双子
酒の臭いが鼻を突く。
ここにフレアがいたならばきっとすぐに出ていっただろう。
それぐらい酷い。
「いやぁ実はねぇ、この5kg級ビーフステーキを食いたくてさぁ。3人以上じゃないと頼めないシステムでね」
人のいい笑みを浮かべる彼は、僕の顔よりでかい肉を口に運ぶ。
スコーも1口のサイズ差はあれど美味しそうに頬張っている。
魔族は魔力を補う為によく食べるが……。
多分5kgは中々いない。
ストローから冷たいオレンジジュースが喉に侵入する。
椛もリンゴジュースをチューチュー吸っていた。
獣人と魔族の間で会話が盛りあがっている隙に、スマホに目を向ける。
『調査はどう?』
『今は酒場にいる』
『今から魔術を使う』
そのメッセージを飲み込んだ瞬間、頭がキーンっとなった。
『この混乱は棘が関わっている』
『アイツが?』
以前宝物庫で出会った瓜二つの魔術師。
何のためにこんなことを……。
体に悪寒が絡み付く。
耳をすませるが何も聞こえない。
ガタッと立ち上がる。
「なーくん?」
「棗さん?」
「……ちょっと席を外します。すぐに戻ってきますから」
バクバクとうるさい心臓を押さえつけるように、服を力いっぱい握りしめる。
ジュースの代金だけ置いて、酒臭い店を後にした。
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また薄暗い場所。
そこに彼はいた。
「棗ー!俺に会いに来てくれたんだね!嬉しいよ!」
まるで好きな人に会ったかのような態度に強烈な吐き気を覚えた。
「会いたくて会ってる訳じゃない」
「そうだよねぇ〜知ってる。そういえば棗ってさぁ、何したら笑うの?」
「……急になんだ」
喉が渇いている。
「棗はさ、女の子になって面白くなかった?」
「面白いわけないだろ」
フィクションの中では見かける展開も現実に起きちゃあ笑えない。
誰だってそうだろう。
なのに、目の前の男は疑問を顕にしている。
「ねぇ、なんで面白くないの?」
「逆にどうして面白いと思うんだ」
「だってフィクションだと皆面白いんでしょ?だったら現実で起きても面白いじゃないか」
何を言ってるんだコイツは。
薄く微笑む彼は僕に近づく。
「元に戻りたい?」
「あぁ」
「だったら、セイン=ポドリファの秘密を教えてよ。アルバートに聞いても何も答えてくれなくてさぁ〜資料も載ってな」
「断る」
そうハッキリ言ったのが珍しかったのだろう。
なんだろうか。
コイツに怯えていたのが急に馬鹿らしく思えてきた。
「僕は信友を売ったりなんかしない」
「しんゆう……まっ棗が言うなら仕方ないか」
ペロッと舌を出した瓜二つの見た目をした彼は魔術書をめくる。
僕も同じように魔術書を開けた。
普通に試験受けてないから、バレると詰むなぁ……。
とまぁ3段以上の魔術を実践で使うことへのワクワクと不安が心臓の辺りを支配する。
「ハイスッ!」
「あっつ!?」
小声で、フリーゲンと呟いて高く飛ぶ。
どこかに掴まらないと。
そう思った瞬間、手首がヒヤリとした。
「ちょっと〜なにやってんの」
不貞腐れているセインは逆さを向いている。
「悪い、」
「別にいいけど……情報集めは終わりだ。必要がなくなったからね」
「フレアは?」
「今向かわせてる。私は1番厄介なのを片付けてくるよ」
微笑んだ後、彼の体はドロっと溶け出した。
そのまま落下する。
ハイスのせいで今地表の温度は間違いなく熱い。
水が一瞬で蒸発してしまうぐらいには。
ひとまず……。
「プログレッシブ!」
パキパキっと音を立てて、広範囲が凍る。
また小さくシュヴェーベンと呟いて、ふわりと降りる。
滑らないように気をつけないと。
僕はセインみたいに滑れない。
まぁアイツは次元が違うけど。
「遅かったな」
「郷は大騒ぎだ」
相変わらずの顰めっ面。
正面をはっきり認識すると、そこには棘ともう1人。
知らないエルフがいた。
「やっぱりフェアじゃなきゃね!紹介するよ棗、彼女は春嵐シルフ、可愛いだろう」
後ろで軽く結んだ髪が揺れる。
エルフ特有のグラデーションがかった髪色が美しい。
細いつり目はこちらを一切見ない。
「どちらかと言うと美人な方だと思うけど」
脇腹をドスっと突かれる。
恐らく風の魔法使いだろう。
だって彼女の周りだけはいつまでも風が吹き続けているから。
フレアも例外ではなく、隣にいると暑い。
冬はいいが。
「じゃあ早速〜」
「シュタルク」
「リニア」
威力の高い直線状の攻撃が、2人がいる場所にぶち当たる。
そこに嵐のような風が飛び込んでくる。
「フェアタイディグング!」
防壁が目の前に現れる。
フレアの攻撃をこっち側に流したのか。
なんとなくそうだとは思ってたが……。
「どーする?」
「…………このままでいいだろ」
「まっそれが最善か」
シルフ。
彼女はきっと予定外のことが苦手なんだろう。
多分急にこっちに向かわされたのか。
さっきから動揺が隠しきれていない。
棘は楽しそうに笑っている。
「いいねいいね!もっとやろう!もっと激しく!」
ぱぁっと目を開く。
顔が全く一緒なだけに、気味が悪い。
さてどうしようか。
このまま火と風で戦っていてもこちら側の体力を削られるだけだ。
クンペルが鳴く。
そうか。
今はクンペルが居る。
ふわふわの頭を撫でて、僕らはその場から逃げた。
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「なーくんたち大丈夫かな?」
「監視はしてるから安心していいよ。それより、私達はこっちを片付けなくちゃ」
目の前にいる小物を足で踏み付ける。
それは「ア゛ッ」と鳴いて潰れた。
最初は棗達に任せようかと思ったが……。
器用にやるタイプじゃないからなぁ。
「私は小さいのを殺るから、スーちゃんはあの大きいのを」
「分かった!でも、最近暴走気味になっちゃうから……」
不安そうに瞳を合わせる彼女にニコッとガスマスク越しに微笑んだ。
「心配無用だよ」
さっ、いつもの氷は使えないし。
潔くウィンディーネに頼ろう。
「ウィンディーネ」
「分かっている」
コントラバスみたいな声が心地よい。
肘まである手袋を脱いで、薄く伸ばした海水を針のように細くする。
その間にスーちゃんは高く空を飛んで、攻撃を仕掛けていた。
全員避難はさせたから心配はいらないだろう。
……いや、後から損害賠償請求されたら困るからなるべく建物を傷つけないように気をつけなければ。
1人だけ違う心配をしながら、濃く光る魔法陣を視界に収めていた。
もうすぐ七夕ですね。最近、短冊の色で書く願い事が変わるって言うのを知りました。後、お腹壊しすぎてます。骨は丈夫ですが、腸は死んでます。楽しいね!!
未だに主人公の誕生日を祝っていない事実。
良ければ評価やコメント、ブクマをお願いしますm(_ _)
【Happy birthday ルイ/デパス 7/26】忘れないうちに
『セインと出会う前……詳しくは資料2をご覧あれ』
「デパースッ!誕生日おめでとう!!」
「わっ瀧。覚えててくれたんだ」
「当たり前でしょ〜!瀧は料理とかさっぱりだから……これあげる!」
「……これは」
「綺麗でしょ〜。頑張って探したんだ」
「ちゃんと研磨してある」
「つけたげる!手ぇ出して」
小さな石をつけたブレスレットがデパスの手首に付けられる。
「……ありがとう瀧。大好き」
「えへへ〜……デパス、これからもずぅっと一緒だよ」
「当たり前のことを」




