犬さん、少しお時間を
「これはこれは……いいセンスしてるね」
全く熱の籠っていない目線が砕け散ったシャンデリアを突き刺す。
怒ってる。
大分怒ってる。
身体中を流れる血液がドクドクと音を立てた。
「レイラ様、俺たちに怪我はありませんから、棗のおかげで」
「そっか」
ゆっくりと振り返る彼の顔に誰もが戦慄しただろう。
口の中がやけに冷たい。
「失礼ですが長、ここから離れた方がいいです。危ないですから」
「あっあぁ……」
すっかり怯えきってしまった長の腕を従者が支える。
不穏な空気だけを残して、僕らはその場を後にした。
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「ってかここってどんな場所なんだ?」
「お前はほんと、依頼内容以外に目を通さないな」
「どんどんアウトプットしていかないとオーバーヒートしちまう」
呆れたトーンにハッキリとした声が耳に響く。
「プロスペリダーテは肉食動物と草食動物が共に暮らす、珍しい郷らしいよ!だから、タイプBとCしかいないんだって」
「じゃあ普段何食ってんだ?」
ふっと出た言葉が宙に浮かぶ。
「普通に自分たちの主食ですよ。ただ人型を食べないだけで」
ピコピコと耳が動く。
ちょっと撫でたくなったが、指を交差させて我慢した。
その時頭をツンツンとつつかれる。
手を伸ばすと羽毛の感触が確かにあった。
「あんまり出てくるなよ。レイラが使い物にならなくなるからな」
冗談っぽく笑って掌に閉じ込める。
ピッピッと鳴いて首を傾げる姿は可愛いと思った。
「珍しいな。お前が笑うなんて」
「……悪いかよ」
「別に」
引いたような仕草に脳がピリッとなる。
にしても獣の臭いが凄いな。
彼が珍しくマスクをしているのは このせいかと妙に納得した。
眼帯もゴツイのじゃなくて医療用みたいなシンプルなやつ。
色はまだそんなにキツくない。
ただし音は妙だが。
ずっと重低音ばかり響いているような気がする。
「どうかしました?棗さん」
「いやぁ……ちょっとね。それよりレイラはいつ戻って来るのやら」
小鳥をもふもふと触る。
さっきからずっと姿が見えない。
「呼んだ?」
「レイラ様!」
「ちょっと話があるから場所を変えよう」
ニコッと笑う表情は怒りを必死で押さえ込んでいるようにも見えた。
セインは仲間が危ない目に合うと本性を表す。
まぁアイツの仲間はことごとく殺られたみたいだしな。
そうなっても仕方がない。
踏みしめやすい土の上をさくさくと歩き始めた。
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獣臭。
なんとまぁ凄いことでしょう。
けど臭いって感じではない。
むしろいい匂い。
「で、レーくん。話って何?」
スコーが丸眼鏡をグイッとあげる。
「さっきあったシャンデリアは覚えてるよね」
「はい。棗さんが気づくのを遅れてたら、フレアさんとスコーちゃんは……」
「気味が悪いぐらいにタイミングが良かったよねぇ……。まっ本当にタイミングを合わせてたみたいなんだけどさ」
苛立ちがこっちまで伝わってくる。
「タイミング合わせてたって?」
「言葉通り、私たちがあそこに立つタイミングでシャンデリアは落とすように仕組まれていた」
「どうして」
「邪魔だからだろうね」
パキンっとガラスが割れる。
メイクをしていない顔を思い出させるような、目つきの悪い様子になっていた。
口元に手を当て、ふっと笑った。
「スノードロップを悪く思う奴は沢山いるよ。それに、この状況をよく思ってる奴もいる。それがあの護衛達の中にも居たってことだよ」
明らか爽やか笑顔に背筋が凍る。
護衛が心配だ。
多分殺しはしてないんだろうけど……再起不能とかになってないだろうか。
と、考えていると乾いた音が鳴る。
フレアが手を叩いた音だ。
「分かりました。じゃあ俺達も十分注意するとしてですね、まずは聞き込みからしましょうか。じゃっジャンケンしますよ」
「えっこういうのって事前に決めとくもんじゃないんですか?」
困惑する椛に僕は諦めの気持ちを込めて言った。
「何デも屋は基本自由だからな。常識なんて持ったら死ぬぜ」
「はぁ……」
「じゃあいくぞ……最初はグー……ジャンケンっ!」
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じゃんけんの結果、僕とスコーと椛。
フレアとセインになった。
「よっよし!まずは誰から聞き込みをしようか!」
「そうですね……まずは犬系の獣人からいきましょうか。基本的に気さくな方が多いので」
2人の会話に頬が緩む。
頭の上にいるクンペルもちゅんちゅんと鳴いた。
斜め向こうに犬種的にコーギーとダックスフンドの獣人がいる。
昼間からお酒を呑んでいるらしかった。
「すいません。少し質問しても?」
獣人の言葉は最近覚えたばかりだから、ちょっと不安だ。
2人はじっとこちらを見つめて肩をバンバン叩いてきた。
「おうおう!どうした兄ちゃん!俺らに何か用か?」
「お前人間かぁ……初めて見るな」
椛が気さくだとは言ったが、これはなんと言うか……。
「ん?おーい!そこの2人もこっち来いよ!」
大きく手招きをされた妖怪と魔族は小走りで近づいてきた。
「こんにちは!」
「こんにちは」
太陽みたいに微笑むスコーと、月みたいに笑う椛。
それにコーギーの方が顔を赤くする。
ただ酒に酔っているだけかもしれないが。
「僕は何デも屋の朴木棗です」
「あたしはスコーピオンです!」
「椛ですっ。実は今ここで起こっている性別転換の現象について聞いていて」
「あぁあれなぁ」
ダックスフンドが酒の入ったグラスをグイッと煽った。
そのまま、こちらを見やる。
「あれが起こってんのは大体、酒を呑まないやつらだな」
「お酒ですか?」
「そうそう。あっ嬢ちゃんこれ、オレの名刺」
どさくさ紛れに手渡されたそれを彼女は受け取った。
変なことに巻き込まれなきゃいいが。
「レモンさんって言うんですね!」
「あっあぁ……」
しっぽがバタバタと振っている。
ため息をつきそうになりながら、もう1人に顔を向けた。
「他にもなにか情報は合ったりしますか?」
「他ねぇ……」
顎髭を何度かいじった後に、彼は口を開いた。
「後は独身に多いな」
「…………なるほど」
何とも言えない気分になる。
ってことは椛もなる可能性はあるのか。
恐らく獣人だけがなるものでもなさそうだし。
彼女はこくりと頷く。
「ところで兄ちゃんよぉ。情報を教えたってことで、ちょいと付き合ってくれねぇか」
さっきとはまるで違う威圧感のある態度に、不思議と恐怖はなかった。
それは2人も同じだった。
「分かりました」
ガッハッハッと大きな笑い声。
「話が早くて助かるねぇ」
何デも屋は大きな依頼の後は必ず2、3ヶ月開けています。緊急性のある場合は変更することもありますが。その2、3ヶ月の間に小さな依頼をこなしてます。家庭教師とか料理の作り方を教えて欲しいとか。フレアに料理を教えて貰いたいですね。包丁持てないです。
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【小ネタ】
アルバートには元ネタになった人物がいます。彼はよく子供を食べたそうです。確かどこかの部位は硬すぎてトイレに流したとかなんとか。一番共感できない人物だと思います。




