第3話 南海の黎明、異邦の青年「太陽」
第3話:南海の黎明、異邦の青年「太陽」
大地がゆっくりと、重い泥沼から引き上げられるように意識を取り戻した時、最初に感じたのは、むせ返るような、湿り気を帯びた熱気だった。濃厚な、未知の植物が放つ、甘くも刺激的な、しかしどこか懐かしいような、力強い生命力に満ちた匂いが、彼の鼻腔を遠慮なく満たす。
薄目を開けると、鬱蒼と茂る巨大な、見たこともない形状の、瑞々しい緑色の葉の間から、肌をジリジリと焦がすような強烈な陽光が、容赦なく降り注いでいた。
身体の節々が、錆びついた機械のように軋み、鈍く痛んだ。自分が硬く冷たい、そして湿り気を帯びた苔むした地面の上に、まるで打ち捨てられたかのように無造作に横たわっていることに、ようやく気づく。頭上からは、聞いたこともない鳥の声が、けたたましく響いていた。
(……ここは……日本じゃない……間違いなく……天文部の、あの部室じゃ……ない……あの光は一体……何だったんだ……? 夢……じゃないのか……?)
混乱した頭で周囲を見渡すと、肌の色が濃く、太陽に焼かれた褐色の肌を持つ人々が、身体の至る所に、鳥や魚、あるいは波のような流麗な曲線を象った、奇妙で複雑な模様の刺青を施し、先端を鋭く尖らせた木の槍や、石を磨いて作られた粗末な斧を手に、遠巻きに、しかし張り詰めた緊張した面持ちで彼を囲んでいた。
彼らの言葉は全く理解できず、その鋭い視線は、剥き出しの警戒心と、同時に見たこともない異物を見るような、強い好奇心に満ちていた。腰には、草で編んだ簡素な布をまとっているだけだった。
大地は、自分がこの南海の、おそらくは地図にも載らない未知の島に、何らかの理由で流れ着いた異邦人であることを、彼らの威嚇するような身振り手振りと、時折見せるわずかな同情とも憐れみともつかぬ表情、そして彼らが自分を指差して何かをヒソヒソと囁き合っている様子から、おぼろげに察した。
彼らは、太陽に焼かれた逞しい褐色の肌に、鮮やかな青や赤の顔料で描かれた、部族の誇りを示す刺青を施し、色とりどりの美しい貝殻や、獣の牙や骨で作られた首飾りなどでその身を飾る、明らかに海と共に生きる、海洋部族のようだった。
集団の中から、ひときわ多くの装飾品を身に着け、威厳のある落ち着いた雰囲気を漂わせた年配の男――おそらく長老か、あるいはこの部族の族長なのだろう――が、一歩前に進み出て、大地に向けて何かを問いかけるように、しかし依然として警戒を解かない鋭い目で語りかけてくる。その言葉の意味は、まるで異国の呪文のように分からなかったが、その声の調子や表情、そして周りの者たちの反応から、彼らが大地をすぐに害する意思は今のところないこと、しかし同時に、彼の存在をどう扱うべきか、まさに決めかねている様子がひしひしと伝わってきた。
彼らは、彼のことを「太陽」と、聞き慣れない抑揚で呼んでいるようだった。正確な発音は聞き取れないが、何度も繰り返されるその音は、確かにそう聞こえた。彼が目覚めた時、この部族の人々とは明らかに異なる、太陽の光を反射してキラキラと輝く明るい茶色の髪の色や、あるいは空から降ってきたかのような彼の出現状況から、そう呼び始めたのかもしれない。あるいは、彼らが信仰する何らかの太陽神と結びつけられたのかもしれないが、今の彼には知る由もなかった。
しかし、どれだけ周囲を見回しても、あの時まで確かに隣にいたはずの、凛の姿はどこにも見当たらない。あの眩い光に包まれた瞬間まで、確かに彼女は自分の隣にいて、自分の手を握ろうとしていたはずなのに。
(凛……! 凛はどこだ……!? 無事なのか……!? 僕たちは、一緒にいたはずなのに……どうして……!)
声を嗄らして、必死に凛の名を叫んでも、返ってくるのは部族民たちの訝しげな視線と、警戒を強めたような威嚇する低い唸り声、そしてやはり全く理解不能な言葉の羅列だけだった。その声は、彼らの間では意味をなさず、ただの奇妙な音としてしか認識されなかった。
彼は、自分がこの全く見知らぬ土地で、完全に孤立無援の状態にあることを、絶望的なまでに痛感し、身体の奥底から震えが込み上げてくるのを感じた。目の前が真っ暗になり、息が詰まるような圧迫感。どうしようもない孤独と不安が、津波のように彼を襲った。
しかし、その絶望の淵で、脳裏に鮮やかに浮かぶのは、最後に見た凛の、あの優しい笑顔と、流れ星に託した「二人で優しい世界を」という、あの日の無邪気な、しかし心の底からの真剣な願いの言葉だった。そして、凛が最後に自分の名を呼んだ、あの切羽詰まった、悲痛な声。
ふと、胸元に手をやる。そこには、幼い頃に凛と、互いの宝物を交換する形で贈り合い、それ以来、片時も離さずお守りとしてずっと身に着けていた、古びた小さな白い貝殻のペンダントの、冷たい感触があった。その小さな、けれど彼にとっては無限の価値を持つ確かな存在が、彼の心にかすかな、しかし決して消えることのない希望の灯を、再びともしてくれた。
(……諦めちゃだめだ……絶対に諦めるもんか! 凛だって、きっとどこかで生きているはずだ……! 僕が諦めてどうする! 絶対に見つけ出して、あの約束を、二人で交わした願いを果たすんだ!)
大地は、この未知の世界で何としてでも生き抜き、必ず凛を見つけ出すと、固く、強く心に誓った。そのためにはまず、この部族の人々に受け入れられ、彼らの言葉を覚え、情報を集め、この世界について学ばなければならない。
大地は、まだおぼつかない足取りでゆっくりと立ち上がり、警戒を解かない部族民たちに向けて、精一杯の友好的な、そして助けを求めるような、どこか子供じみた純粋な笑みを、必死に浮かべようと努めた。
彼の長く困難な、しかし希望に満ちた旅は、今まさに、この南海の未知の島から始まるのだ。