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第11話:託された運命、雪原の誓いと孤独な魂

第11話:託された運命、雪原の誓いと孤独な魂

雪華(凛)が、この骨の髄まで凍てつくような、どこまでも白い雪と氷に閉saltedされた極寒の地に転生し、見知らぬ雪原の部族長の娘として、新たな、そして過酷な生を受け入れてから、幾度目かの、そして年々その厳しさを増し、人々の生存そのものを脅かすように感じられる冬が、まるで巨大な白い獣が音もなく忍び寄り、その鋭い牙を剥こうとしているかのように、容赦なくその冷たい、生命を刈り取るかのような息吹を吹き付けようとしていた。

空は、希望の光さえも拒むかのように厚く垂れ込めた鉛色の雲に覆われ、昼間でも薄暗く、太陽の存在すら忘れさせる。世界から色彩という色彩が奪われ、モノクロームの、どこか終末的な雰囲気が漂う、陰鬱な季節の到来だった。風が唸りを上げ、天幕の隙間からは、肌を刺すような冷気が絶えず侵入し、人々の体温を容赦なく奪っていく。

この数年で、雪華は、部族の若き指導者として、その類まれな、時に神懸かり的とさえ思える知恵と、周囲の度肝を抜くほどの、常識にとらわれない大胆な行動力で、最初は懐疑的だった者たちの心をも動かし、少しずつではあるが、しかし確実に部族内での信頼と、ある種の畏敬の念を勝ち得てきていた。彼女の言葉には、不思議な力と、人々を未来へと向かわせるような説得力があった。それは、彼女が前世で培った論理的思考力と、天文部の部室で読んだ多様な書物から得た知識の断片を、この世界の現実に合わせて必死に応用しようと努めた結果だったが、部族の者たちには、まるで祖霊の啓示のように映ることもあった。

しかし、そんな彼女の心の奥底、誰にも見せることのない、最も柔らかく、そして最も傷つきやすい魂の深淵は常に、遠い、遠い故郷の、アスファルトの匂い、賑やかな街の喧騒、そして四季折々の、言葉では言い尽くせないほど美しい日本の風景と、そして何よりも、大地の、あの太陽のように明るく、全てを肯定してくれるような温かい笑顔を、まるで昨日のことのように鮮明に想い、どれだけ時が流れ、どれだけこの世界の現実に適応しようとも、決して晴れることのない深い、深い寂寥感と、この広大で、心の底から理解り合える者のいない異世界での、絶対的な、そして骨身に染みる孤独に、まるで厚い氷の殻で、その震える心を覆われるように包まれていた。

夜空に、まるで神々が撒き散らしたダイヤモンドの欠片のように鋭く、そして冷たく輝く、見慣れない、しかし荘厳で美しい星座の配置を見るたび、あの日の、少し埃っぽいが、二人にとっては宇宙そのものだった天文部の、二人きりで、未来への不安と期待を胸に、他愛ない言葉を交わし合った甘酸っぱい、そして二度と戻ることのない、かけがえのない光景が、まるで瞼の裏に焼き付いた映像のように鮮やかに蘇り、胸が締め付けられるような、甘くも切ない、そしてどうしようもないほどの痛みに襲われるのだった。その痛みは、彼女がこの過酷な世界で、それでも懸命に生きているという確かな証であり、同時に、決して忘れてはならない、彼女の魂の根幹を成す過去との、断ち切れない絆でもあった。

そんなある日、部族の絶対的な支柱であり、雪華の父でもある男が、長年にわたる、自らの身を削るような過酷な狩猟生活と、常に部族全体の運命をその双肩に、たった一人で背負い続けてきた、目には見えない、しかし確実に魂を蝕む重圧が、静かに、しかし確実にその強靭な生命力を蝕んでいたのか、目には見えぬ、静かに、そして確実に忍び寄る病魔の冷たい手には抗えず、まるで燃え尽きようとする蝋燭の炎のように、弱々しく衰えていくのが、誰の目にも、そして何よりも雪華の目には痛いほど明らかとなってきた。

部族全体に、まるで濃く、そして冷たい霧が音もなく立ち込めたかのような、重苦しく、そして息もできないほど息詰まるような空気が垂れ込め、次の、そしておそらく過去に経験したことのないほどに厳しい冬を、絶対的な指導者であり、精神的な支柱であった彼が動けないこの絶望的な状況で、果たして無事に越せるのかという、深刻な、そしてあまりにも現実的な不安が、希望の光を見失った人々の顔に、拭い去ることのできない暗い、深い影を落としていた。天幕のあちこちからは、すすり泣く声や、不安を押し殺したような低い囁きが聞こえてきた。

雪華は、父の、獣皮を幾重にも重ねて作られた粗末ながらも、彼の威厳を保つかのように整えられた寝床の枕元に、昼夜の別なく、ほとんど眠ることもせず付き添い、前世の記憶の、今や断片的で朧げになりつつある断片――それは、天文部の部室にあった古い医学書や、サバイバル関連の本で読んだ、感染症を防ぐための基本的な衛生観念の重要性、衰弱しきった体に、わずかでも力を与えるための滋養のある食事の知識、そしていくつかの、炎症を劇的に抑えたり、激しい痛みを和らげたりする効果のある、この地の薬草の、言い伝えとは異なる応用方法――を、まるで暗闇の中で、か細く消え入りそうな一筋の光を必死に手繰り寄せるように思い出し、懸命に、そして献身的に看病を続けた。

彼女の額には、心労と、眠れぬ夜からくる疲労から、絶えず冷たい汗が玉のように滲み、その白い頬はこけていた。

父は、時折、喉の奥から込み上げてくる激しい咳と、身体を焼き尽くすかのような高熱にうなされ、現実と夢の境が曖昧になる朦朧とした意識の中で、雪華の、長時間の看病と心労で少し冷たくなった、しかし彼にとっては唯一の確かな温もりである手を、弱々しく、しかしその骨張った指先には、まだ消え残る父親としての確かな力が込められた手で、まるで最後の絆を確かめるかのように、しっかりと握りしめた。そして、途切れ途切れの、まるで風が枯れた葦の穂を揺らすような、か細く、そして掠れた声で、一言一言を絞り出すように語りかけた。

「雪華……わしの、賢い……そして……誰よりも、美しい娘よ……」

父の目が、わずかに雪華の顔を捉えた。その瞳には、深い愛情と、そしてどこか見透かすような光が宿っていた。

「お前は……この部族の、他のどの者とも……いや、わしがこれまで見てきた、どんな人間とも違う何かを……その澄んだ、しかし底知れないほど深い瞳の奥に……まるで静かな湖面の奥に隠された宝のように……宿している……。お前の語る、不思議な知恵……それは、我らが祖霊の教えとは異なるものかもしれん……だが、わしには……それが、この部族を……この厳しい、そして時に残酷な雪原で、それでも誇りを失わず、必死に生きる我らの民を……救う力となるやもしれぬと……そう、感じるのだ……」

父は一度言葉を切り、苦しげに息をついた。

「わしには、もう時間がない……。雪華よ……わしの、最後の願いだ……。お前の信じる、その道で……そのお前だけが持つ光で……迷える子羊のような民を……導いてやってくれ……。お前ならば……お前だけが、この、古く、そして時にはあまりにも頑なで、変化を恐れるこの部族に、新たな、そして……暖かい、希望の光をもたらせるやもしれぬ……。わしには……もう、それを見届けるだけの力は……残っておらんが……お前の未来を……信じている……」

その言葉は、まるで人生の最後に、愛する娘に全てを託す遺言のようにも、あるいは、絶望の淵から、未来への一縷の、しかし強烈な望みを託す、父親の、魂からの切なる懇願のようにも、雪華の耳に、そして彼女の心の最も深い場所に、まるで溶けた鉛のように重く、そして熱く、深く、深く響いた。

雪華は、父が自分の中に潜む、この世界の常識からは逸脱した「異質さ」や、物事の表面だけではなく、その奥底に隠された本質を、まるで水晶玉を覗き込むように見抜く「先見性」のようなものを、論理や言葉ではなく、長年の経験と、父親としての深い愛情からくる本能的な直感で、そして何よりも、それを異端として排斥するのではなく、肯定的に、そして希望として感じ取っていたことに気づき、驚愕と共に、言葉にできないほどの、胸が内側から張り裂けるような思いだった。

父は、誰よりも自分を理解し、そして信じてくれていたのだ。その事実は、彼女にとって、この上ない大きな慰めであると同時に、あまりにも重く、そして逃れることのできない、新たな宿命の重圧でもあった。

彼女は、父の、その最後の、そしてあまりにも大きく、重い期待に応えたいという、娘としての、血の繋がった肉親としての強い、そして純粋な気持ちと、一族全体の、数多の、そしてかけがえのない命の運命を、このまだ若い、そして経験の浅い身で、しかも本来この世界に存在するはずのなかった、異邦人の、孤独な魂を持つ自分が背負うことへの、計り知れないほどの、底なしの恐れと、今にも押し潰されそうなほどの、現実的な重圧との間で、心が千々に乱れ、まるで嵐の中の小舟のように激しく、そして苦しく揺れ動いた。

自分に、そんな大役が、本当に務まるのだろうか。父が託した光を、私は本当に灯すことができるのだろうか。その絶望的なまでの問いが、何度も、何度も、まるで悪夢のように彼女の頭の中を駆け巡り、彼女を苛んだ。

数日後、雪華の、身を削るような懸命な看病も虚しく、父は、雪華の細い腕の中で、まるで長い、長い旅の疲れからようやく解放され、安息の地へと辿り着いたかのように、穏やかな、そしてどこか満ち足りたような、安らかな表情で、静かに、本当に静かに、最後の息を引き取った。その瞬間、天幕の外で吹き荒れていた風が、まるで彼の魂が天へと昇っていくのを見送るかのように、ぴたりと止んだ。

部族は、絶対的な指導者を失ったという、あまりにも大きな現実と、これまで彼が、その大きな背中でどれほどのものを守り、築き上げてきたのかという、その存在の計り知れない大きさを改めて認識し、深い、そして底なしの、言葉では言い表せないほどの悲しみに包まれた。長老たちの顔からは血の気が失せ、女たちは声を上げて泣き崩れ、男たちは、ただ黙って天を仰いだ。

雪華は、冷たくなり、もう二度と自分を温かく握りしめてくれることのない父の亡骸の前で、ただ茫然と、まるで魂が、その小さな身体から抜け殻になったかのように立ち尽くすしかなかった。涙は、既に枯れ果て、出ることもなかった。ただ、胸の中に、ぽっかりと大きな、冷たい空洞が開いたかのようだった。

しかし、彼女の、今は深い悲しみと絶望に濡れた、しかしどこまでも澄んだ瞳の奥には、父の、あの最後の、そして魂の全てを込めたかのような言葉を、その震える胸の奥深くに、まるで聖なる誓いのように深く、深く刻み込み、この過酷な、そして誰にも代わってもらうことのできない運命に、敢然と、そしてたった一人で立ち向かうことを決意したかのような、まるで極北の夜空に輝く一番星のように、冷たく、しかしダイヤモンドのようにどこまでも硬く、そして強い、揺るぎない、新たな決意の光が、静かに、しかし力強く宿り始めていた。

それは、全ての悲しみと絶望を乗り越えた先に、ようやく見えてくる、新たな指導者としての、そして一人の人間としての、覚悟の光だった。孤独な魂が、託された重い運命をその細い肩に背負い、今、まさに、この絶望の淵から、静かに、しかし力強く立ち上がろうとしていた。

彼女の戦いは、ここから始まるのだと、その瞳が雄弁に物語っていた。

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