表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/51

第34話:鮮卑の牙、雪狼の凍てつく咆哮と氷月の罠

第34話:鮮卑の牙、雪狼の凍てつく咆哮と氷月の罠

雪華と烏桓の有力部族長・蹋頓との同盟締結という衝撃的な報は、敵対的な鮮卑の部族長であり、その勇猛さと残忍さで草原に名を轟かせる軻比能かびのうの耳にも、瞬く間に届いた。軻比能は、勇猛果敢で知られるが、同時に短慮で、自らの力を過信する傲慢な男であり、雪華の存在を、自らが目指す草原の絶対的な覇権への、許しがたい障害と見なしていた。彼は、雪華の力がこれ以上増し、他の遊牧民部族との連携を強固にする前に、電撃的な奇襲によって彼女の拠点を一気に壊滅させ、その首を刎ねることで、自らの武威を草原全土に示そうと企む。彼は、蹋頓が雪華に懐柔されたことを「遊牧の民の誇りを忘れた臆病者」と罵り、自らこそが真の草原の勇者であると信じていた。

軻比能は、数千の、選び抜かれた精鋭騎馬隊を率い、折からの記録的な猛吹雪に巧みに紛れて、雪華たちの部族の主要な集落へと、音もなく、そして迅速に迫った。雪華側の見張りは、異常な悪天候と、鮮卑兵の巧みな隠密行動(彼らは白い毛皮を身にまとい、雪に紛れていた)により、敵の接近を、集落の目前まで許してしまうという致命的な失態を犯した。夜陰と猛吹雪を突いた、完璧なタイミングでの奇襲に、集落は一瞬にして阿鼻叫喚の大混乱に陥り、非戦闘員である民衆は、なすすべもなく恐怖に怯えた。「鮮卑の襲撃だ!」という叫び声が、吹雪の音にかき消されそうになりながらも響き渡った。

しかし、雪華は冷静だった。彼女は、敵襲の第一報を受けると同時に、即座に雪狼兵に迎撃態勢を取るよう厳命し、氷月と共に迅速かつ的確に防衛戦術を指示した。彼女は、以前から軻比能の好戦的な性格と、奇襲を得意とする戦術を警戒しており、氷月と共に、万が一の事態に備えた防衛計画を密かに練っていたのだ。

「敵は数で我々を上回る! そして、不意を突かれた! しかし、彼らは我々の地の利を、そして雪狼兵の真の力をまだ知らない! 雪狼兵よ、我々の鉄の規律と、この集落の地の利を最大限に活かせば、必ずや勝機はある! 臆することなく、敵を迎え撃て! 我らの故郷を、我らの手で守り抜け!」

雪華の厳しくも力強い言葉は、混乱しかけていた雪狼兵たちの心を瞬時に引き締め、彼らに不屈の闘志を蘇らせた。

雪狼兵は、改良された鉄製の槍と盾を構え、猛吹雪の中を突進してくる鮮卑の騎馬隊を、集落の入り口に設けられた、氷月が事前に設計しておいた巧妙な防御陣地(鋭利な逆茂木や、見えにくい氷の壁、そして足元を滑らせるための凍結させた傾斜地など)で迎え撃った。雪華は、集落の周囲に巧みに配置しておいた防御施設――それは、前世の知識にある、城壁や塹壕の概念を、この雪原の環境に合わせて応用したものだった――を最大限に利用し、敵の騎馬隊の突進力を削ぎ、狭い場所に敵を誘い込み、弓兵による集中射撃と、雪狼兵の密集方陣による槍衾で、敵の勢いを効果的に削いだ。

氷月は、さらに大胆な策を講じた。集落内のいくつかの空き家や、風上にある枯れ木に事前に油を染み込ませた可燃物を仕込み、風向きを正確に計算した上で、軻比能軍が最も密集した瞬間に火を放ったのだ。炎は猛吹雪にあおられて激しく燃え上がり、強烈な熱風と黒煙が鮮卑兵を襲い、彼らの視界を奪い、馬を混乱させた。これは、敵の不意を突くだけでなく、彼らの士気をくじき、恐怖心を煽るための非情な、しかし効果的な罠だった。

戦闘は熾烈を極めた。鮮卑の騎兵は個々の武勇に優れ、吹雪の中でも正確な騎射を行い、獣のような奇声を発しながら雪狼兵に襲い掛かり、心理的にも圧迫しようとする。しかし、雪狼兵は雪華の的確な指揮のもと、一糸乱れぬ連携と、密集方陣による鉄壁の守りでこれに対抗。負傷者が出ても即座に後方の兵と交代し、隊列を微塵も崩さず、仲間を庇いながら粘り強く戦い続けた。彼らは、この数ヶ月の訓練の成果を、今こそ示す時だと奮い立っていた。

雪華自身も、愛馬の「飛雪ひせつ」に跨り、戦場の中心で自ら弓を引き絞り、その神業的な腕前で的確に敵の指揮官クラスや、馬上の弓兵を射抜いていく。その姿は、猛吹雪の中で舞う、まさに雪原の戦女神のようであり、雪狼兵たちの士気を極限まで高めた。彼女の矢は、風を読み、雪を切り裂き、確実に敵の急所を捉えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ