表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

第5話 自然との対話、太陽の歩み

第5話:自然との対話、太陽の歩み


太陽(大地)は、部族の長老らしき、威厳のある、しかしその瞳の奥に温かさを秘めた人物の計らいで、集落の隅にある、海からの風を直接受けない、比較的小さな、しかし雨露をしのぐには十分な、頑丈な丸太と蔓で組まれた小屋を与えられ、そこで暮らすことになった。


言葉はまだ拙く、片言であり、部族の奇妙で、時には理解しがたい習慣にもなかなか馴染めない日々が続いたが、彼は持ち前の、誰に対しても壁を作らない人懐っこさと、裏表なく誠実に、そして相手の文化や立場を尊重して接する謙虚な態度で、少しずつ部族民との間にあった見えない心の壁を溶かしていった。

彼は、見よう見まねで部族の男たちの仕事を手伝い、また、好奇心旺盛な子供たちに、身振り手振りを交えながら遊んでもらい、彼らから言葉や島のルールを教えてくれるよう、積極的に頼み込んだ。


特に、部族の子供たちや、集落の周辺で放し飼いにされている家畜、そして島の豊かな森に棲む様々な動物たちは、太陽の持つ不思議と人を、そして動物すらも安心させる柔らかな雰囲気や、彼が時折、故郷を懐かしむように口ずさむ異国の、しかしどこか物悲しくも美しいメロディーにすぐに懐いた。

彼は、言葉が通じなくても、動物たちの感情の機微を何となく理解できるような気がした。

森で罠にかかり傷ついた小鳥を見つけては優しく手当てをし、母親とはぐれた子ヤギを、その匂いを頼りに母親の元へ無事に返したりすることもあった。

そんな彼の姿を見ているうちに、部族の人々は彼を「少し変わってはいるが、心優しく、動物たちに不思議なほど好かれ、あるいは自然の精霊に愛されているのかもしれない異邦人」として、徐々に、しかし確実に受け入れ、その存在を認め始めた。


ある日、森の奥深くで、部族の子供たちが珍しい木の実を拾っていたところ、縄張りを荒らされたと怒り狂った巨大な牙を持つ獰猛な猪に遭遇し、襲われそうになるという事件が起こった。

太陽は、子供たちの恐怖に満ちた悲鳴を聞きつけ、危険を顧みず、手にしていた魚突きの銛だけを頼りに駆けつける。

彼は、前世で見た自然ドキュメンタリー番組で得た、大型の野生動物の習性に関する断片的な知識を咄嗟に思い出し、近くに群生していた特定の植物の枝を折り、それを振り回しながら大声を上げ、さらに石と石を激しく打ち鳴らして大きな音を立てることで、見事、猛り狂っていた猪を怯ませ、追い払うことに成功した。

その勇敢な、そして機転に富んだ行動と、自らの危険を顧みず、身を挺して子供たちを庇おうとした優しい心は、部族民たちに、特に子供たちの親たちに大きな感銘を与え、彼の部族内での評価と信頼を一段と高めた。


太陽は、この世界の豊かで、時に容赦なく厳しい自然に日々触れる中で、前世では教科書の中の知識や、テレビ画面越しの映像でしかなかった動植物の生態や、自然の摂理の偉大さと恐ろしさを、その五感全てで日々肌で感じ、学んでいく。

彼は、この島で生き抜くためには、自然と敵対するのではなく、それと調和し、その恵みを敬意をもって分かち合い、そして時にはその力を借りることが重要だと考えるようになる。

そして、その知識と、自然と心を通わせる能力が、いつか必ず、愛する凛を見つけ出し、彼女と共に生きるための大きな力になるかもしれないと、かすかな、しかし確かな希望を抱き始めていた。


夜、小屋の窓から見える、日本の空とは異なる南十字星の鮮やかな輝きを見上げながら、彼は凛の無事を、ただひたすらに祈り続けた。

そして、胸に下げた、思い出の貝殻のペンダントを強く握りしめ、いつか必ず再会するという、心の底からの誓いを新たにするのだった。

その誓いが、彼の生きる力となっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ