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第36話:白馬の蹄音、迫りくる戦雲と南方に揺れる心の影

第36話:白馬の蹄音、迫りくる戦雲と南方に揺れる心の影

北方をほぼ平定し、その名を雪原の民だけでなく、中原の一部の情報通にまで轟かせ始めた雪華(凛)の許に、幽州の太守であり、歴戦の勇将として知られる公孫瓚こうそんさんが、明確な敵対的動きを強めているという詳細かつ確度の高い報が、氷月の張り巡らした広範な情報網からもたらされた。

公孫瓚は、雪華の急速な台頭と、北方遊牧民への影響力の拡大を「北の蛮族を束ねる、成り上がりで危険な小娘風情」と公言して憚らず、その存在を自身の権益と、長年異民族と戦ってきた自負に対する許しがたい挑戦と捉えていた。彼は、その勇名を中原にまで轟かせている無敵の精鋭騎兵「白馬義従はくばぎじゅう」を国境付近に集結させ、雪華の領地への侵攻の機会を虎視眈眈と、そして公然と窺っていた。公孫瓚は、雪華が烏桓の蹋頓と同盟を結んだことを特に危険視し、「蛮族同士が手を結び、中原を脅かそうとしている。放置すれば、いずれ漢室の脅威となるであろう」と周囲に吹聴し、自らの行動を正当化しようとしていた。

雪華は、公孫瓚との戦いがもはや避けられないことを覚悟し、氷月と共にその対策を練り始めた。白馬義従は、その名の通り純白の駿馬に跨り、揃いの白銀の鎧を纏った、見た目にも美しいが恐ろしく強力な軽装騎兵であり、その驚異的な機動力と卓越した弓術の巧みさは、これまでの遊牧民のやや統制を欠いた騎馬隊とは比較にならないほどの脅威だった。雪華は、前世の歴史の記憶――公孫瓚がその白馬義従を率いて数々の戦功を挙げたこと、しかし最後は袁紹に敗れたこと――を思い出しつつも、この世界の公孫瓚が同じ運命を辿るとは限らないと気を引き締めた。彼らとの広大な平原における正面からの騎馬戦は明らかに不利であると冷静に判断し、地形を最大限に利用した戦術と、雪狼兵の鉄の規律と組織的な連携を極限まで活かす作戦を模索する。彼女は、氷月と共に、幽州の地図を広げ、決戦の地となりうる場所の選定を始めていた。

一方、公孫瓚の陣営では、雪華の力を過小評価し、「所詮は女子供の蛮族の集まり。雪狼兵とて、我が白馬義従の敵ではない」と侮る声が大勢を占めていた。彼の配下の将軍たちの多くは、雪華の軍勢を規律も知らない烏合の衆と見なし、白馬義従の圧倒的な力をもってすれば、一蹴するまでもなく容易に蹴散らせると豪語し、早期の開戦を主張していた。

しかし、公孫瓚自身は、長年にわたる異民族との血で血を洗う激しい戦いで培った経験から、雪華という未知の、そして不気味なほど急速に力をつけた若き敵に対し、油断することなく慎重な姿勢を崩さなかった。彼は、雪華が北方の荒々しい遊牧民を短期間でまとめ上げ、規律ある強力な軍隊を組織したその卓越した手腕に、一抹の、しかし無視できない底知れぬ不気味さを感じ取っていたのだ。「あの小娘、侮ってはならん。その瞳には、ただの蛮族の長ではない、何か得体の知れぬ光がある」と、彼は側近に漏らしたという。

両者の思惑が複雑に交錯する中、雪華が新たに支配下に置いた領地と、公孫瓚の勢力圏である幽州との境界線では、互いの斥候部隊同士の小規模な衝突が日常的に頻発し、戦雲は日増しにその色を濃くし、凍てつく北の大地に不気味な緊張の糸を張り巡らせていた。

そして、そんな緊迫した状況の中、遠く南方からは、依然として「太陽王」という謎の指導者が、多くの民衆の圧倒的な支持を得てその勢力を急速に拡大しているという、断片的ではあるが無視できない噂が、交易商人などを通じてもたらされ続けていた。その王は、信じられないほどの仁政を敷き、異民族とも融和し、巨大な象を操る軍隊を持つという。雪華は、その「太陽」という名を聞くたびに、胸の奥が騒ぎ、心が揺れるのを感じつつも、今は目の前の強敵である公孫瓚に全神経を集中させなければならないと、自らを厳しく律するのだった。

「今は、公孫瓚を倒すことだけを考える。それが、いずれ大地に繋がる道だと信じて…。そして、もし太陽王が本当に大地なら、彼に恥じないだけの力を、私は持たなければならない」

その決意の裏には、もし太陽王が大地でなかった場合の、言いようのない失望への恐れも隠されていた。

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