表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/51

第32話:異民族との駆け引き、氷月の深謀遠慮と情報戦の開始

第32話:異民族との駆け引き、氷月の深謀遠慮と情報戦の開始

雪華は、氷月と共に、北方遊牧民の諸部族に対する、より詳細かつ組織的な情報収集を、これまで以上に徹底的に開始した。信頼できる交易商人(その中には、雪華の公正な統治に感銘を受け、協力するようになった者もいた)や、帰順した元遊牧民を通じて各部族の内部事情――族長の性格や健康状態、後継者問題の有無、部族間の力関係や対立の歴史、経済状況や交易への依存度、さらには彼らの信仰や禁忌に至るまで――を多角的に探り、戦闘で捕虜にした遊牧民からは、彼らの戦術の長所と短所、部族内の不満分子の存在、そして彼らが何を最も恐れ、何を最も欲しているのかを、巧みな尋問(時には氷月自身が、相手の心理を巧みに操りながら情報を引き出した)によって聞き出した。

その結果、遊牧民たちは決して一枚岩ではなく、部族間に根深い勢力争いや、積年の遺恨に起因する対立が存在すること、そして彼らの多くが、中原の洗練された絹織物や美しい陶磁器、茶、そして何よりも雪華たちが生産する質の高い鉄製品(特に武器や馬具、農具の刃先など)といった物資を、喉から手が出るほど切望していることが、改めて明確になった。氷月は、捕虜にした遊牧民の中から、故郷に家族を残す者や、現在の族長に不満を持つ者を選び出し、彼らに雪華の統治の公正さや、交易による利益を説き、密偵として再潜入させることも試みた。それは、後の「雪兎」と呼ばれる情報部隊の原型ともなった。

氷月は、これらの詳細かつ機微に触れる情報を元に、硬軟織り交ぜた、多角的かつ長期的な視点に立つ戦略を立案した。それは、単なる武力による制圧や殲滅ではなく、外交、経済、そして諜報活動を巧みに駆使した、まさに権謀術数の限りを尽くす、高度な政治的ゲームであった。

「雪華様、全ての遊牧民部族と正面から敵対する必要はございません。むしろ、それは我々の貴重な力を無駄に消耗させるだけの愚策です。彼らの中にも、我々と友好関係を築き、安定した交易を通じて互いに利益を得ることを望む、理性的な指導者が必ずいるはずです。まずは、比較的穏健で、我々との交易に大きな経済的利益を見出すであろう部族に対し、丁重に使者を送り、互恵的な同盟を結ぶことを試みましょう。その際には、彼らの文化や慣習を最大限に尊重し、対等な立場であることを強調すべきです。そして、その同盟の力を背景に、特に好戦的で我々に敵対的な部族に対しては、経済的な圧力をかけ(例えば、彼らが欲する物資の供給を制限する、あるいは同盟部族を通じて我々の製品の価格を吊り上げるなど)、彼らの内部対立を巧妙に煽り、それでもなお我々に牙を剥くようであれば、その時は躊躇なく、しかし最小限の犠牲で、断固たる武力を行使し、その力を徹底的に削ぐのです。飴と鞭、そして分断統治。これこそが、複雑怪奇な彼らを御する唯一の道と愚考いたします。また、彼らの優れた騎馬技術や、広大な草原での生存術は、我々も学ぶべき点が多いかと」

氷月の言葉には、遊牧民の力を利用することも視野に入れた、より大きな戦略が込められていた。

雪華は、氷月の冷徹なまでに現実的で、しかし極めて効果的と思われる策に深く同意し、早速行動を開始した。まず、雪狼兵の中から特に弁舌に長け、胆力があり、かつ遊牧民の言語や独特な慣習(例えば、客人のもてなし方や、盟約の際の儀式など)にある程度通じている者を選び出し、使者としていくつかの有力な烏桓の部族へ派遣した。使者たちは、雪華からの心のこもった親書と、彼らが欲するであろう中原の珍しい品々(例えば、美しいガラス玉や、精巧な装飾品、そして少量だが上質な茶葉)、そして何よりも雪華の部族が生産する、従来のものとは比較にならないほど高品質な改良された鉄製の武具(切れ味の良い短剣や、頑丈な馬具など)を見本として携え、公正な交易の開始と、相互不可侵条約の締結を提案した。

この外交交渉は、当初、想像以上の困難を極めた。遊牧民たちは、その誇り高さ故に、農耕を主とする定住民である雪華たちを「弱く、劣った者」と見下す傾向が強かった。彼らは、使者たちを試すかのように、過酷な馬術の競争を挑んだり、大量の酒を飲ませて本心を探ろうとしたりした。しかし、雪華の使者たちは、氷月から事前に授けられた詳細な交渉術(相手の心理を読み、時にはハッタリを効かせ、時には相手の自尊心を巧みにくすぐる)と、背後に控える雪狼兵の圧倒的な武威という「見えない圧力」を巧みに背景にちらつかせながら、粘り強く、そして時には相手の弱みや内情につけ込むような、非情なまでの駆け引きを交えながら、説得を続けた。使者の一人は、ある部族の宴席でわざと酒に酔ったふりをし、敵対部族の動向に関する偽情報を漏らすなど、高度な情報操作も行った。彼はまた、遊牧民の子供たちに小さな玩具を与え、彼らの心を掴むといった、地道な努力も忘れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ