第12話:反発と孤独、若き指導者の試練と叔父の野心
第12話:反発と孤独、若き指導者の試練と叔父の野心
父の、あまりにも突然で、そして部族全体を揺るがすほどの死から数日後、雪華が新たな族長となることが、父の、あの最後の力を振り絞ったかのような遺言として、部族の最高意思決定機関である長老たちの集会で、厳粛な雰囲気の中で正式に伝えられた。しかし、その継承は、決して平穏無事な、祝福に満ちたものではなかった。むしろ、それは新たな嵐の始まりを告げる、不吉な静けさに満ちていた。
彼女はまだ若く、この厳しい雪原の基準で言えば、ようやく成人したばかりと言っても過言ではない年齢だった。そして、何よりも、彼女は女性であった。この、雪と氷に閉ざされた原始的な部族の、血と伝統によって長年支配されてきた意思決定は、伝統的に、最も多くの獲物を仕留め、狩猟の腕に長け、そして数々の部族間の小競り合いで多くの戦功を立てた、年長の、経験豊かな戦士たちや、古くからの、時には不合理とさえ思える慣習や祖霊の教えを、絶対のものとして頑なに重んじる長老たちによって、まるで鉄の掟のように行われてきたのだ。
彼らにとって、雪華の、まだ未知数で、そしてどこか異質な指導力は、理解しがたいものであり、深い不安と、拭いきれない不信、そして何よりも、若き、そして経験の浅い女性に対する、隠しようのない侮りが、まるで氷の矢のように、あからさまな、そして突き刺すような視線となって、彼女の華奢な背中に容赦なく向けられた。集会場の空気は、まるで凍りついたかのように冷え切っていた。彼女が父の遺言を伝える際、長老の一人は「本当にそれが族長の最後の言葉なのか、娘の作り話ではないのか」と、疑念を露わにする言葉を吐き捨てた。
特に、亡き父の実の弟であり、雪華にとっては叔父にあたる、屈強な肉体と野獣のような鋭い眼光を持つ男、ガルダは、この、彼にとっては到底受け入れがたい決定に、集会の場で公然と、そして雷鳴のような大声で激しく異を唱えた。彼は、長年、兄である族長の影で、虎視眈眈と、まるで獲物を狙う飢えた狼のように、次の族長の座を狙っていたのだ。彼の武勇は部族内でも認められており、彼自身も次期族長は自分であると信じて疑っていなかった。
ガルダは、長老たち一人ひとりの弱みや欲望を巧みに操り、彼らを扇動して、雪華が打ち出すであろう新たな方針や決定に、ことごとく、そして執拗に反対する姿勢を鮮明にした。ガルダは、力こそが全てであり、血と伝統こそが部族の誇りであると信じて疑わない、古いタイプの、典型的な戦士だった。
雪華の持つ、どこか異質で、そして彼には理解できない深い知恵や、彼女の、時にはあまりにも進歩的で、この部族の常識からはかけ離れた考えを、「危険極まりない、部族を破滅へと導くもの」「我らが祖先から受け継いだ、神聖なる調和を乱す、異端の思想」と、声高に、そして感情的に見なしていた。彼は、雪華がまだ本格的な狩りの経験も浅く、ましてや戦場での武勇など、一度も示したことがないという事実を、まるで罪を糾弾するかのように執拗に突きつけ、その指導者としての資質を、集まった部族民たちの前で、公然と、そして侮蔑的に疑った。
「雪華には、まだこの、誇り高き雪狼部族を導く力など、万に一つも、いや、微塵もない! 狩りの経験も浅く、戦の恐ろしさも知らぬ、か弱い小娘の、どこで聞きかじったか分からぬ知恵で、この厳しく、そして容赦のない雪原で、我々屈強な戦士たちを、そして女子供を生かしていけるとでもいうのか! ふざけるな! 族長の座は、この俺、ガルダこそが継ぐべきだ!」
部族の、凍えるような風が吹き抜ける広場で行われた集会の場で、ガルダは、まるで雪崩のような勢いで、雪華を侮蔑し、嘲笑する言葉を浴びせかけ、自らが、その鍛え上げられた肉体と、数々の戦で得た傷跡こそが、族長にこそふさわしい証であると、その逞しい胸を叩き、武力を誇示するように主張する。彼の言葉は、単純で、暴力的ではあったが、しかし、この厳しい環境で生きる多くの者たちの、本能的な部分に強く訴えかける力を持っていた。ガルダの言葉に同調し、力強く頷く戦士たちの姿も少なくなかった。
雪華は、全身の血が逆流するような、燃えるような怒りに震える心を、必死に、そして懸命に抑え込み、あくまで冷静に、そして論理的に、父の遺志と、自らが描く部族の未来像――それは、伝統を重んじつつも、新しい知恵を取り入れ、より多くの民が飢えや寒さに苦しむことなく、安全に暮らせる部族の姿――を語り、反論しようと試みる。
「叔父上、そして長老方が伝統を重んじるお気持ちは理解できます。しかし、父が最後に私に託したのは、変化を恐れず、この部族の未来を切り開くことでした。私の知恵が、本当に民を救う力となるか、どうか見極めていただきたいのです」
しかし、長老たちの多くは、ガルダの、まるで嵐のような言葉の勢いに恐怖し、あるいは彼の、力による支配という分かりやすい意見に密かに同調し、彼女の、まだか細く、そして真摯な声は、彼らの疑心暗鬼に満ちたざわめきや、ガルダの、全てをねじ伏せるかのような野太い怒声にかき消され、誰の耳にも届かないかのようだった。
彼女は、まるで透明な壁に囲まれ、誰にも声が届かない場所に、たった一人で立たされているかのような、絶望的な無力さと、この、何世代にもわたって深く、そして強固に根差した、旧態依然とした部族社会の、分厚い氷のような旧弊の根深さを、骨身に染みるほど痛感し、深い、そして救いのない孤独感に、まるで冷たい水の底へと沈んでいくかのように苛まれた。亡き父が、命を懸けて築き上げたこの部族を守りたい、この厳しい大地で必死に生きる民の生活を、少しでも豊かに、そして安全なものにしたいという、心の底からの、燃えるような強い想いはあるのに、それを実現するための具体的な術が、今の、あまりにも非力な自分には、どうしても見出せない。古い慣習という名の厚い壁と、男性優位という、この部族では絶対的な価値観の、高くそびえ立つ強固な壁は、彼女が想像していた以上に、遥かに厚く、そして高く、乗り越えることなど不可能なのではないかとさえ思えた。
夜、全ての音が雪に吸い込まれ、しんとした静寂が支配する天幕の中で、彼女は、誰にも聞かれぬよう、獣皮の毛布に顔を埋め、声を殺して、ただひたすらに泣いた。熱い涙が、次から次へととめどなく溢れ出し、毛皮を濡らしていく。父を失った悲しみと、族長としての重圧、そして誰にも理解されない孤独が、一気に彼女を襲った。
もし、今、大地がここにいてくれたなら、きっと彼は、的確で、そして時には奇抜なアドバイスを、そして何よりも、どんな時も変わらない、太陽のような温かい励ましの言葉を、私にかけてくれただろう。彼の、あの屈託のない、全てを包み込むような笑顔と、どんな時も、どんな状況でも、ただ真っ直ぐに自分を信じてくれる、その力強い眼差しが、今ほど恋しく、そして切実に感じられる時はなかった。
「大地……私は……私はどうすればいいの……? この、息もできないほどの重圧に、この、心の芯まで凍えさせるような孤独に、もう……押し潰されそうよ……助けて……」
消え入りそうな、か細い声で呟く言葉は、冷たい夜の闇に虚しく響き、誰にも届くことはない。彼女は、族長という、本来であれば人々を導き、支えるべき孤独な立場になったことで、皮肉にも、以前にも増して、深く、そして救いのない、絶対的な孤独を感じていた。その小さな肩には、あまりにも多くのものが、重く、重くのしかかっていた。