃ……渡せなかったら、それ、俺が貰ってやってもいいよ」

「なによ、それ」

 なんだと言いたのは、俺の方だ。俺が甘い物を好きだと知っているだろう。

 ふと、内田は笑った。

「愁って、変わらないわね」

 内田と違って、色気づいてませんから。

 ……いや、俺は『ガキね』と、笑われたのか?


 内田が姿を消し、数十分後。日常は動き出した。

 海野は部活の事を色々と言っていたけれど、俺は流し続けた。なんとなく、落ち着かない。廊下ばかりが気になった。


「はい」

 放課後、下駄箱には内田がいた。差し出された袋を見て、

「ん? なに」

 と、俺が言うと、

「渡せなかったの」

 と、内田は強がって言った。

 あ……やっべ。俺の冗談が通じてない様子だ。素直に『頑張れ』って言ってやれば良かったかな。

「お返し、三倍以上ね。……あげたんだから、お返しくらいよこしなさいよ!」

「あ~……、はいはい」

 適当に言いつつ受けとって、疑問が浮かぶ。

 待て。三倍……以上だと?

 俺は何に釣られて、これを受け取った?

 内田は手を下ろすと、走って行った。その瞳には、見慣れないものがあった。

「全く経緯が見えないが、俺はお前が猛烈に羨ましいと思っている。……何なんだよ、お前~!!」

 よくわからないが、海野まで走って行った。



「鬼の目にも、涙……か」

「愁、何言ってんの」

「何でも無い」

 姉貴の声には、極力反応しない。面白がりたいだけだ。

 今日の内田の様子は、軽いカルチャーショックのようだった。未だに処理が追いつかない。

 袋の中に入っている包みは、中身が解っている。内田のイメージとは合わない、可愛い包み。

「これって絶対本命チョコじゃん!」

 正解。でも、俺にとったら……

「違う。これは義理」

「うっそだ~! ちょっと、お母さん! 信じられない事が起こってるんだけど!」

 姉貴は煩くて口が軽い。……だから、余計に本当の事は言えない。田舎の噂は早いからな。

 包みを開けようとして、紙が挟んであると気付く。

 これ以上は、部屋で開けた方が良さそうだ。

「あ~! ちょっと、愁、姉ちゃんにも貰ったチョコ見せなさ~い!」

 謹んでお断り申し上げます。


 俺は無言のまま二階へ上がる。

 部屋に入ると、挟まっていた紙を外し、包みを開ける。

「まったく、内田の奴。手紙まで一緒に渡すなよ」

 豪勢なチョコたちが、きちんと並んでいた。口の中を甘くしながら、手紙の処分はどうしようかと考える。

 手紙は俺宛てじゃない。だから、見ない。……それだけだ。

「三倍返しねぇ……」

 ああ、『三倍以上』か。



 丁度、一ヶ月経った放課後。俺は別のクラスのホームルームが終わるのを待っていた。内田のクラスだ。

 内田のクラスを知っていた訳ではなかったが、人気者のクラスを耳にするのは、日常だった。

 そういえば、内田はどうして俺のクラスを知っていたんだか。そう思っていると、ポニーテールの女子が出て来た。

「内田」

 呼び止めると、内田は驚いたように振り返った。一緒に居た女子は、何故か内田に手を振り、小走りで去って行く。

「お返し」

「ありがとう」

 内田は嬉しそうに受け取った。

 ……嬉しそうに笑うのは、本当はあいつから貰った時だろうが。

 まぁ、約束通り三倍くらいだろうと選んだ物だ。それを喜んでくれたなら、悪い気はしない。

 ん?

 視線を感じて、俺は右を向く。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

 内田にはそう返したが、何でも……あった。

 見られた。完全に。

 よりによって、一番見られたくないと思ってしまうような人に。

 これは……誤解されるよな。うん、悪いのは俺だ。

 しっかし、どうして彼女は……こうも間の悪い時に、いつも俺を見るのだろう。


 彼女とは、久しく話していない。

 多分、目が合ったのも……随分と……。



 翌日、クラスで異変があった。俺が教室に入ると、クラスが静まり、視線が集まった。ただ、一人だけ……視線が直ぐに俺から離れた。


 一瞬の間だ。感じたのは、言葉にし難い感情。

 俺は、なににイラッとした?

「浅河って、内田さんと付き合ってる?」

 歩き出した俺に近づいて来たのは、海野だ。

 根も葉もない噂はどこから。……って、それは自業自得だった。アレか。

「どうしてお前ばっかり……」

 海野のボヤキに、

「付き合っては無い」

 と、言うと、

「は?」

 と、マヌケな声を海野は出した。

「内田に聞いてみろよ」

 ん?

 また、集中した視線を感じたような。

「どうして呼び捨て……」

「幼馴染み、みたいなもんだ」

「どうしてお前の周りばっかり、イイ女がいるんだよ~!」

 毎回、マンガみたいな反応をする奴だ。海野は両手で頭を抱えて、シェイクしている。

 知らん。

 というか、俺には、そうは思えているお前が羨ましい。

「ずりぃ~よぉ」

 情けない声を出すな、海野。お前は静かにしていればイケメンだと俺は思うぞ。


 数時間後、内田も俺が海野に言われたことと同じことを、友人に言われていた。偶然、耳にしただけだ。言い返しに行こうかと思ったが、

「友チョコ」

 と、内田はさらっと言っていた。

『友チョコ』ねぇ……。まぁ、渡したかった奴がいたとは言えないか。


「お前の周りばっかり、イイ女がいる」

 そういえば、夏休みの最後の部活で海野が言っていた『浅河』。俺は『従兄妹』と言ったが、あれは冗談だと言いそびれていたな。


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