転換
「ったく……あの〝感情実験〟?ってやつ意味あんのかよ」
「さぁねぇ……でも、あれが成功したら〝最高の魔族〟が生まれるんでしょ?」
低い声と、高い声がぶつかり合う。
あたしは壁にピッタリと張り付いていた。
確かなーくんを探してて……。
見つかったらヤバいと思って隠れたんだ。
1回それで痛い目を見た。
「でも魔族って捕まえるの大変じゃん。アイツら感情が高ぶると杖無しで打ってくるし」
「そういう時は刺したらいいんだよ。魔族は心臓が2つあるからな。1つ無くなっても死にはしないさ。最悪、あいつらどうしでヤれば解決、解決〜」
胸糞の悪い会話に吐き気がする。
その時グイッと手を引かれた。
「スーちゃん。静かにね」
あたしはこくりと頷いて、彼の手を握る。
片方の目を包帯でぐるぐる巻きの髪はボサボサ。
けど、清潔感はある。
「ねぇセーくん」
小声で言う。
「なぁに?」
「魔族って何?」
少しの間が合ってから、凛とした声が針になって心臓に突き刺さった。
「魔族は角張った角に、どこを見ているのか分からない瞳。後は髪が長ければ長いほど魔力量が多くて、感情の起伏にも左右されるかな」
「……難しいよ」
そう言って彼にもっと近づいた。
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「はっ!?」
起きてみれば、体は汗で濡れていた。
気持ち悪くてお風呂に入ろうとベッドから足を下ろす。
なんか今日は妙に気持ち悪いなぁ……。
特に股間に違和感がある。
扉をスライドさせて、中に入る。
今日から洗濯担当になったから忘れないようにしないとな。
入る前に水飲んだら良かったなとか考えながら、ズボンを下ろした。
思考が停止する。
「…………え」
もう一度履いて、リビングへと足を早める。
バンっと勢いよく開き喉を震わせた。
「あるっ!!!」
「「ないっ!!」」
「眠たい……」
なーくんとフーくんはあたしとほぼ同じ反応をした。
セーくんは寝起きが悪いからぐずっている。
白い布で覆われているから、大福みたい。
「……セーくんってどっちなの……?」
それに2人はハッとしてゆっくりと彼を見る。
神様に性別はない。
だから今、あたし達が起こってることに関係するのかしないのか。
「セインはいつも通りだね」
「性別は無いからね、当たり前さ。けど……」
海水で出来た2人が布を取る。
そこにはふわふわの耳としっぽがあった。
「狐か?」
「どうやらセインは神様では無くなったみたい」
「ほとんどの種族の中から選ばれたのは獣人だったというわけさ」
ルーくんとローちゃんはクスッと笑う。
不機嫌そうな顔をして、大きく伸びをした。
「なるほどねぇ………じゃあ仕事は休みか」
そう言って2度寝をしようとする彼を全力で阻止した。
「仕事って何かあったの?」
「神様としての仕事だな。何してんのか知らねぇけど……昨日と今日は本物のセイン」
「へぇ……ってえっ」
昨日と今日はって……。
「あの輝さんの時は偽物ってこと!?」
気づかなかった。
服の色は……そうだよね、同じのを着ていたら分からないし。
体の色は……同じ氷から作られているよね。
「偽物というか……心臓がないだけで、まんま同じだけどな」
大きな欠伸を噛み殺してから、こちらを見る。
あっ。
「髪短くなってる!?」
「今気づいたの?」
呆れたなーくんに次いでフーくんを見る。
3色で構成された赤髪が長い。
ローちゃんはエルフの髪をギチギチの三つ編みにしている。
「今回の依頼は獣人の郷」
「この状態で行くんですか!?」
狐は立ち上がり、あたしにもたれかかった。
暖かい。
「今回はまさに、今起こってることについての調査とその解明さ……お腹すいてきた」
そう言うとお腹がぐーっと鳴った。
「今から作りますね。棗、そこら辺片付けろ」
「うぃ〜……スコーは洗濯頼んだ」
「了解!の前……お風呂入らなきゃ。べしょべしょだぁ」
最後の独り言は小さく言った。
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「いただきます!」
「「いただきます」」
「いただきま〜す♪︎」
4人揃って手を合わせる。
これは嶰から教わった儀式で、作った人や食材への感謝を示す為に行われるらしい。
それ以来、何となく食事前にはこれをするようにしている。
ハムと玉子が挟まったサンドイッチを、口に放り込む。
「獣人の郷ってどんな場所だっけ」
なーくんが口端に付いた、玉子を指で拭う。
「ん〜……どんな場所ったって犬とか猫とか……まぁ虫人と変わらないよ。あっスーちゃんって嫌いな動物とかいる?」
「あたし?いないよ!」
クスリと笑って答える。
魔族の宝物庫には動物と言えば、鳥しかいない。
それも数は1、2種類ぐらいだ。
まぁ主食が琥珀糖だからなのかもしれないけど。
確か鳥は虫を食べるらしいし。
「そうだ、発情期には注意するんだよ。ちゃんと自制出来る子もいるけど多くないからね」
「発情期?」
聞きなれない単語に脳が止まる。
「正常な判断機能が一時的に失われちゃうことだね。まぁ種の存続としては無くてはならない行動と考えてもらえれば、」
「なるほど……」
「まぁそうならないように、これを吹きかけて行くんだけど」
トンっと机の真ん中に置いたのは、小さな瓶だった。
香水のようだ。
手に吹きかけて、匂いを嗅いでみるが特に違和感はない。
「これは?」
「獣が嫌がる臭いだよ。私には効かないけどね」
にへっと笑って、2つ目のサンドイッチに手をかける。
サクッといい音が鳴った。
朝食を食べ終えても、未だ誰も服は着替えていない。
正確に言えば仕事着を着ていないのである。
「ってかまじで違和感しかない」
「分かるっ!!!」
なーくんがはぁっとため息を吐く。
普段とは違う雰囲気にちょっとだけ面白い。
体型も変わったせいか、着ている服が肩までズレていて危ないなぁとか。
目線がどうしても胸元に向いてしまうのは何故なのか。
見慣れないからってことにしとこう。
特にフーくんがすごい。
多分メロン2個分だな。
勝手に自己解決していると、腕がくすぐったい。
「スーちゃん、目線が下すぎるよ」
「あっごめん!つい……というか見慣れないからさ」
「私も見慣れないでしょ」
グイッと頭を押し付けてくるので、両手で撫でる。
直ぐに気分良さそうに微笑んでいた。
セーくんは何だか、いつもの張りつめている感じがないな。
「セイン様」
「んぁ」
フーくんは手招きをしている。
撫でる手を止め、彼をエルフの近くに置く。
狐は触る人が変わっても問題は無さそうだ。
「獣人の郷には明後日行く」
「明日じゃダメなのか?」
「依頼が明後日からになってるからな。獣人に早めの行動をすると嫌な顔をされるぞ」
「ふ〜ん」
興味がなさそうに答える なーくんに、思わずフッと口角が上がる。
やっとあの頃に戻れた気がして。
緩んだ唇をキュッと結んだ。
狐は触ったら駄目です。エキノコックスに感染しますよ。命に関わることもあるので。セインは触ってもOKです。狐状態になることが稀。きつねかわいい。
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【おまけ】
『性別が逆になった蟲駆除隊』
上から、トウモロコシ、ウド、エリンギ、シュンギク
「これはこれは」
「うわっすげぇ!なんかすごい!」
「う〜ん……あんま強くしないで痛い」
「ほわぁ」
「これさ、治るのかな?」
「え〜別に治らなくてよくない?」
「邪魔だよ。飛ぶ時とか特に」
「はわわ」
「シュンが言語無くしてる」
「最近、平行世界で人気になってるやつなかったっけ?」
「あぁあったねぇ。可愛いよね」
「わっ!」




