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第22話:岩の心、溶かす陽光の温もりと不壊の絆

第22話:岩の心、溶かす陽光の温もりと不壊の絆


太陽は、その日から、まるで吸い寄せられるかのように、岩牙に臆することなく、その持ち前の、人を警戒させない柔らかな雰囲気で積極的に話しかけ、彼の主な仕事である、部族にとって貴重な労働力であり、時には神聖な存在ともされる巨大な象たちの世話(それは、川での豪快な水浴びや、大量の草や果物を与える餌やり、そして皮膚の手入れなど、多岐にわたる重労働だった)を、まるで自分の仕事であるかのように献身的に手伝ったり、共に、陽光が木々の葉を通してまだらに降り注ぐ、深く、そして神秘的な森を散策して、薬効のある珍しい植物や、栄養価の高い食料となる木の実を採集したりするようになった。太陽は、前世で動物園で見た象の生態や、ドキュメンタリー番組で紹介されていた象使いの知恵などを思い出し、それを岩牙に伝えたり、逆に岩牙からこの島の象ならではの習性を教わったりと、互いに学び合うことも多かった。

最初は、まるで心を閉ざした貝のように、あるいは威嚇する獣のように、全身から警戒のオーラを放ち、太陽の、どんなに親しみを込めた言葉も完全に無視するかのような、あるいは、その巨躯から繰り出される威圧的な唸り声で威嚇するような、拒絶の態度を取り続けていた岩牙も、太陽の、一切の裏表を感じさせない、誰に対しても、そして何に対しても変わることのない、まるで春の陽光のような優しさや、鳥や獣、そして彼が心から愛する象たちと、まるで古い友人のように、言葉を交わすことなく自然に心を通わせる、その不思議な、そしてどこか神聖でさえある力(それは、太陽自身が持つ深い共感性と、彼が幼い頃から培ってきた動物への愛情が、この異世界でも発揮されているものだった)、そして何よりも、自分の、この人並外れた巨体や、周囲から恐れられる怪力を、全く恐れることなく、一人の人間として、対等に、そして敬意をもって接してくれるその曇りのない真摯な姿勢に、日々触れるうちに、徐々に、しかし確実に、その長年、何重にも固く閉ざしていた氷のような心が、ゆっくりと、そして温かく溶かされていくのを、自分自身でも感じていた。それは、彼にとって、生まれて初めて経験する、不思議な、そして心地よい感覚だった。太陽が時折、鼻歌交じりに口ずさむ、異国の、どこか懐かしい旋律は、岩牙の荒んだ心を不思議と穏やかにした。

岩牙は、まだ幼い頃に、島を襲った未曾有の大嵐で、愛する両親を、一瞬にして、そしてあまりにも無慈悲に一度に亡くし、その後、引き取られた他の親族からも、その、同年代の子供たちとは比較にならないほどの巨体と、成長するにつれて増していく、常軌を逸した怪力を、気味悪がられ、そして疎まれ、部族の中で常に、誰からも理解されることのない深い孤独と、人間に対する拭いきれない不信感と共に、まるで影のように、息を潜めて生きてきたという、あまりにも辛く、そして悲しい過去を持っていた。彼は、その辛い過去を誰にも語ったことはなかったが、太陽の、全てを包み込むような優しさに触れるうちに、ぽつりぽつりと、その胸の内を明かすようになった。

彼は、太陽の中に、生まれて初めて、自分を、そのありのままの姿を理解し、何の偏見も持たずに受け入れ、そして、その、自分自身でさえも持て余していた力を、恐れるのではなく、正当に評価し、認めてくれる存在を、まるで暗闇の中で一条の光を見出したかのように、見出したのだった。太陽は、岩牙の怪力を「それは人々を守るための力だ」と肯定的に捉え、その力の正しい使い方を共に考えようと提案した。

太陽もまた、岩牙の、まるで磨かれていない原石のような、朴訥ぼくとつとした、そして不器用な言葉の端々から滲み出る、心の底からの優しさと、いざという時に、仲間を守るために見せる、山をも動かすかのような圧倒的な力強さ、そして何よりも、その、どんな困難にも汚されることのない、水晶のように純粋で、そして高潔な魂に、深い、そして揺るぎない信頼と、血を分けた兄弟にも似た、熱い友情を寄せるようになっていた。

二人は、いつしか、多くの言葉を交わさずとも、互いの視線や、わずかな息遣いだけで、心の奥底にある感情や想いを理解できる、かけがえのない、そして何ものにも代えがたい魂の友となっていった。

岩牙は、太陽が、夕暮れの浜辺で、遠い水平線の彼方を見つめながら、時折見せる、どこか現実から遊離したような遠い目や、今はもう会うことのできない、故郷の家族や、そして何よりも大切な、彼の心の支えであるらしい幼馴染――凛という名の少女――の話をする時の、言葉では言い表せない、深い、深い寂しげな表情に、彼もまた自分と同じように、あるいはそれ以上に、心の奥底に、誰にも癒すことのできない深い孤独と、決して埋めることのできない喪失感を抱え、それでも懸命に生きていることを、痛いほど感じ取っていた。その時、岩牙は、ただ黙って、その大きな背中で、静かに彼の傍らに寄り添い続けた。それが、彼にできる唯一の、そして最大の慰めだった。

そんな、二人の間に、静かで、しかし確かな絆が育まれていたある時、部族の子供たちが数人で、大人たちの目を盗んで森の奥深くまで、冒険と称して遊びに入り込み、そこで、子供の象を執拗に狙う、鋭く長い牙と、カミソリのように鋭い爪を持つ、巨大な、そして極めて獰猛どうもうな肉食獣(それは、この島特有の、古代のサーベルタイガーにどこか似た生態を持つ、森の生態系の頂点に君臨する猛獣だった。部族の者たちは「森の爪」と呼び恐れていた)に不意に遭遇し、襲われそうになるという、恐ろしい事件が起こる。

子供たちの、恐怖に引きつった、甲高い、そして助けを求める悲鳴が、平和だった森の静寂を切り裂いた。

その、尋常ではない悲鳴を、象の世話をしていた岩牙は、誰よりも早く聞きつけ、自分の身の危険など一切顧みず、まるで弾かれたように、単身で子供たちがいるであろう方向へと、大地を揺るがすほどの勢いで駆けつけた。そして、子供たちをその巨大な背中にかばい、まるで仁王像のように立ちはだかり、その、丸太のように太く、岩のように硬い腕と、鍛え上げられた巨体で、飢えた猛獣の、殺意に満ちた攻撃に、たった一人で立ち向かう。

しかし、猛獣の、獲物を仕留めるためだけに進化してきた力と俊敏さは凄まじく、岩牙もまた、その鋭い爪で肩や腕を深く裂かれ、おびただしい血を流し、絶体絶命の、死を覚悟するほどの危機に陥る。「ここまでか…子供たちだけでも…」岩牙の意識が遠のきかけた。

その時、まるで天からの助けのように、太陽が、岩牙の危機を察知し、息を切らしながら駆けつけた。彼の脳裏に、かつて凛と共に夜空を見上げ、星々の話をした際に、ふと彼女が語った古い伝承――「獣は、人の知恵と、天の火を恐れる」という言葉、そして、山火事の際に獣たちが一斉に逃げ出す光景を何かで見た記憶、さらに、天文部の部室にあったサバイバル技術の本に書かれていた、松明の作り方や、獣を威嚇する方法が、鮮明に蘇った。

(火だ! そして、大きな音…! 凛が話してくれた、あの話は本当かもしれない!)

太陽は、即座に周囲を見渡し、近くに落ちていた乾いた太い木の枝を数本拾い上げると、懐から取り出した火打石(それは、彼がこの島に来てから、生きるために常に持ち歩くようになったものだった)で、焦る心を抑えながらも素早く火を熾した。炎は瞬く間に枝に燃え移り、黒い煙を上げながら勢いよく燃え盛る。彼はその即席の松明を、まるで戦士が剣を振るうかのように、猛獣の目の前で激しく振り回し、威嚇の声を張り上げた。

「こっちだ、化け物! この子たちには指一本触れさせないぞ!」

猛獣は、予期せぬ炎の出現と、太陽の気迫に一瞬怯んだかのように動きを止めた。その黄金色の瞳が、揺らめく炎と太陽の姿を交互に見据え、低く唸り声を上げる。

しかし、それだけでは獣の凶暴な本能を完全に抑えることはできない。獣は再び牙を剥き、今度は太陽に狙いを定めようとした。

その刹那、岩牙が、傷ついた体で渾身の力を振り絞り、傍らにいた、彼が最も信頼する巨大な雄象(その象もまた、幼い頃に親を亡くし、岩牙に育てられたという経緯があった)の鼻に、何かを囁くように合図を送った。それは、彼らだけにしか分からない、長年培ってきた絆の証だった。

すると、それまで主人の危機に興奮し、足踏みをしていた雄象が、まるで岩牙の意図を完全に理解したかのように、天を衝くような、大地を震わせるほどの凄まじい咆哮を上げ、その巨大な牙を猛獣に向け、猛然と突進したのだ!象の、山のような巨体と、大地を揺るがす足音、そして何よりも、仲間を傷つけられたことへの純粋な怒りが、猛獣の闘争本能をも上回った。

太陽が松明で作り出した混乱と、象の圧倒的な威圧感の挟み撃ちに、さすがの猛獣もついに恐怖を覚え、低い呻き声を残して、森の奥深くへと逃げ去っていった。

この、共に死線を乗り越えた衝撃的な出来事を通じて、太陽と岩牙の間に生まれた絆は、もはや何ものにも揺るがすことのできない、決定的で、そして不壊ふえの、まるでダイヤモンドのように硬く、そして純粋なものとなった。

岩牙は、自らの命を救ってくれた太陽に、言葉ではなく、その熱く、そして真摯しんしな眼差しで、生涯の、そして絶対的な忠誠を誓い、彼のためならば、この、かつては誰からも必要とされなかった自らの命すらも、喜んで惜しくないと、その寡黙かもくな、しかし熱い血が流れる胸の内に、固く、そして深く誓う。

「タイヤン…お前は、俺の…命の恩人だ。この岩牙の命、お前に捧げる」

初めて岩牙が発した、はっきりとした言葉だった。

太陽もまた、岩牙を、ただの友人としてではなく、かけがえのない魂の兄弟として、そして将来、自分が心に描く、あの壮大で、そして困難に満ちた理想を実現するための、最大の、そして最も信頼できる力となるであろう存在として、心の底から深く、深く信頼する。

「岩牙、君がいてくれてよかった。君の力は、きっと多くの人を救える」

二人の、まるで運命の糸に手繰たぐり寄せられたかのような出会いは、南海の、名もなき小さな部族の、そしてやがては、遠く離れた中原の、血塗られた歴史をも、大きく、そして誰も予想だにしなかった方向へと変えることになる、静かな、しかし確実に力強い、新たな物語の始まりとなるのだった。その日、森の木々は、二人の不壊の絆の誕生を、そして救われた子供たちの無邪気な笑顔を、祝福するかのように、優しく、そして力強くざわめいていた。太陽の胸には、凛の言葉が、そして彼女と分かち合ったサバイバル知識の記憶が、温かい光となって灯っているのを感じていた。

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