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プルルル、プルルルル

スマホの呼び出し音が鳴る。


土曜なのに。まだ9時前だ。誰だろう?

スマホを見ると「清原」

大学の映画部で一緒だった清原さんか。

去年のOB会で久しぶりに会ったっけ。

こんな時間にいきなり電話で何の用だろう?


「はい、もしもし、片岡です。」

「おはよう!清原です。朝早くにごめんね。」


うん、早いよ。


「いや、大丈夫。そろそろ起きる時間だったし。」

「えーとね、片岡くん、『紅の猫』好きって言ってたじゃない。

なんと、リバイバル上映を、やってるの!今週末まで。

でね、とても急な話だけど、よかったら明日行かない?」


肩の力が抜けた。

こんな時間の着信は、それだけで心臓に悪い。


「へー、すごい。よく見つけたね。

わざわざ教えてくれてありがとう。」

「去年のOB会で飲んだ時に話したじゃない。

私、子供の頃、5歳だったんだけど映画館に観に行ってね、

誘拐された子供たちが楽しそうで、大好きな映画だったんだ。

大きくなったらあんなふうに飛びたいなって思ってたの

で、ね、どう?明日が最終日なんだけど。

せっかくだし一緒に観にいかない?」


明日は用事、はない。ただ静かに過ごそうと思っていた。


「せっかく誘ってくれたのに、ごめん。

ちょっと明日は用事があって。」

「えー。そっか。だけど次はいつ観られるかわからないし、

そうだ!よかったら今日行こうよ!

そろそろ起きようと思ってたって言ってたでしょ?」


そりゃまたえらく急だな。


「ほら、次なんていつあるかわからないし、

ひょっとしたら二度とないかもしれないんだよ?

だったら行きたいと思って行ける時に行くのがいいじゃない。

あ、そうだ、観た後のご飯奢るよ。特急料金ってことで。」


うーん、ここまで強く誘われたら、理由なしに断るのは悪いな。。


「いや、それは悪いよ。

だけど、そうだね、せっかく教えてくれたし、

そんなに薦めてくれるなら、行こうかな。」

「やった!よし、行こう」

「だけど、今からチケットなんてとれるかな?

「えーとね、ちょっと待ってね。。

よし、今チケット取れたよ!」


仕事が早いなあ。


「え、もう?ありがとう。

ちなみにどこで何時から?」

「えへへ、場所はF市のXXXXで14時からなの。

だから集合は13時にF駅でどうかな。」


「…」


「もしもーし?聞こえてる?」

「あ、うん。」

「もしかして用事でも思い出した?」

「あ、いや、大丈夫。」

「そっか。急だけど、こんな機会めったにないし、ぜひ行こうよ。

片岡くんも、『紅の猫』のこと話す時、すごく楽しそうにしてたから。

じゃ、また後でね!昼は済ませてから来て。夜は奢るから!」


嵐のような電話だったな。


それにしても、清原さんはあいかわらず元気そうだ。

さしで誘ってくるなんて、よほど『紅の猫』が好きなのか。

僕が好きと言ったことも、よく覚えててくれたな。

もしかしたら。

…いや、やめよう。



約束の15分前にF駅に着いたら、彼女はもう待っていた。手を振ってる。


「ごめん、お待たせしたね。」

「ううん、こっちこそ急な誘いに付き合ってくれてありがとう。

実は昔F市に住んでて、久しぶりだから、早めに着いて散歩してたんだ。

おいしいお店があってね、まだやってるかなと思って確かめに行ったんだよ。」

「住んでたんだね。

ありがとう。楽しみにしてるよ」

「じゃあ、早いけど、行こうか!」



大画面で見る『紅の猫』はよかった。

やはり映画館の没入感はすごい。

観た後で、休憩がてら喫茶店に入った。


「あー、よかったー!

大画面で、映画館で、観るのはやっぱり格別だね。

ねえ、片岡くんはどうだった?」

「うん、とても良かったよ。

今日は誘ってくれてありがとう。」

「他には?」


彼女が、こっちをじっと見る。

妙に気押されて


「うーん、そうだね。

ジーナさん、ずっと待ってるのはつらいだろうなって思ったよ」


これ以上は。


「そうだね。

それにしても、こんな素敵な喫茶店にゆっくり入れるのは

大人になった有り難さだなあ。

そうだ!さっき言ってた美味しいお店、この後夕食にどう?

駅の方なんだけど。そろそろ行かない?」

「そうだね、まだ時間も早いし、今からならいいかな。」

「じゃあ行こうよ。ここから歩いて5分くらいだよ」


景色の色が、少しだけ抜け落ちたように見えた。

ここに、長くいてはいけない気がした。


「片岡くん、大丈夫?」

「あ、うん、大丈夫だよ」


無理だ。

何か理由をつけて、帰らないと。


「あ、信号変わったよ。渡ろう。」


清原さんがこっちを見ながら歩き出す。


右手から黒いものがやってくる。

世界がゆっくりになる。

体が勝手に動いて、清原さんの両肩をつかんで全力で歩道に引き戻す。

清原さんがびっくりした顔をしてる

代わりに車道に飛び出た僕の目の前に黒い、車の形をしたものが迫る

清原さんを見ると歩道に倒れ込むところだ


よかった

こんどは助けられた。


黒いものが目の前に迫り意識が暗転すると同時に

「待ってたよ」


という声が聞こえた。

ような気がした。


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