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悠々と聳え立つ壮麗な城。純白で築かれた外観は清い雰囲気を持ちつつも、天まで伸びる尖塔が厳格な印象を付けている。
その城は真下に広がる城下全てを統一し、ここ王都で唯一無二の存在感を発揮していた。
「あれがスコルピア城......想像してたよりも大きいんだね」
緑色に統一された車内でミルスが呟く。窓の外を覗く碧色の瞳は輝いており、初めて目にする権威の要塞に魅了されている。
──まるで色素が欠乏した、巨大な白きトノサマガエルのようだ。
例の如く、ミルスが大好きなカエルに例えた感想を胸に抱く。如何に壮麗な巨城といえど、彼女に掛かればカエルのインパクトには及ばなかった。
「......本当に良かったのか?ミルス」
ミルスの正面より、憂えげな声が掛かる。後ろに撫でつけた漆黒の髪は今日も決まっており、彫りの深い顔は王城にも引けを取らないほど威圧感満載だ。
「大丈夫だよ。ただ会って話をするだけだもの」
「しかし、万が一という可能性も...」
ガストが道中、何度目かの憂いを口にする。自邸を出発してからというものの、終始この調子である。
「パパったら心配しすぎだよ。それに、王家の打診じゃ断れないでしょ?」
「断ってもいいんだぞ。王家くらいどうとでもなる」
迷わず即答するガスト。昔から娘の事となると周りが見えなく節があるが、最近はより強まる傾向にあった。
その事に嬉しさを感じながら、ミルスが改まって言う。
「パパは優しいね。でも大丈夫だよ! 私だって伯爵家の娘だもの、ちゃんと役目は果たしてみせるよ」
「......強くなったんだな。ミルス」
「えへへ」
父から優しく頭を撫でられて、ミルスが心地良さそうに目を瞑る。それは秋季パーティ以前では考えられない、親子睦まじい光景だった。
御者の合図でカエル仕様の馬車が止まる。毎度の事ながら、「ヒヒーン!」と鳴く馬の鳴き声と嘶く姿は勇ましいと思う。
「では行こうか。ミルス」
「はい、お父様」
スタイリッシュに馬車を降りたお父様のエスコートの元、私は淑女の仮面を貼り付けて馬車を降りる。
間近で見るスコルピア城は更に広大だった。マーガレット家の屋敷も相当な大きさだと自覚しているが、これはまた別の次元だ。
まるで一つの巨大な要塞──。カエルに捕食される食用虫はこんな気持ちなのだろうかと、つい勘ぐってしまいそうになる。
磨かれた石畳の道の周りに、綺麗に整えられた芝草が広がっている。もう冬に差し掛かる時期だというのに、王城にはまだ緑色の天然芝が生えているようだ。
この一帯だけで、どれだけの手間暇が掛けられているのか。考えただけでも頭が痛くなってくる。
「マーガレット伯爵家当主、ガストと申します。陛下に拝謁を賜りたく存じます」
お父様が、正門前に立つ兵士に二枚の招待状を見せる。彼等は最初こそ、お父様の威圧感に圧されて及び腰になっていたものの、王家の印を見て胸を撫で下ろした。
王家が寄越した便りは二通。一つはマーガレット家に対する謝罪の意を綴った書状と、もう一つは父娘を伴っての参城への打診だ。
家の使用人曰く、封を切ってからのお父様の落胆ぶりは相当だったらしく、当初は私がここに来ることに強く反対していた。
けれど、学園でキース君から貰った招待状を見せた事が決定打となったらしく、泣く泣く王家の打診を受ける事に決めたようだ。
それでも、道中でのお父様の心配性は凄まじかった。
あれだけ取り乱したお父様を見るのは珍しい。ずっと昔にお母様が、”グリーンイグアナ”という、大きなトカゲを屋敷内に逃がした時以来だろうか?
あの時もお父様は「ミルスが呑み込まれてしまう!」と躍起になってトカゲ捜索をしていた。
一体王城には何があるのだろうか。そして──王妃様とはどのような人物なのか。噂ではリリィちゃんの元教え子だと聞いているし、会うのが少しだけ楽しみだったりする。
つづく




