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まずは、であいから 01

 透明なガラスのむこう、半透過していた姿が実体をおびてきている。

 たっぷりとした布の白い服は風をはらんでいるのか、ふんわりとひろがり、しかし、そよとも動かずに。



 強化ガラスのむこうにひとりの少女がいる。

 目をふせ、胸のあたりで両の手を重ね立っている。

 ふわりと広がったスカートも柔らかそうなくるくるとした髪の毛もそよとも動かず、やわらかな笑みすらうかべたくちびるも、幾枚か布を重ねて着ていると思われる腹部もいまはまだ呼吸をしてはいない。

 数時間前まではむこうの壁が透けて見えていたと聞いたが、いまはもう触れられるくらいの実態に見える。

「…あの、足元浮いてるように見えるのですけど」

「そうだねぇ。物体に重ならないようにすると、多少浮かせたほうが安全なのだよ」

 横にいる異界次元調律師チューナーが説明してくれる。

 彼がここの部屋の管理者だ。

「重なるとどうなるのです?」 ふとした疑問だ。

「同じ空間座標に物体が現れるのだから、質量にもよるがあとから出現した物体がもとからあった物体にそのまま重なって生物なら死んでしまうらしい。が、移動させる物体をコーティングするように物理結界を張っておけば、普通に移動が完了となる。まあ、土に埋もれたならすぐ掘り起こさないと物理結界内の酸素がなくなって死んでしまうかもしれないが。まあ、足元が少しういてるのは物理結界のせいとなるな」

 ふむ。と理解を受けいれる。

 事前説明によるともう少しで完全に移動が完了となり、あの少女は目をひらくだろう。

 それは、期待でもあり不安でもあり、わずかに呼吸がはやくなるような焦りともよべない感覚に浸かってしまう。



「そろそろだな」

 じっと硝子壁にはりついて少女をみていた僕にと他の技師にと次元調律師が声をかける。

 意識をとりもどすかのように、現在の状況を思い出す。

 僕は少女に釘付けになってたらしい。

 少女、というよりは次元移動という事象に立ち会うことにたいしてなのか。

 視線の先では少女の止まっていた時間が自分たちと同期し、動きだした。

 つまり、足元のういてる場所から落ち、予測外のことに少女がびっくりするより先に床に足がつき、地面に足がついたが予定行動ではないためにバランスをくずして少女は後ろにしりもちをついた。

「うむ。白だ」

 …動体視力がよいことで。

 次元調律師は下着の色の確認をいれたようだ。僕の緊張がわずかにほどけ、そして自分が緊張していたことを知った。

 意外だった。そう、感じてしまう自分にも気がついてすこしだけ苦笑する。

「では、いってきます」

 次元調律師の言葉を聞き流し部屋の端にある階段をかけおり、向こう側へと通じる扉をあける。





 ふわりとした感触の床に意外性を感じつつも、先ほどの次元調律師の言葉を思い出して納得する。この床のやわらかさは現れた物体の落下ダメージを軽減するためのクッションなのだろう。

 心持ち足早に少女のもとへとあるく。

 少女は自分の身に起こったことが理解できていないのかしりもちをついた体勢のまま呆けている。

 僕の存在に少女が気がつく。

 呆けたままの表情で、だが視線は僕へとそそがれ、近づいていく僕をただみつめている。

 ほんのすこしの緊張を保ったままとうとう少女のそばにたどり着いてしまった。

 少女が僕をみている。

「…こんにちは」

 第一声に迷い、迷った素振りをみせないように笑みを浮かべ少女の目前にしゃがむ。

 少女は我にかえったのか、座り直し佇まいを整えた。それがなんだかおかしくて、ほほえましくて和んでしまう。

 だけど、少女が声を発してなにかを伝えてきて、僕もわれにかえる。

 言語が通じないのか。

 なにかを伝えてくれてる少女を前にして僕は頭をさげる。

「すこしだけ、まって」

 少女の額に手のひらをあてて目をつむる。

 少女がなんの抵抗もせず居てくれることに感謝しつつイメージを早急にねりあげる。

 あてた手のひらを通じてなじむよう注ぎ込むイメージと感触を得て、実際のところ触れて数秒で作業を済ませる。

 目をあけると、少女から顔をのぞきこまれていて不意をつかれたその距離感にまばたきする。

「えと、だいじょうぶ、かな?」

 首をちょこんとかしげ、すぐに破顔。ほころぶような笑顔で頷いてくれた。

「ありがとうございます」

 床につきそうなくらい頭をさげられてお礼を言われる。

 そのひとことで、言葉が通じてると解り術がうまくいったことを安堵する。

「だいじょうぶなようだね。よかったよ」

「わたしを助けてくださってよかったのでしょうか?」

「うん?」

 なんだか意味がよくつかめない。

 翻訳の、言語を埋め込む多言語の術式がうまくいかなかったのだろうか。

「君が不自由なく暮らせるようにはしてあげる用意はできているから、なにも心配はいらないんだよ」

 落ち着かせるためにも、そういってきかせる。

 不安に憂える少女はほほえんだ。

「ありがとうございます」

と。


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