蟲駆除隊
聞き慣れた、けど聞きなれない言葉に頭が混乱する。
そんな僕をウドは不思議そうに見つめた。
口を開く。
「害虫駆除とか言ってるけど、虫かは微妙なラインなんだよね〜。ち・な・み・にぃ〜おれたちはあの巨大生物を〝X〟って呼んでる。今回はXC。強さはA〜EのうちC。おれらの死亡率70%」
ウドは手で何かを掴みながら、僕を見た。
その手にはムカデが掴まれている。
僕は思わず後ろに居たセインの服をぎゅっと握った。
「やばいじゃん」
「あっはははぁ。まぁ死んでも蘇生したらいいよ。あっエルフ少年は使える?」
フレアを指さす。
言動とは違い、ウドの指は綺麗に静止していた。
「フレアです。簡単な蘇生魔法なら扱えます。けど、あまり宛にしないでください」
「別にいいよ、いいよ……じゃあチーム決めしようか。囮と駆除する方ね。リーダー」
ウドの目線に合わせると、センター分けの黒髪の神がいる。
「あっえと。〝蟲駆除隊〟のリーダー、トウモロコシです。皆からはロッシーって呼ばれてます。よろしくね。それじゃあ囮は……ウドとシュンギクと棗とエリンギかな。駆除はぼくとうのちゃんとフレアでやろう。」
「うぃーす」
「すうぃーてぃー」
「甘い虫って知ってる?」
「えっ知らない、何々?」
ウドとセインのよく分からない会話か耳を通り抜ける。
……僕だけ省かれた。
まぁ魔術は攻撃魔法が扱えないから、必然的にそうなるんだけども。
蟲駆除隊と合流した瞬間から思っていたことがある。
エリンギはヴァンパイアでウドは人間だ。
そして、トウモロコシは神。
ここは虫の草原。
僕はまだ喋ったとのない、もう1人を見た。
彼は耳の上らへんから長い触覚を生やし、羽は光に当たり輝いている。
間違いなく虫人だ。
シュンギクと目が合う。
ニコッと笑い、丁寧なお辞儀をした。
「自己紹介してなかったね。名前はシュンギク。呼び方はなんでもいいよ。あっシュンがなんの虫か分かる?」
耳から生えている、細く長い触覚を尻尾みたいに揺らす。
当たって欲しくない答えを口にした。
「……ゴキブリ?」
「わぁっ正解!凄いね」
シュンギクはニコッと可愛らしい笑顔を浮かべる。
いつもの虫は気持ち悪いからと避けれるが、虫人はそうもいかない。
人がついてると言うことは感情がある。
感情があるということは、いろいろと面倒くさい。
人間と捉えるか、虫として捉えるかで、頭を悩ませる。
不意に頭の中に一つの策が思いついた。
…………握手。
「あの……シュン……握手…………してもらっていい……かな」
声が震えた。
エリンギは不安そうに僕を見る。
ウドは蝶が髪やら腕やらに引っ付いていて、気持ち悪いことになってた。
不意に手がぎゅっと強く握られた。
「ありがとう!……虫嫌いかもだけど、よろしくね」
……気づかれてたか。
握られた手を眺める。
「あっ安心して、汚くないから」
「えっとさ……その……どこまでがゴキブリなの?」
少し困った感じに聞くと、待ってましたと言わんばかりの表情をした。
「まず見た目かな。見て分かる通り、耳から触覚が生えてるんだよね!次に能力なんだけど、シュンはゴキブリの能力なら全部使えるよ。ただ、虫人の中には、あれは使えて、これは使えない。みたいなのも多いよ」
「へぇ〜……じゃあ毒もってたら最強じゃん」
「それには誤りがあるね棗くん。この世で1番強いのは蚊とか、小さい虫だよ」
ニシシッとシュンギクは笑う。
「えっ嘘」
「ほんとほんと!」
「……でもなんか分かるかも。うちのも小さいけどめっちゃ強いし」
「確かセインくんだよね?そんなに強いんだ」
「人の骨をあっさり折るぐらいには」
そう言って、折られた腕をとんとんと叩く。
また背中に重量を感じた。
「やっぱりさぁ、折られたら痛い?」
「一瞬で折られたから、驚きの方が凄かったかも」
「そかそかぁ……エリンギ後で折らせてぇ〜」
「えっやだ」
「ケチぃ」
「ケチ以前の問題だろ」
喋っていて思ったが、ウドはなんかこう……掴みにくい。
パターンが予想できないと言うか。
何を考えているか分からない。
「棗少年どったの〜?」
頬をがっしりと持たれる。
「別になにも」
「そ〜」
さっきまでニコニコしていた顔が、急に生気を無くしたように死んだ。
何か言おうとしたところで、頭に何かを被せられる。
手の形的にエリンギだ。
「なんか……もしかしたらXB、死亡率85%かも、知れない」
「……マジで?」
「マジです。くれぐれもその帽子と、あとこれ、は脱いじゃダメだからね」
渡された服を着てみると、なんというか、養蜂家の人みたいな感じだ。
ってか20mよりもヤバいのか。
死亡率15%も増えてるし。
「トウモロコシさん。標的 変わったんですか?」
「なんというか……最悪の状況というか……」
歯切れの悪い返事だ。
理解出来ずにいた頭に、エリンギとシュンギクの会話が流れ込んできた。
「プレイング・マンティスとフライの大群かぁ……」
「どう分ける?」
「リンはマンティスの方がいいと思う。ウドはフライかなぁ……。問題は棗くんだね」
「棗?」
「うん。確か3段って言ってたから、15個ずつ強化魔術と弱体魔術が扱える。その中には確か拘束魔術とかがあったんだよね。そこだけ考えたら、マンティスなんだけど……」
「だけど?」
「強化魔術のことを考えると、フライなんだよなぁ……」
「両方に持ってったらダメな感じ?」
「体力的にキツイかも。魔術をずっと使うのは、永遠に終わらないマラソンだからね」
「あらら」
「……よし。リーダー!シュンとウドでフライの囮をするよ!」
トウモロコシは少し目を丸くさせた。
眉間のシワがぎゅとよる。
「分かった。じゃあ2人は……えっと」
「トモちゃん、トモちゃん。フレアは範囲攻撃が得意だよ」
セインがそう言うと、トウモロコシの眉間のシワが直ぐに戻る。
「フレア。」
フレアの顔が緩む。
「頑張ったら、2人でどこか出かけようか」
「!!!!頑張ります!」
「あっははぁ。いい子いい子」
頭を撫でられるフレアは犬みたいだ。
無いはずの尻尾と耳まで見える。
「棗」
急に名前を呼ばれ、肩が上がる。
「頑張ったら給料アップしよう」
「何割貰える?」
「活躍次第かな」
ニヤッと笑うセインは、とても楽しそうだ。
そういえばセインに対してご褒美とか上げたことないな。
そう思い口を開く。
「じゃあセインが頑張ったら、僕は頑張って四段取るよ」
「なっ!?じゃあ俺は3級取ります!!」
「お……おぉ。頑張ってね2人とも。無理だけはしないように」
セインは優しく笑った。
「いいね。あぁ言うの」
「シュン達も今から出来ますよ」
「おれが頑張ったら、エリンギの腕折らせて」
「断っとく」
そんな和んだ空気が続けばいいと思った。
でも時間は戻らない。
少し遠い場所から、耳を劈くような雄叫びが聞こえた。
「ヴォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」
ヴァンパイアは怪我をしても、血を呑めば治ります。
なので腕 折り放題ですね。
【突然質問コーナー……前回に引き続きヴァンパイアでお送り致します】
今回のお題↓
「どの種族の血液が美味しいですか」
〜デロイド・コークリア〜
「うーん……どの種族が美味しいか かぁ……。個人的にはエルフの血が1番かな。他の種族に比べて、甘いんだ。それに、呑んだ後の頭のスッキリさはびっくりするよ」
〜スヴェン・コークリア〜
「わたし的には魔族ですね!後味が苦い感じが好きです!独特の味がして、あんまり皆からは人気無いと思います。他のもので例えるとパクチー?らしいですよ」
〜アルブス・ラーベル〜
「なんで俺がこんなこと……えっ答えたら金くれんの?いくら?……俺が好きなのは健康な奴なら何でもだな。食事に興味なんかないし……不味くなかったら何でもいい」
〜エリンギ〜
「いざ聞かれると難しいね……まぁ一つ上げるとするなら、人間はない。マジでない。あれは鉄草すぎて食えたもんじゃない。良くないよ本当に」
次回/ヴァンパイアの洞窟か蟲駆除隊かどっちかです。多分。