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その娘、カエル令嬢につき  作者: フルーツミックスMK2


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 ......厄介な事になった。

 いつものように執務室で書類の山を捌きながら、ガストが机上の上に肘を着いて溜息を吐いた。


 時刻は昼過ぎ。愛娘と摂った朝食、『秋の三色風味、栗と芋と茸の競争パスタ。~アボガドとトマトを添えて~』のエネルギーが切れて腹の虫が鳴る頃合いだ。インク壺の傍にある呼び鈴を鳴らしたならば、ロブや他の使用人が昼食を運んできてくれる事だろう。


 だが、全く食欲が沸かない。たった一枚の書簡で憂鬱な気持ちになってしまった。この後には自治体との領主会議も控えているというのに、全く仕事に身が入らない。


 バージニア家の失脚は瞬く間に世間に広まった。

 新興貴族が増えつつあるこの時世、貴族の没落は珍しい話でもないが、元侯爵家の失墜は世間に衝撃を生んだようだ。


 今朝の朝刊にも『バージニア家の失脚!?ビクトル学園で引き起こされた星屑パーリィナイト!』と大きく掲載されており、昨日に引き続き醜聞が巻き起こっている。なんとも巫山戯た名称を付けられているとは思うが、その内容は中々に過激なものである。


 一昨日の秋季パーティでの一件は、マベルス公爵夫妻の熟達した手腕によって収束化されると、取り急ぎバージニア家の身辺調査が行われた。


 そこで発覚した汚職と犯罪の数々──。


 内容はあまりにも非道な為に考えたくもないが、どれも元領主が行ったとは思えないほど人心に欠けたものだ。その発生件数は数百にも及ぶ。一領主として反吐が出る心持ちだが、これでもまだほんの一部に過ぎないらしい。


 今現在もマベルス公爵家の調査は続いており、バージニア家の悪事は次々と露呈されつつある。今朝方には彼等と繋がりの強い王家も後援を公表したため、今後の調査はより円滑に進むだろう。


 ここで問題となるのは、当家がバージニア家と少なからずの面識があった事だ。

 バージニア家とはスズメコウノトリ産の鉱石を取引した過去もあり、地方の事業にも顔を利かせてやった事もあった。当時はまさかそんな悪事に身を染めているとは思いもよらず、何の疑いもなく商談を進めた己の浅慮さを悔いるばかりだ。


 そんな繋がりから、昨日の正午前後には当家に家宅捜査が下された。これにはマベルス夫妻も同行したのだが、何故か、お茶会を開いて世間話をするだけであった。彼等は元々当家が犯罪とは無縁である事を知っていたらしく、世間に示しを付ける為に形だけの捜索を行ったらしい。


 唐突な公爵家の来訪には、自身も含める屋敷の関係者全員が慌てふためいていたが、その落差には随分と拍子抜けしてしまったものだ。特にロブの「どんな結末になろうとも、この老骨は旦那様と心中する所存です!」の言葉には胸を打たれるものがあった。それも全て杞憂に終わったが。


 その一方で、当家に益もあった。


 一つは、マベルス公爵家とのパイプがより強固なものになったこと。彼等とは事業や社交界を通じて、前から面識はあったものの、深く関わり合いになる事はなかった。王家と強い繋がりを持つ公爵家にとって、我が伯爵家は言わば弱小貴族。向こうから接触してくる分には構わないが、こちらから目立った動きを取る事はしなかったのだ。


 しかし、先日のお茶会で解った事だが、彼等は以前から当家に興味を持っていたようだ。それは自身の功績によるものもあったが、きっかけは彼等の御息女であるロザンナ嬢にある。

 ビクトル学園に通う彼女は愛娘のミルスと仲が良く、帰宅するなり、学園での出来事をよく楽しそうに話していたのだとか。


 これまであまり笑うことのなかった娘に笑顔が増えた。御宅のお嬢さんと仲良くして頂けて嬉しい。などと、マベルス夫婦には大層感謝を伝えられたものだ。


 それはこちらも同じ事で、頭を下げる彼等と同様に頭が上がらなかった。愛娘はロザンナ嬢のお陰で明るい学園生活を送れている。それは護衛の報告から、予てより明らかになっていた事だ。

 以前から彼等にはお礼を伝えたいと思っていたが、秋季パーティの日は途中で退出してしまったため、ついぞ相見える事もなかった。あの日の、愛娘を慮り過ぎた故に短慮な行動を取った自分が情けない。


 ロザンナ嬢と愛娘の親交の影響で、今後も両家の繋がりは強まっていくだろう。彼等夫妻には、いつか我が愛妻も紹介したいものだ。


 そしてもう一つ。これは喜んで良いのか微妙な線だが、今回の一件で当家の事業が大幅に好転されたのだ。

 なんでも、いま大々的に話題となっている”星屑”に感化されたらしく、件の鉱石を欲しがる貴族が軒並み増えた。その収益は予算編成の見通しを改めなければならない程だ。


 バージニア家には気の毒な結果となったが、当家にとっては今後の事業が上向きとなる兆しを得た。人生何があるか分からないものだ。



 ──そう、分からないものなのだ。


 再び深く溜息を吐くと、いつの間にか握り過ぎて皺になっている書簡を見つめる。


「......キース殿下。夜会での反撃にしては、些か度が過ぎてはいませんか...」


 書簡には、王家より愛娘への参内の旨が記されていた。


 つづく

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