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第40話:袁紹への挑戦状、そして微かに届く南の太陽の噂と雪華の決意

第40話:袁紹への挑戦状、そして微かに届く南の太陽の噂と雪華の決意

北平を新たな戦略的拠点とした雪華は、広大な領内の統治体制の整備と、軍備のさらなる増強、そして何よりも民生の安定に精力的に着手した。彼女は、氷月の的確な助言と献身的な補佐のもと、公平な税制を導入し、荒廃した農地の復興と農業生産の奨励(新たな農具の普及や灌漑施設の整備、彼女が前世で見た寒冷地向けの作物の試験栽培など)を行い、商業を保護育成し(市場の開設や度量衡の統一、不正の取り締まり)、そして何よりも雪狼兵の訓練をさらに強化し、その規模を大幅に拡大した。彼女の統治は厳格ではあったが、法と規律に基づき、公正さが徹底されていたため、民衆の生活は急速に安定を取り戻し、治安も飛躍的に向上した。その結果、多くの人々が彼女の統治を心から支持し、雪華への忠誠を誓った。彼女の領土は、北方の新たな理想郷となりつつあった。

しかし、雪華の野心は、北方の覇権確立に留まるものでは決してなかった。彼女の最大の、そして揺るぎない目標は、依然として中原の完全な平定と、そこで生き別れた、魂の片割れとも言える幼馴染・大地との再会であった。そのためには、河北四州に巨大な勢力を誇る、四世三公の名門・袁紹との対決が、もはや避けられない、そしておそらくはこれまでのどの敵よりも困難な最大の試練であることを、彼女は十分に、そして痛いほど理解していた。袁紹は、その比類なき家柄の威光と人脈を背景に、顔良・文醜といった当代きっての猛将や、田豊・沮授・審配・逢紀といった多士済々な、しかし内部に対立も抱える参謀たちを擁し、当時の中原で曹操と覇を競う、最も強大で、かつ正統性に最も近いと目される勢力の一つであった。雪華にとって、袁紹はこれまでのどの敵よりも強大で、その動員できる兵力も、経済力も、そして権謀術数の巧みさも桁違いであり、極めて困難な相手となるだろう。

雪華は、袁紹との決戦に備え、情報収集をこれまで以上に強化すると共に、外交戦略も多角的に、そして巧妙に展開する。彼女は、袁紹と対立関係にある他の諸侯(例えば、公孫瓚の残党勢力や、中原各地で蜂起する黒山賊のような独立勢力、さらには袁紹の弟であり、淮南で帝を僭称した袁術の残党など)との連携も密かに模索し始める。敵の敵は味方、という冷徹な現実主義が彼女の戦略の根底にはあった。氷月は、袁紹の支配下にある諸都市の不満分子や、袁紹の息子たちの派閥(特に長男の袁譚と三男の袁尚の間には、後継者を巡る深刻な対立があった)に属する者たちへも、内応を促す密書を送り始めていた。彼女は、袁紹という巨人を内側から崩すための布石を、着実に打っていた。

そんな中、雪華の許に、遠く南方で「太陽王」と名乗る若き指導者が、益州や荊州南部という広大な地域を、驚くべき速さで席巻し、その地でかつてないほどの善政を敷き、民衆からまるで生き神か太陽そのもののように絶大な支持と敬愛を得ているという、より詳細で、複数の信頼できる情報源から裏付けの取れた、信憑性の高い情報が、複数の経路(幽州や并州を経由してきた交易商人、あるいは南海から北上してきた船乗りなど)からもたらされるようになった。

その指導者は、人々を惹きつけてやまない不思議なカリスマ性と、温かく包み込むような慈愛に満ちた人柄を持ち、巨大な象を巧みに操る屈強な部隊を擁し、そして何よりも「仁愛」と「共存」「多様性の尊重」を基本理念とした、当時の中原の常識では考えられないほど革新的な、理想に満ちた統治を行っているという。報告によれば、太陽王は黒髪黒目、その姿は中原の人間と何ら変わりないが、その言葉には不思議な力があり、異なる部族の者たちでさえ彼に心服するという。そして、その王の胸には、白い貝殻のペンダントが輝いているという、奇妙な噂も付け加えられていた。

その報告を聞いた雪華の心臓は、これまでにないほど激しく、そして痛いほどに高鳴った。その人物像、その統治方針、そして何よりも「太陽」という、あの懐かしい、そして片時も忘れたことのない名。白い貝殻のペンダント――それは、かつて自分が大地に贈ったものと酷似していた。その全てが、彼女の記憶の奥底に、今もなお鮮やかに生き続ける、愛しい幼馴染・大地の姿と、あまりにも多くの点で、そしてあまりにも鮮烈に、そして奇跡的に一致していたのだ。

(まさか…本当に…? でも、もし、万が一にも本当に大地だとしたら…彼は、どんな思いで、どんな想像を絶する苦労を重ねて、そこまで…そして、なぜ今まで何の音沙汰も…いや、この戦乱の世だ、連絡など取れるはずもない…でも…あのペンダントが、もし本当に…)

確証はない。しかし、雪華の胸には、熱いものが込み上げてくるのを抑えることができなかった。彼女は、袁紹を打ち破り、河北を完全に平定し、そして必ず南方へ向かい、その真偽を、この目で確かめると、改めて固く心に誓う。大地との再会という個人的な、しかし何よりも強い願いと、この乱世を終わらせ、民に真の平和をもたらすという公的な使命感が、彼女の中で分かちがたく結びつき、燃え盛る炎のように彼女を突き動かしていた。

北の雪原で鍛え上げられた若き狼姫は、今や中原全体をその鋭い視野に収め、次なる巨大な獲物へと、その研ぎ澄まされた爪を、そしてその類まれな知略を向けようとしていた。彼女の壮大な物語は、まさに新たな局面を迎えようとしていた。その瞳は、燃えるような決意を宿し、遥か南の空を見つめていた。

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