第46話:隆中の庵、再訪と臥龍の不在、そして太陽の変わらぬ忍耐
第46話:隆中の庵、再訪と臥龍の不在、そして太陽の変わらぬ忍耐
太陽(大地)一行が、数ヶ月に及ぶ、再びの苦難の旅の末にたどり着いた諸葛亮の庵は、以前と変わらず、俗世の喧騒から完全に隔絶されたかのように、深い静寂と清雅な空気に包まれていた。周囲には丹精込めて手入れされた畑が広がり、初冬の間近だというのに、いくつかの野菜が瑞々しい緑の葉を茂らせている。その土壌は明らかに肥沃で、作物の育ちも良い。庵の傍らには、鏡のように澄んだ水を湛えた小さな池があり、そこには数羽の白い水鳥が静かに羽を休めていた。太陽は、この場所に住まう人物の非凡さと、自然と調和し、それを慈しむ生活ぶり、そして農事にさえも通じているらしいその実践的な姿勢を改めて感じ取り、彼への期待を一層強くした。
供の一人が、太陽の指示で庵の質素ながらも趣のある木の扉を、緊張した面持ちで数度叩くと、しばらくして中から以前と同じ、利発そうな顔立ちの童子が現れた。童子は、再び現れた太陽の姿に一瞬驚きの表情を見せたが、すぐにその顔を思い出し、慌てて深々と頭を下げた。
「これは、太陽王様。再びこの隆中の庵まで、ようこそお越しくださいました。前回のお帰りの際、先生は『あの方とは、いずれまた会うことになるだろう』と仰せでしたが、まさかこれほど早くとは…」
太陽は、童子が自分のことを覚えていてくれたことに安堵しつつ、旅の疲れを顔に出さぬよう努め、自らの身分と、再び遠路はるばる南海の地からこの隆中を訪れた目的――諸葛亮孔明先生に正式に軍師として加わっていただき、共に圧政に苦む益州の民を救い、新たな、そして真に民のための時代を築きたいという切なる願い――を、できる限り丁寧な言葉で、そして誠意を込めて丁重に告げ、庵の主である諸葛亮への面会を申し入れた。
「先生には、前回お会いした際に、いずれ天下のために立つべき時が来れば、とお言葉をいただきました。今こそ、その時ではないかと愚考し、まかり越した次第です。どうか、先生にお目通りを願いたい」
しかし、童子は申し訳なさそうに小さな頭をさらに深々と下げ、「誠に申し訳ございません、太陽王様。先生は昨夜より旧知の学友たち――徐元直殿や石広元殿といった方々――と連れ立って、遠方の山寺へ、珍しい経書や古文書の借覧に出かけられており、いつお戻りになるか、私ども下僕にも皆目分かりませぬ」と、流暢な言葉遣いで答えるのみだった。その瞳には、幼いながらも主を気遣う真摯さがうかがえたが、どこか太陽の反応を窺っているようにも見えた。
太陽は、その言葉に、隠しようのない深い落胆の色を浮かべた。再びの訪問、そして数ヶ月に及ぶ命懸けの旅の末にようやくたどり着いたというのに、またしても目的の人物に会えないとは。長旅で心身ともに疲労困憊していた供の者たちも、疲れと失望から、あからさまに不満の声を漏らし始めた。「王よ、一度お会いしているというのに、またしても不在とは…これは、我々を試しておられるのでは…それとも、単に我々を避けておられるのでは…」
しかし、太陽は彼らを静かに、しかし毅然とした態度で制し、「賢人を求める道が、容易であるはずがない。ましてや、臥龍とまで称されるお方だ。前回の訪問でその非凡な才の一端に触れたではないか。我々は、先生がお戻りになるまで、この近くで待たせていただこう。これもまた、我々の誠意と覚悟を示す、大切な道のりなのだ。それに、先生の学友の方々もまた、素晴らしい見識をお持ちなのだろう。その方々と語り合う機会を得るためにも、この地で待つ価値はある」と穏やかに、しかしその瞳には揺るぎない決意を宿らせて告げた。
彼は、庵の近くにある大きな木陰に静かに腰を下ろし、諸葛亮が戻るのを辛抱強く待ち始めた。日は中天から徐々に傾き、やがて冷たい冬の風が吹き始め、森の向こうに陽が沈んで夜の帳が完全に下りても、諸葛亮が戻ってくる気配は全くなかった。太陽は、満天の星空――それは故郷の空とは異なる配列だったが、同じように美しく輝いていた――を見上げながら、遠い北の地にいるであろう凛のことを、強く、そして切なく思った。彼女もまた、どこかで自分と同じように、困難に立ち向かい、深い孤独と戦っているのだろうか。その想いが、彼に再び力を与え、凍える心を奮い立たせた。
「凛、僕も頑張っているよ。必ず君を見つけ出すから。君なら、この状況をどう乗り越えるだろうか…」と、心の中で静かに呟いた。彼は、凛の持つ冷静な判断力と、困難に立ち向かう勇気を思い出し、自らを鼓舞した。




