第24話:疫病の闇、希望の光と小さな犠牲、そして太陽の誓い
第24話:疫病の闇、希望の光と小さな犠牲、そして太陽の誓い
長く、そして過酷な干ばつの試練を、太陽の知恵と、部族民の不屈の努力によって辛うじて乗り越え、人々がようやく安堵の息をつき始めたのも束の間、今度は、まるで息を潜めてその機会を待っていたかのように、得体の知れない、そして恐ろしい熱病が、まるで弱り切った部族に、さらなる追い打ちをかけるかのように、集落内で急速に、そして容赦なく蔓延し始めた。
最初に高熱を発し、激しい悪寒と、止まることのない咳に苦しみ、やがて全身を、骨がきしむかのような耐え難い痛みが襲う。その症状は見る間に悪化し、人々は次々と病床に呻き、倒れていった。特に、干ばつで体力を奪われていた者たちが、真っ先にその犠牲となった。
部族の、顔に奇怪な模様を描き、鳥の羽根や獣の骨で身を飾ったシャーマンが行う、太鼓を打ち鳴らし、踊り狂う伝統的な呪術的な治療や、神々への、血の生贄さえも伴う必死の祈祷も、この目に見えない恐怖の前には全く効果がなく、特に抵抗力の弱い、まだ幼い子供たちや、体力の衰えた老人を中心に、次々と、そしてあまりにもあっけなく死者が出始める。昨日まで元気に走り回っていた子供が、翌日には冷たい骸となって発見される。そんな悲劇が、日常茶飯事のように繰り返された。
部族は再び、先の干ばつ以上の、深い恐怖と、先の見えない混乱、そして、もはや神々に見放されたのではないかという、底なしの絶望の渦に、まるで飲み込まれるかのように包まれた。集落は、死の匂いと、人々の嗚咽、そして絶望的な静寂に支配されていた。
太陽は、この未知の病が引き起こす、特異な症状の数々――周期的に繰り返される高熱、関節の激しい痛み、そして特定の季節に集中して発生する傾向――が、彼が前世で、書物や映像を通じておぼろげに知っていた、不衛生な環境や、特定の種類の虫が媒介する感染症(例えば、熱帯地方で猛威を振るう、蚊が媒介するマラリアやデング熱、あるいは、汚染された水や食物を通じて感染する腸チフスなど)の症状に、恐ろしいほど酷似していることに、いち早く気づいた。彼は、天文部の部室にあった医学関連の入門書や、世界各地の風土病に関するドキュメンタリー番組の記憶を必死に手繰り寄せていた。
彼は、この、見えない敵である未知の病の拡大を、一刻も早く食い止めるためには、まず、その感染経路、すなわち感染源を特定し、そして何よりも、集落全体の、これまであまり顧みられることのなかった衛生環境を、徹底的に、そして根本から改善することが不可欠だと、その鋭い直感で理解した。
彼は、信頼する友である岩牙と共に、病人が特に多く出ている地域の、生活環境(それは、飲み水として利用している水場、人々の住居の構造や密集度、そして、生ゴミや排泄物の処理状況など、多岐にわたった)を、自らの感染の危険も顧みず、入念に、そして注意深く調査し、その結果、特定の種類の、縞模様を持つ蚊が異常発生している、淀んだ水たまりや、生活排水が流れ込み、明らかに汚染された井戸水が、最も可能性の高い感染源であると判断する。
そして、前世で得た、蚊の生態に関する知識(例えば、蚊が水面に卵を産み付け、幼虫がそこで成長すること)と、この島で、数年間暮らす中で見聞きし、実際に試してきた植物に関する豊富な知識を総動員し、蚊が、その強い特有の芳香を極端に嫌う、いくつかの特定のハーブ(それは、レモングラスやユーカリにどこか似た、この島固有の、清涼感のある香りを放つ植物だった。以前、森でその香りに気づき、虫除けになるかもしれないと考えていた)を見つけ出し、それを燻して煙を立て、住居の周囲にその煙を充満させたり、あるいは、その植物の汁を絞り、直接体に塗ったりすることを、人々に強く推奨した。また、水たまりを土で埋め、井戸の周囲を清潔に保つよう指導した。
また、飲み水は、必ず一度、薪の火でグラグラと沸騰させてから飲むこと。汚水やゴミは、集落から離れた場所に、深く掘った穴にまとめて処理すること。そして、病に倒れた者との接触は、看病する者以外は極力避ける(ただし、それは彼らを社会から完全に隔離し、見捨てるという意味ではなく、あくまで感染拡大を防ぐための、苦渋の選択であった。彼は、患者の家族には、手洗いの重要性や、看病の際の注意点を丁寧に説明した)といった、当時の、呪術と迷信が支配するこの部族社会においては、あまりにも画期的で、そして理解しがたい衛生観念を、時には優しく、時には厳しく、そして何よりも根気強く、一人ひとりの部族民に教え、そして自らが率先して実践させた。
最初は、その奇妙で、そして面倒なやり方に半信半疑で、「そんなことをして何になるのだ」「神々の怒りをさらに買うだけだ」と、古い慣習やシャーマンの教えを絶対のものとして重んじる一部の長老からは、「異人の、根拠のない戯言」「神聖なる部族の伝統を汚す、神の怒りを買う行為だ」と、激しい反発と非難を受けた部族民たちも、太陽の、自らの命の危険さえも顧みない、献身的で、そしてどこまでも真摯な看護の姿や、彼の、一見奇妙に思える指示に、藁にもすがる思いで素直に従った者たちの間で、驚くほどに病状が劇的に改善していくのを、その目で直接目の当たりにするうちに、徐々に、そして確実に彼の言葉を信じ、全面的に協力するようになっていった。
太陽自身もまた、眠る間も惜しみ、自らの食事や休息さえも後回しにして、病に苦しむ人々の世話を、文字通り不眠不休で、献身的に続けた。その過程で、彼は、偶然にも、いくつかの、この島に自生する薬草の、これまで知られていなかった組み合わせ(それは、解熱作用のある葉と、咳を鎮める効果のある根、そして滋養強壮に繋がる木の実を特定の割合で煎じたものだった)が、高熱を下げ、激しい咳を鎮め、そして衰弱しきった体力を、ゆっくりとではあるが回復させる効果があることを、試行錯誤の末に発見し、それを、部族の分け隔てなく、全ての人々に惜しみなく分け与えた。
しかし、彼の懸命な努力と、部族民の協力が得られ始めた矢先、その希望の光を打ち砕くかのような、あまりにも残酷な出来事が起こる。
太陽が、部族に来てから特に心を寄せ、その小さな手に自分の大きな指を握らせては、遠い故郷の物語を語り聞かせ、キラキラと輝く瞳で自分の話に聞き入る姿を、まるで我が子のように、あるいは年の離れた、純粋無垢な弟のように、心の底から慈んでいた一人の、まだ言葉もおぼつかないほど幼い子供、マノという名の少年が、この恐ろしい疫病に倒れてしまったのだ。
太陽は、他の誰よりもその子の回復を願い、自ら調合した、わずかでも効能を期待した薬草の煎じ薬を、スプーンで一滴一滴、辛抱強く口元へ運び、高熱にうなされる小さな額を、夜通し冷たい濡れ布で拭い続けた。岩牙もまた、その大きな体で、マノの小さな手を握り、無言で力を送っていた。
(この子だけは、絶対に死なせない。僕が、必ず…僕がこの手で…凛、君ならどうする? 君なら、もっと良い方法を知っているかもしれないのに…)
そう固く心に誓い、文字通り寝食を忘れ、その小さな命の灯火が消えぬよう、必死に、そして神に祈るような思いで看病を続けた。
だが、人の願いも、異邦人の持つわずかな知識も、そして必死の祈りも、冷酷な運命の前にはあまりにも無力だった。
彼の、そして周囲の、血の滲むような懸命な、そして夜を徹しての必死の看護も、その小さな、か弱すぎる命を繋ぎ止めることは叶わなかった。
子供は、苦しげな、そして浅い呼吸を数度繰り返した後、まるで疲れ果てて、深い、深い眠りにつくかのように、静かに、そしてあまりにも…あまりにもあっけなく、その小さな、か細い命の灯火を、太陽の、震える腕の中で、そっと消してしまった。
その瞬間、太陽の世界から、全ての音と色が消え失せたかのように感じられた。
太陽は、その、まだ温もりが微かに残る、あまりにも軽く、そして小さな亡骸を、まるで壊れ物を扱うかのように、震える腕でそっと抱きしめ、人目も憚らず、声を上げて、まるで傷ついた獣のように、あるいは道に迷った子供のように、泣きじゃくった。
自分の、あまりにも無力な力の限界と、もし、もっと多くの、そして正確な医学知識と、豊富な経験があれば、もしかしたら救えたかもしれない、かけがえのない小さな命があったという、どうしようもない無念さと、自分自身への激しい怒り、そして自責の念を、骨身に染みて、そして魂が引き裂かれるほどに、痛いほどに痛感する。
その、心の奥深くに刻まれた、深い、深い悲しみと、拭い去ることのできない、鉛のような無力感は、彼の「全ての人を、一人残らず救いたい」という、どこか漠然としていた想いを、より一層強く、そして切実な、彼の生きる意味そのものとも言える、絶対的な使命へと、静かに、しかし確実に変えていった。
それから数週間後、太陽の献身的な対策と、部族民の協力によって、あれほどまでに猛威を振るい、部族全体を恐怖のどん底に突き落とした熱病の勢いは、ついに、まるで嵐が過ぎ去ったかのように、終息の兆しを見せ始めた。太陽の持つ、遠い前世の、しかし普遍的な価値を持つ知識と、彼の、どこまでも献身的で、そして決して諦めることのない強い意志と行動、そして何よりも、人々を救いたいという純粋な想いが、再び、この南海の小さな部族を、壊滅の危機から救ったのだ。
この、あまりにも衝撃的で、そして劇的な出来事を通じて、太陽は、単なる賢者や、知恵のある異邦人としてではなく、「命を救う者」「我々を導く、太陽神の化身、あるいはその使い」として、民衆から、もはや神にも近いほどの、深い、深い崇敬と、絶対的な信頼を集めるようになる。彼の言葉は、もはや族長の言葉よりも重みを持つようになっていた。
しかし、彼の心には、あの幼子の、最期の穏やかな寝顔と、その小さな手の感触が、決して消えることなく焼き付いていた。
彼は、その夜、満天の星が、まるで無数の涙のように輝く南の空の下で、二度と、二度とこのような悲劇を繰り返さないと、そして、いつか必ず、全ての人が、病や飢え、そして争いの恐怖に怯えることなく、心からの笑顔で暮らせる世界を創り上げると、あの幼子の小さな魂に語りかけるように、固く、固く、星空に誓った。
「マノ…君のことは決して忘れない。君のような子供たちが、もう二度とこんな悲しい思いをしない世界を、僕は必ず作る。凛と共に…」
その誓いは、彼の魂に、永遠に消えることのない、熱い烙印のように、深く、そして重く刻まれた。彼の瞳には、悲しみを乗り越えた先にある、より強い決意の光が宿っていた。




