Vol.3
摩子が高校に通学している3年間、静香は摩子の母親との接触はなくなっていた。静香自身も自分の子供のことで色々苦労をしている最中でもあったからだ。
摩子が無事高校を卒業しただろうかと案じていたとき、偶然路上で静香は摩子の母親に出会った。
「摩子ちゃん卒業されたんでしょう。おめでとうございます」
静香の声掛けに、摩子の母親は苦しそうな顔で言った。
「それが、卒業はしたんですが……」
「何か心配なことでも?」
「ちょっと時間とってもらっていいですか」
静香は近くの喫茶店で話を聴くことにした。
母親はもうすっかり諦めたような顔つきでこれまでのことを話した。
「高校は卒業しましてね、わたしら家族は大喜びしてたんですよ。将来何になるかとか話をして……。ところが本人はだめなんです。この3年間の頑張りが頭に無理が行ったんだと思います」
静香は、高校生活が苦しくなりもがいている子供のことで受けたカウンセラーの言葉を思い出した。
「高校3年の3学期になっていても、無理なら辞めさせた方が将来の為に良いのです」
そう言われたとき、静香は意外だった。
留年してもいいから卒業だけはさせたほうがいいです、と言われるとばかり思っていたからだ。
静香はカウンセラーの言う通り、子供が苦しんでいるとき、本人にゆっくり考える時間を与えた。本人は耐え難いほどの苦悶の末『退学』の道を自ら選択した。
その後娘は大学に入学し、大学院修了までの6年間を経て、次第に立ち直っていった。『巣篭もり』の期間が大切なことだと実感したのは、その時のことだ。




