Vol.4
摩子は静香と道で出会ってから暫くして、静香の家を探し当ててやってきた。
静香がテニスコートの傍で摩子と出会い、今度一緒にテニスをしたいと言ったとき、そうね、と何気なく別れたつもりだったので、まさか摩子が自分の家を探して訪ねてくるとは思ってもいなかった。
摩子は静香の家の門をくぐり、玄関からさっさと入ってきた。
当時静香の家には介護している痴呆の叔母がいた。摩子はそのことを知ると、
「私が婆ちゃんの世話してあげる」
と、早速風呂を沸かし、叔母を風呂に入れた。その晩叔母の布団に潜り込んで一緒に寝た。
翌日摩子が起きた時、摩子は台所でトントンとキャベツを刻んでいた。
午後になって、静香から連絡を受けた摩子の両親が静香の家にやってきた。
「お世話になります。助かります。ここへ荷物を置いておきますから」
そう言い残して摩子の両親は帰って行った。
静香が呆気に取られている内次第に、摩子が静香の家に居座ろうとしている様子が伺えた。
摩子が静香の家に来て2日が過ぎた。
摩子はリビングのカーペットを陣取り、化粧道具を出して化粧を始めた。今まで化粧をしている顔を見たことがなかった静香だったので、最後の仕上げに真っ赤な口紅をべっとり塗った顔を見た時、静香は背筋がゾンとするのを感じた。
「先生、これから出かけてきます」
「どこへ行くの?わたしはあんたを預かってるんだから責任があるのよ。私ついて行くから……」
もう日が暮れかけていたにもかかわらず、静香は夕食の支度をする間もなく、慌てて摩子を車に乗せて摩子の指示する道を進み、見たこともないスナックの前に車を止めた。
「ここよ、先生は外で待ってて」
「私も行くわ……」
静香は無理やり摩子の後についてスナックに入った。時間が早かったのでまだ客は来ていなかったが、薄暗い室内は静香にとって初めて見る雰囲気だった。
摩子はカウンターに座り、慣れた手つきで煙草をくわえてライターで火をつけた。
スナックのマスターは鬱陶しそうな顔つきで摩子を見ている。どうやら歓迎されない客のようだ。
「帰ろうよ、摩子ちゃん」
静香はマスターの顔色を伺いながら、摩子を促した。
「早く帰んなさい、子供が来る所じゃないんだから!」
マスターに言われて摩子は、チェッ!と、フロアに唾を吐き、静香の先に立ってスナックを出た。
「摩子ちゃん、あんな所へ出入りしてたの?お母さんは知ってるの?」
「知るわけないじゃん。あそこはうちの子分の店よ」
静香は訳のわからないことを言う摩子を連れて家に戻り、その晩も泊まらせることになった。翌日は家に帰るのかな、親が迎えに来るかな―、と静香は内心期待していた。




