馬車に揺られて
今すぐ過去に戻りたい。
発言を撤回したい。
馬車に揺られながら、僕らは事務所へ帰る途中だ。
予定では3日後に虫の草原に行くらしい。
ここから丁度西の方向だ。
うんうんと考え込んでいると、セインが僕の肩に頭を置く。
ひんやりして冷たい。
「棗って虫嫌いだっけ?」
「あんなの地球外生命体だろ」
「そんなに?」
鼻で笑う彼に、腹が立つ。
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理マジ無理」
「……なんで?」
セインがグイグイと近づいてきた。
アイツの視線がグサリと刺さる刺さる。
「昔、虫の大群に襲われて……目とか口に入ったんだよ……」
「それは災難だったねぇ〜。えっ虫全般無理系?」
「遠目からならまぁまだいいけど……触るなんて論外だし」
「じゃあ、なんで受けたんだよ」
フレアの言葉が身体中に刺さる。
今の僕はきっと穴あき虫。
「あんまり聞いてなかったし……」
バツが悪く顔を逸らす。
「そういえば棗、お前なんでここ入ったんだ?」
「……セインに脅された」
「セイン様が?」
フレアは少し驚いた顔をする。
この馬車は乗客以外は乗っていない。
馬に行き先を伝えると、その場所まで運んでくれる代物だ。
内緒話も問題無いだろう。
「元々僕は盗賊だった。で、金が欲しいから、小柄なセインに目をつけたら腕を逆方向に綺麗に折られた。サツに出すか、仲間になるか、どっちがいいか聞かれから仲間になったって感じ。あと、友達を探してる。」
最後の言葉に2人がピクっと動く。
「盗賊仲間か?」
「いや、ちゃんとしてると思う。あいつは犯罪なんかに手は染めない」
「信頼してるんだな」
「一応〝親友〟だし」
頭をポリポリとかく。
今でもたまに夢を見る。
一緒に笑って、遊ぶ夢。
喧嘩別れしてから1度も会ってない。
なんとなく、どこかで消したら駄目な記憶として残ってるんだろう。
なんで喧嘩したのかは忘れたけど。
うんと伸びをする。
「フレアは何で入ったわけ?」
不意に聞くと、自信満々に口を開いた。
「セイン様のそばにいるためだ。後、生涯の伴侶になって欲しい」
「付き合っ」
「てない。」
間髪入れず、否定された。
セインは恋愛話になると、急に話題を逸らしたがる。
よっぽど嫌いなのだろう。
それを分かっていながら、話す姿はフレアらしくない。
小さなカーテンを開け、外を見る。
そこは見慣れた街並みが広がっていた。
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はい。
命日の日がやってきてしまいました~。
虫の草原です!
虫いっぱいいる!
帰りたい!
いつもは網タイツに足首までの赤いブーツを履いているが、今回ばかりは長袖長ズボンに、長靴だ。
皮膚に虫がいる感覚を味わいたくない。
セインから聞いた話では、虫の草原には一般的に2種類いる。
体全体が虫なやつと、体の一部が虫なやつ。
触覚とか無理だから、どっちにしろ居心地が悪い。
2人が草で出来た家を見ながら、「すごーい」とか「かっこいー」とかを、右から左に聞き流していたら、肩に何か触れた。
後ろを振り返ると、そこにはエリンギがカマキリを持っている。
僕は急いで、セインの後ろに回り込んだ。
「……そんな逃げなくてもいいじゃん?虫は素直で可愛いよ」
そう言って、手に乗ったカマキリを愛おしそうに見つめる。
「もうそろそろリーダーが来る。気弱な神だから、お手柔らかに頼むよ」
「あぇ。そっちにも神様いるんだ」
「えっ?そっちにもって…………〝君たちのパーティにはいない〟でしょ?」
「え?」
確かに人間と神は見た目は似てる。
でもセインは、人間とは思えないぐらいの肌の白さだ。
あと、近づいたら冷んやりするし、他にも人間とは違うところが沢山ある。
僕が混乱していると、フレアが口を開く。
「俺の隣にいる子は、神ですよ」
そう言うとエリンギの目が大きく見開かれる。
信じられないとでも言うふうに。
「人間2人にエルフ1人じゃ?」
その言葉に、セインは自分の首をナイフで刺す。
流れ出したのは血液ではなく、透明な液体。
海水だ。
「どう?分かってもらえた?」
セインはニコッと笑う。
ガスマスクはつけておらず、長い前髪はピンで止めている。
少しつり上がった大きな青い瞳。
フレアとはまた違った整った顔。
男にモテそう。
「ほんとだ。てっきりエルフと人間のハーフかと思っちゃった」
「あっはは、よく言われる♪」
にっと笑うセイン。
そういえば……
「今日はガスマスク取っていいのか?」
「あぁ別に私らは依頼人に会うわけじゃないし。それに、視野が広くないと害虫駆除は出来ないからね」
「そんなやばいの?」
「今日のは確か、20mぐらいある個体じゃn」
「20m!?」
僕の声にフレアがびっくりする。
20mってなんだ!?
「そんなデカイの!?」
「いやぁこれはね。イレギュラーだよ。いつもはもうちょっと小さいんだよ棗くん」
「帰ってい」
「給料下げてもいいなら」
…………困る。
お金は欲しい。
セインはよく僕を脅す材料に金を出してくる。
フレアを脅す材料はセイン自身。
けど別に仲が悪いとかじゃない。
どうしたら、こいつはやる気を出すのかとか分かってやってる。
本当、扱いがお上手で。
横目にセインを見ると、ニコッと笑った。
なんかずっと笑ってんな。
首に手を回すと、後ろから誰かが歩いてくるのが分かった。
後ろを振り向くと、そこには見慣れない3人組がいる。
「あれ、うのちゃんだ」
センター分けの神は、セインを指さしてそう言った。
エリンギは納得したような顔を浮かべる。
「うのちゃんってあだ名なんだ」
「あれ、言ってなかった?」
「うん。聞いてない」
二人の会話にキョトンとする僕。
そこをセイン大好きフレアが補足してくれた。
「うのちゃんは右脳のことだ。セイン様は基本的に直感で動くから、そう呼ばれてるらしい」
「へぇ……。じゃあ さのちゃんもいるわけ?」
「いるよ」
そこには少し難しい顔をしたセインが口を開いていた。
「今は別のチームのリーダーしてるよ。フレアはまだしも棗は合わないかもね。真面目ちゃん達の集まりだし」
「うわぁ」
わざと嫌な顔をしてみせる。
なんか……あいつと似てるかも。
真面目で正義感が強い。
僕とは正反対すぎる性格だ。
何故だかモヤモヤする。
手で顔を押さえ込んで、座り込むと、急に背中に誰かが乗ってきた。
セインはもっと軽いし、フレアはもっと重い。
絶妙な重さ。
誰だ?
「君は人間だよね。おれはウド。人間同士よろしく」
「えっあぁよろしく」
「棗少年は何してる人?おれは一応ね、副リーダーしてるの」
「魔術師です。3段ですけど」
「へぇ。強いの?」
「いや、弱いんじゃないですか?段は初段から始まって10段で終わる。魔術は基本、強化魔術か弱体化魔術の2種類ですから、扱える数によって段は上がります。今 僕は30個使えますね」
敬語の自分自信が気持ち悪くて仕方がない。
「頼もしい。じゃあ一緒に囮に徹しようね」
ウドはニコッと笑う。
急に悪寒が走った。
「囮?」
365日休みがいい
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【学んで楽しい種族図鑑】
1/ヴァンパイア
外見↓
顔/上の歯と下の歯に2本ずつ犬歯がある。
瞳は基本+(ぷらす)マーク。
髪は基本、白か灰色で1〜5本の黒いメッシュが入っている。
耳は短く、上が尖っている。小さい。
肌は基本白。しかし、血を摂取しすぎると赤っぽくなる。
羽は飛ぶときだけ出現する。いつもは出てこない。
首にはチョーカーを着けている。
能力/相手の血を自分が呑むと、見た目や声がそっくりそ
のまま同じになる。能力も使える。制限は量によっ
て変わるが、最大24時間。
そして、他種族に自分の血を呑ませると、一時的に
ヴァンパイアになれる。最大3時間まで。
寿命/大体200歳まで
黒メッシュの強さ↓
1本……小型の動物を操れる。/血の通った学のないもの
2本……中型の動物を操れる。/上記+血の通った学が少し
あるもの←小学生までの知識
3本……大型の動物を操れる。/上記+血の通った学がまぁ
まぁあるもの←中学生までの知識
4本……特定の生物以外は操れる。/自分より力が弱いもの
5本……神以外の生物は操れる。/ただし殺人の神は血液が
通っているので、操れるが返り討ちにされるか
も。
性格/主にカリスマ的存在とほわほわ系に分かれる。
4、5本はカリスマ的存在になりやすい。
カリスマ→アルブス、デロイド
ほわほわ→スヴェン、エリンギ
生活/洞窟で生活しています。たまに引っ越します。
言語/こちらの世界で言うとイギリス英語に近い。
政治/洞窟の中で、1番優しい人物が王様になれる。
作中に登場するヴァンパイア↓
デロイド・コークリア
スヴェン・コークリア
アルブス・ラーベル
エリンギ