東証一部上場
第二回同窓会が開かれた。初回の問題点も改善したので、参加人数は若干増えていた。
「前回の同窓会は楽しかった」
口こみの評判も手伝ったのだろう。
坂本群馬は、あえて仕事を入れて欠席した。理由は玉木碧。宇宙で一番逢いたいのに、逢えないひとである。
「碧ちゃんも、出席してくれたよ。今回も楽しかったって」
設楽慎吾が教えてくれた。
「そっか、それなら良かった」
「群ちゃん、ほんとに良かったの?」
「何が?」
「いや、せっかく、逢えるチャンスだったのに」
「碧は、僕のことなど、まったく気にしてないだろうけど、僕の方は未だに一日も忘れられないからね。これで良かったんだよ。きっと」
「でも、群ちゃんが欠席だったから、残念がってたよ」
「最初の同窓会の後、碧は赤ちゃんを授かったけど、あれできっと僕の役目は終わったんだよ。碧の人生に、もう僕は必要ないんだ。元気で幸せに暮らしているなら、それでいい」
「俺にはよくわかんないな」
「僕もよくわかんないよ。でも、今でも碧のことが大好きなんだ」
「群ちゃんって、何故か碧ちゃんのことだけは、いつも呼び捨てにするよね?」
「あっ、妄想の中では、そうしてるんだ。僕が唯一、名前に余計なものをつけないで呼びたい女性だから」
「相変わらずの変態さんだね」
「・・うん」
それから数ヶ月後、プロバイダー4大勢力の一角を担っていたオモパロスは、株を公開し、いきなり東証一部に上場した。久しぶりの大型上場ということで、世間でもちょっとした話題になっていた。公開以前から株の価値は徐々に上がっていたが、上場をキッカケに一気に跳ね上がった。
創業者である群馬の持ち株は、とんでもない価値になっていた。同時に、莫大なキャッシュも入ってきた。上場すると資本の波が一気に押し寄せるのである。同級生の倉木雄太を含む株主たちにも、やっと恩返しができた。
また、会社の機能的には東京がメインだったが、本社の所在地を地元にしていた。地元へ法人税を支払うという形で恩返しをしたかったのだ。そして、上場を機にちょっとした本社ビルを建てることになった。その相談も兼ねて、群馬と慎吾は不動産会社の社長でもある倉木と会っていた。倉木のなじみの高級料亭だ。
「東証一部上場おめでとう!乾杯」
倉木のひと言から始まった。
「クラさん、やっと恩返しができたよ。ありがとう」
「いやいや、こちらこそ、ありがとう」
「でもさ、上場しちゃえば、株なんて水ものだから今のうちにキャッシュにしちゃったほうがいいよ」
「それは、群ちゃんの舵取り次第でしょ。でも、とりあえず、半分くらいはキャッシュにしておくかな」
「そうだよ。そうしなよ。群ちゃんの舵取りは危ないから」
慎吾が割って入ると、笑いが起こった。
「僕も若い頃、株でいろいろ失敗してね。他人の会社の株で儲けようなんて考えは捨てたわけ。どうせなら自分の会社の株で勝負しようってね。自社株なら上がっても下がっても所詮は自分の責任。他人のせいになんかできないからね」
「それで、一部上場しちゃうとは、非常識すぎるけどね。群ちゃんらしいよ。でも、本社ビルを建てる時は注意したほうがいいよ」
「うん、知ってる。くれぐれも調子に乗らないように、気を付けるよ。へたに驕らないように、建設中はなるべく近づかないようにしようと思ってるんだ」
「それくらいがいいかもね」
このあと三人は、年甲斐もなく、将来の夢について語りあった。だが、夢を持つことに年齢など関係ない。遅すぎることもないのだ。また、群馬はいくつになっても夢を語り合える友がいるということに幸せを感じていた。
「ごちそうさま」
この日は倉木にご馳走になった。
外に出ると、倉木の高級外車は、さらにグレードアップしていた。群馬と慎吾は国産の最新電気自動車だった。群馬は普段、移動中も後ろの席で仕事をしているのだが、この時は久しぶりに助手席で、慎吾と夢の続きを語りながら帰宅した。