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無音の気術師  作者: 波浪
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第21話 守れなかった静けさ

村は、近づく前から重かった。


 音がある。

 人の声もする。


 だが――

 気が、閉じている。


 ユウは、村の入口で足を止めた。


 受け気が、拒まれた。


 完全にではない。

 だが、意図的な壁がある。


 誰かが、気を管理している。


 中へ入ると、すぐに分かった。


 人々は動いている。

 話し、働き、生活している。


 それなのに、

 目が合わない。


 感情が、表に出ていない。


 祈りの村と、似ている。

 だが――決定的に違う。


 ここでは、選ばされていた。


「旅の方」


 役人らしき男が近づく。


 笑顔は、作られている。


「この村では、安心が保証されています」


「不安は、排除されています」


「だから、余計なことはなさらぬよう」


 ユウは、何も答えない。


 ただ、子どもを見る。


 遊んでいる。


 笑っている。


 だが、その笑いは、

 同じ間隔で繰り返されている。


 揺れがない。


 夜。


 広場に、人々が集められた。


 中央には、塔。


 塔の上から、柔らかな気が流れてくる。


 ――模倣気。


 だが、洗練されている。


 カイのものだ。


「今日も、平穏を」


 声が、響く。


「恐れは、私が引き受けます」


「皆さんは、考えなくていい」


 受け気が、押し返された。


 開こうとするほど、

 整えられていく。


 揺れが、吸収される。


 これは……戦えない。


 ユウは、前に出た。


 剣は、ない。


 声も、張らない。


「……それは、平穏じゃない」


 一瞬、空気が止まる。


 だが、すぐに包み込まれる。


「揺れは、危険です」


 塔の上の声。


「あなたのような存在が、混乱を生む」


「ここでは、必要ありません」


 人々が、ユウを見る。


 敵意はない。


 期待もない。


 無関心。


 それが、一番痛かった。


 受け気を、最大まで開く。


 初めて。


 全てを、晒す。


 不安も、迷いも、恐怖も。


 ――届かない。


 整えられ、薄められ、消えていく。


 その時。


 一人の子どもが、倒れた。


 小さな体が、震える。


 笑顔のまま。


 感情が、追いついていない。


「……止めて」


 誰かが言った。


 小さな声。


 だが、確かに選ばれた言葉。


 塔の気が、揺れる。


 ほんの一瞬。


 だが、その隙は、戻らない。


 カイは、完全に制御している。


「撤退します」


 役人が、冷静に告げる。


「この村は、安定を優先します」


 ユウは、子どもの前に立つ。


 受け気を、一人分だけ流す。


 整えない。


 選ばせる。


 子どもは、泣いた。


 遅れて、

 ようやく。


 だが、それだけだった。


 村全体は、変わらない。


 ユウは、引き下がる。


 初めて――

 守れなかった。


 村を出る背中に、声はかからない。


 感謝も、怒りも、ない。


 ただ、無音。


 夜の道。


 ユウは、立ち止まり、膝をついた。


 受け気が、震える。


「……足りない」


 優しさだけでは。


 開くだけでは。


 世界は、選択を奪うことで

 “正しさ”を作れる。


 それに、どう抗う?


 遠くで、模倣気が動いている。


 より広く、

 より深く。


 ユウは、立ち上がる。


 次に進むには――

 受け気を、変えなければならない。

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