表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/51

第37話:氷月の策、誘引の罠と心理戦の応酬

第37話:氷月の策、誘引の罠と心理戦の応酬

ついに公孫瓚は、数万と号する(実数は三万程度か)大軍を動員し、雪華の領地への本格的な侵攻を開始した。その先陣を切るのは、陽光を浴びて雪原に眩く輝く白銀の鎧を纏い、純白の駿馬に跨った精鋭中の精鋭「白馬義従」だった。彼らの進軍は迅速かつ整然としており、その威容は見る者を圧倒した。国境付近に点在する雪華側の小規模な砦や見張り所は、その圧倒的な機動力と破壊力の前に、なすすべもなく次々と陥落していった。白馬義従の放つ矢は、雪のように降り注ぎ、雪華軍の兵士たちを苦しめた。

雪華は、氷月が数ヶ月をかけて練り上げた巧妙な策に従い、正面からの大規模な衝突を避け、意図的に、そして計算された段階的な後退を繰り返した。雪狼兵の一部を、地形に詳しい者や元遊牧民を中心とした遊撃部隊として残し、公孫瓚軍の伸びきった兵站線に対し、執拗かつ効果的な奇襲攻撃を断続的に行わせ、敵に食糧不足と心理的な圧迫を与えながら、主力部隊をあらかじめ選定しておいた決戦の地へと巧みに誘い込む作戦だった。この遊撃部隊は、夜陰に紛れて公孫瓚軍の糧秣庫に放火したり、伝令を捕らえて偽の情報を流したり、あるいは小規模な伏兵で敵の斥候部隊を殲滅したりと、神出鬼没の戦術で敵を内側から攪乱した。彼らは、雪華が前世の記憶からヒントを得て考案した、狼煙や鏡を使った長距離通信手段も活用し、本隊と連携を取っていた。

決戦の地として選ばれたのは、界橋かいきょうと呼ばれる、両側を険しい岩肌の丘陵に挟まれ、中央を雪解け水を集めた急流が流れる、極めて狭隘な谷間だった。ここは、大軍を展開するには著しく不向きであり、特に騎兵の最大の武器である機動力を十分に発揮できない、守るに易く攻めるに難い、まさに天然の要害であった。氷月は、この地形を詳細に分析し、敵軍を分断し、包囲殲滅するための罠を幾重にも仕掛けていた。

公孫瓚は、雪華軍の度重なる後退を、彼女の軍事指導者としての経験不足と、雪狼兵の士気の低さの表れと判断し、追撃の手を緩めなかった。彼は、この機に一気呵成に雪華の本隊を叩き潰し、その首を刎ねることで自らの武威を天下に示し、北方の覇権を完全に確立しようと、白馬義従を先頭に、勇躍して、しかし油断しきってその死地とも知らず谷間へと進軍する。彼の側近の一人、田楷でんかいは慎重な進軍を諌言したが、功を焦る公孫瓚は聞く耳を持たなかった。

しかし、その先には、雪華と氷月が数ヶ月をかけて、現地の地形を徹底的に調査し、準備した巧妙かつ多重的な罠が、静かに、そして確実に待ち受けていた。谷間の両側の丘陵には、雪狼兵の弓兵部隊と、射程と精度を格段に向上させた改良型の小型投石機(それは、雪華が前世で見た、カウンターウェイト式の投石機の原理を応用したものだった)が、巧みに偽装されて多数配置され、谷底の川岸や浅瀬には、騎兵の足を確実に阻むための鋭利な逆茂木や、見えにくい鉄菱てつびし、そして底なし沼のように足を取られる偽装された湿地帯が、巧妙に隠されていた。

さらに、氷月は公孫瓚の傲慢で功を焦る性格を正確に分析し、彼が確実に深入りするよう、様々な偽情報(例えば、雪華軍内部での不和や、兵糧不足で士気が低下しているという噂、あるいは雪華自身が負傷したという偽報など)を、捕虜にした公孫瓚軍の兵士をわざと逃がしたり、買収した商人に流させたりして、彼の判断を誤らせる高度な心理戦も同時に展開していた。「公孫瓚は、自らの武勇を過信するあまり、慎重さを欠く。必ずや我々の罠にかかるでしょう。彼は、かつて袁紹に敗れた経験を忘れているようです」氷月は雪華にそう断言した。雪華は、その言葉を信じ、全軍の命運を氷月の策に託した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ