50_[融合巨人]と[実況解説]
「[ひっ」]
RPGの進行とはとても思えない意味不明な状況に、私たちは唖然としていた。
現実世界のモニターを注視している私、ゲーム内で実際に目視しているリューナ……という具合にいる次元こそ違う私たちだけど、息を呑むタイミングは全く同じ。
因みに言っとくとモニター上にはとっくに表示されていた状態で、つまり私は隣に現れたスーばかり見ていて全く気づいてなかったワケで。それに視線誘導なんて手の込んだものは一切使われていないハズだ。我ながら注意力が足りてないとは思う。
まぁ、それを言うなら実際にこの場にいたリューナも問題になるワケだけど。
さて一方、二人の視線の先にいるエイデュイアと野盗の融合体(エイデュイアが女神である以上、こう表現するのはちょっと抵抗感あるけど)はなかなか珍妙な見た目になっていた。
まず、元のあのゴロツキの身長から目測にして三倍の大きさである。一八〇センチくらいと考えても五メートル越えだ。ちなみに野盗が着ていた腰巻や防具のサイズまで大きくなっている。さすがにこのあたりはゲームとして隠さないといけないらしい。
それでその見た目を“珍妙”と表現したのは、“融合巨人”が身に纏っている他の服装にあった。
[随分とこう……一気に女装家みたいな服装になったな]
スーが“わかりやすく”巨人の見た目を口にする。
今さら言うまでもないことだが、そもそも兵士は成人男性である。そこで(どういう原理でそうなったかは分からないが)あの女神と融合してしまうとどうなるか。その結果が今のスーの一言に集約されていた。
筋骨隆々かつ体毛の目立つ肉体、そして着ているのはエイデュイアが着ていた古代ギリシャっぽいデザインのドレス。ついでに顔は元の粗野そうなヒゲ面野盗のままだ。それでいて身長は五メートル半ばもの巨大さである。
しかし紛れもなく、昼間やったときのチュートリアルよりも脅威度は上だった。
[フぅぅ、ギシャあァぁアア……]
「な、何これ……いきなり何でこんなことになってんの? 昼間のときとは全然展開変わってるし!」
いつの間にやら影助が以前見かけたようなノイズまみれの獣じみた姿で臨戦体制に戻っていた中、私はほぼ半狂乱になりながら叫ぶ。そうだ、こんな展開全く知らない!
[今の感じ、多分さっきからセリフを制御してるAIとウィルスセキュリティが関係してる。それと取りきれてないバグも少し。恐らくは僕らがこのゲームに入り込んだことでセキュリティプログラムが発動して、さらにそれを検知したAIがセキュリティと合体したんだ。“AI自身が巻き込まれて消されないように”ね]
対するスーは他人事みたいに状況を解説した。
一方の私はこの発言に思わず噛み付く。
「イヤそれこそ“何それ”だよ! AIがそんな動き方する⁉︎」
[してもおかしくないと僕は思う。だってこのAIはそこらの、どれだけ性能が上がっても指示されたこと以外は実行すら出来ない有象無象とは違う。それこそ、少なくとも僕らレベルの高い性能はあるだろうからね。普通の社会に出回ってるAIなんて比にならない以上、何が起きたっておかしくない。何せここは電脳空間なんだから]
「うわ、自分で自分をスペック高いとか言っちゃうんだ」
[ちょっと二人とも! 来ますよ、アレ]
私とスーでちょっと場違いな漫才をしているところにリューナからのツッコミが入る。……融合巨人が突進してきていた。
[フッ‼︎]
融合巨人の長い足に蹴り飛ばされそうになったリューナは咄嗟に横に飛び退くことで回避する。影助も大きく飛び退き、ついでに地面を蹴って巨人の首元へ飛び掛かっていた。
突進からの蹴りを避けられた融合巨人はすぐに身を翻してヨタヨタと一八十度こちらに向き直る。
[はっはあ! 身長が高いぶん動作は速いけど、そのぶん命中精度は落ちてるんじゃないかぁ⁉︎]
スーに至ってはもっと余裕げで、さっき言っていたプログラムの書き換え能力とやらで既に空中へと逃亡していた。そして若干腹の立つことに、彼はこの状況が少し楽しそうだ。
「いや、もっとリューナと影助のほう助けなって‼︎ 自分だけ安全圏で煽りってダサいでしょ⁉︎」
[失敬な! こっちは逃げ回りながら情報解析してるんだよ、リューナまで助けてたんじゃ集中力が落ちる]
……それならわざわざ相手を煽るのは余計に無駄なのでは。
怒りを通り越して呆れみたいなものを覚えつつも私は気づいた。そういや融合巨人のヤツ、さっきから宙に浮かんでいるスーを見向きもしていない……?
[それに今の僕は自分の“ヘイト値”を操作してほぼゼロにしてるのさ。ゲームなんだから、相手に狙われやすくなったりする数値ってあるだろ? それをイジってる。ま、せっかくマークを外したんだ、ちょっとは余裕ぶっても良いだろ?]
なるほど、そういうことね。ってかそれならガチめに煽る意味無いんじゃん。
一人逃げ回り続けるリューナを尻目に、私はスーを問いただすことにした。
別に煽りがどうこうとかそういうことじゃなくて、もっと別のことについて。
「というか余裕あるんなら聞きたいんだけどさ。さっき言ってた“取りきれてないバグ”って何?」
[そのまんまの意味だよ。デバッグしきれてない、見つかってない小さなバグのプログラムのこと。ゲームなんて制作期間の大半をバグ取りに費やすって話もあるくらいなんだし、別におかしいこともないだろ?]
「いいや、そういうことじゃなくってさ。そのバグプログラムの中から事態打開の糸口って見つからないかなって思って」
お互いに実際動き回ってないのもあって、どこか呑気にそんなアイディアを一つ投げてみる。
けどスーの反応はイマイチだ。
[それはどうだろう? バグプログラムって一口に言ったって種類は色々あるんだ。僕は単にこのゲーム内で“動作してないヤツ”をそう呼んだだけであって。それが一つあったところで、そもそもそのプログラム自体が千差万別なんだよ。こういうときに有効活用できるようなことなんてそうそうないね]
「そういうもんかぁ……」
まぁ、相手は電脳世界で暮らしてて、なおかつこういうことの専門家みたいな立ち位置だ。事態打開の鍵なんて素人の私から出せるハズもないか。
逃げ回るリューナたちを、私はなす術なく見ているだけだった。




