表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/33

事業承継はM&A

この日、坂本群馬は、同級生でもある倉木雄太の会社へ出向いた。「不動産王」とあだ名をつけられる程の資産家である倉木に投資してもらうためだ。最近の群馬の動きは、倉木も記事や本などで確認していたらしい。


早速、本題に入った。


「まだまだ絵空事だという人も多いけど、光の道は必ず成し遂げられる。そうすれば、プロバイダー戦国時代がやってくる。その時がチャンスなんだ。僕は、日本一安くて安全なプロバイダーサービスを提供したい。今、買収先の企業もいくつか候補が上がってる」


倉木は黙って耳を傾けていた。


「クラさん、勝算は7割。5割だと危険過ぎるし、9割だと手遅れになる。今が勝負する絶好のタイミングだと確信してるんだ。今、うちの株を買ってくる投資家を探してる。頼む、力を貸してくれないか」


「株?いくらなの」


「1株10万」


倉木はしばらく考えこんだ。


「・・・分った。100株引き受けるよ。今、自由に動かせるのが、これくらいしかないんだ」


驚いたのは群馬の方だ。


「え〜、そんなにも!まさか、そんなに引き受けてくれるとは思わなかった。ありがとう、クラさん」


群馬は思わず、倉木の手を握っていた。


100株といえば、大金だ。それほどの金額を自由に使えるとは、流石、不動産王である。


だが、後で分ったことだが、倉木も少し無理して用立ててくれたらしい。群馬は良き友と巡り会えたということだ。この倉木の出資をキッカケに、徐々に群馬の元に資本が集まり始めた。


ビジネスは人を超えない。また、資本は信用の元に集まるものだ。闇の中でもがき苦しんでいた群馬だが、そんな時間が器を少しずつ大きくしてくれたのかもしれない。だが、当然、プレッシャーも大きくなる。今まで一匹狼だった群馬も、まわりの人たちを巻き込んで、世の中と大きく関わっていくことになる。


一方、買収先もぴったりの企業が見つかった。技術は素晴らしいものを持っているのだが、経営者が病気がちで、行く先を案じていた会社だった。群馬は、運命の出会いを感じていた。そして、早速、M&Aの交渉に入ったのだ。


「坂本さん、私も年ですし、最近体調も優れませんので、丁度事業継承を考えておりました。ですが、後を継ぐ子どももおりませんし、社内でもなかなか任せられる人材がおりません」


社長の星野守は続けた。


「私の体調と共に、業績も悪化してしまって。そこへ坂本さんからM&Aのお話しを頂いたわけです。M&Aも事業継承の手段のひとつですからね」


「星野さん、私も丁度、御社のような企業を探しておりました。天が引き合わせてくれたようですね」


「でも、うちより小さい会社に買収されるとは思いませんでした」


星野は苦笑いしていた。


「恐縮です。ですが、情熱ならその辺の大手になんか負けませんよ」


群馬は笑顔で、続けた。


「それと、社名も変更して構いませんか?」


「もちろんです。社員たちのこと、どうかよろしくお願いします」


「はい。お任せください。星野さんの御嬢さんを嫁にもらうような心境です」


「これでやっと、肩の荷が降ろせます」


「ゆっくり療養してくださいね」


数ヶ月間の地道な交渉を重ね、両者納得のいく条件で、M&Aが成立した。お互いの利害が一致していたので、とても友好的なものだった。


星野の世代は、まだ国に守ってもらえる時代だったため、定年後の年金生活が可能だった。


「僕らの世代は、死ぬまで働かなくちゃいけない時代になるだろうな。きっと、定年退職もできなくなる」


群馬は、国民全員が生きるチカラを身につけなくてはいけなくなる未来を想像した。


さて、これからが群馬の腕の見せ所というものだ。経営状態が悪化して身売りした場合、買収先の企業のやり方を優先させるのは危険である。ただし、完全否定も良くない。そのことを知っていた群馬は、自ら率先して指揮をとった。


「日本一安くて、安心なプロバイダーを作る」


まずは、群馬の志しを社員に理解してもらうことから始めた。そして、徹底的なコストの見直しが始まったのだ。


この時に文無し時代の経験が大いに役立った。また、ペットボトルのボジョレーヌーボーや、フレームとレンズのセットを格安で販売するメガネ店などの事例も役に立っていた。


勢いのあるベンチャー企業ではよくあることだが、群馬が、会社に泊まりこむこともしばしばだった。そんな情熱が、社員たちにも伝わったのか、社員からもいろいろな意見がでるようなり、社内は活気付いていた。


プロバイダーの利用料は、比較サイトで、すぐに確認できる。日本一まで、あと、一歩のところまでせまっていた。


だが、安いだけでなく、安全でなくてはならない。群馬は、安全に関しての妥協を一切許さなかった。それが、あと一歩が超えられない大きな要因となっていた。


こうして、社員と共に試行錯誤を繰り返し、M&Aから半年ほど経った頃、オモパロスは、ついに日本一安くて、安全なサービスを提供できるプロバイダー業者になることができた。ただ、世間の知名度はまだまだであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ