朴木棗と隣のトゲ
「いないけど」
一瞬脳が止まった。
ブラッドの任務が終わった後に盗み聞きしたセインとフレアの会話。
ここに来る前にスコーから聞いた、僕に似た偽物。
そして今の兄弟がいるか発言。
僕に変装して得られるメリットはなんだ?
フレアならまだ分からんでもないが。
弾かれたように振り向く。
まだ遠くには行っていない。
一般人とは違う気がして、2人を置いて音のする方へ走った。
「おいっちょっと待て!」
「すぐ戻る!」
会ってはいけないと本能が訴えてくる。
けれど会わないと駄目だと身体動く。
酷く気味の悪い感情が心臓にべっとりと張り付いた。
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小枝がパキパキと折れる。
音はするのに姿は見えない。
風が揺らぐ。
咄嗟に脚で蹴った。
土埃が舞い、僕よりほんの少しだけ高い声が聞こえる。
「久しぶりの再開だってのに酷いなぁ棗」
ゆらりと立ち上がったソレは僕と瓜二つの見た目をしていた。
まるで鏡越しで見たように同じである。
僕に兄弟なんていたか?
いや。
忘れているだけかもしれない。
次の言葉を聞くのが怖い。
「棗、俺の事覚えてない?」
「知らない」
声が震える。
「まぁ無理はないよね。だって頑張って棗に似せたんだもん!」
やめろ。
僕はそんな表情はしない。
「ところで棗、俺のこと聞かないの?」
ニヤッと笑う。
気持ち悪い。
「聞いて何になる」
「あはっ!やっぱり棗は変わってる。そーゆうとこも嫌いじゃないけど」
含んだ笑みはちょっとだけ嘘だらけのセインに似てる。
前にしていた手を後ろにやり、また前にした。
僕は銃口を突きつけられている。
「殺すのか」
「殺さない、殺さない!」
そのまま銃先を突きつけながら、ジリジリと近寄ってくる。
後ろ手にナイフを握りながら、深呼吸をして。
銃は心臓よりもっと下。
右。
腎臓。
ーパァンッ
「あれま」
「弾はどこ当っても良くないよ」
予感は的中。
防御術をしといて良かった。
まぁ防御術をしてなくても大丈夫だったろうけど。
今度はナイフを彼の首に当てる。
「今日はここでお別れにしよう。あっ最後にこれだけ言わせて」
彼は僕の耳に唇を寄せて。
「俺の名前は朴木棘」
軽やかに身を翻し、手をひらひらさせる。
その目は新しい玩具でも見つけたような輝きと、失望をグッチャリと混ぜ込んだみたいな感じだった。
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「何食ってんの」
「棗先輩もどうぞ!」
「意外と美味いぞ」
2人は得体の知れない串焼きをもしゃもしゃと頬張っていた。
渡されたそれを警戒しながら1つ、口に入れる。
肉っぽい。
豚に近いけど、どこか違う。
脂が脳を焼く。
「それはアンセクトグリエだね」
手に沢山の荷物を抱えたセインは少し気まづそうにしながら、微笑んだ。
……………………。
「死にたくなってきた」
口を手で押える。
それをフレアが不思議そうにアンセクトグリエを口に入れて、
「見た目は全然虫じゃないぞ」
と呑気に言う。
まぁ確かに見た目は虫っぽくは無いのかもしれない。
けれど、名前に虫と付いてる時点で想像してしまうではないか。
それ以上は口が受け付けず、レイに手渡した。
「ところでスコーはどうした」
セインはちょっと考えるふりをして口角をあげる。
「決別宣言かなぁ」
「決別?」
「そう。彼女にとって凄く重要なね」
「お前もそうなる日がくんのかなぁ」
若干上げた顎は動かさずに瞳だけを下に向ける。
彼は一瞬だけセインの顔になってレイラに戻った。
名前を使い分けているが、性格としてはレイラしか見せない。
ほんとのコイツはもっと頑固で笑わなくて、失敗することが嫌いで素顔をバレるのが酷く怖い。
それはきっとフレアも知らない。
僕はたまたま見てしまったのだけれども。
別に無理やり見た訳じゃない。
別にセインが僕の過去を知ったから代わりに、半ば強制的に見たいと言って見た訳じゃない。
と彼に対する言い訳を脳内つらつらと並べつつ。
棘の事を思い出した。
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彼の名前は朴木棘。
名は勝手につけているだけなので、本名は分からない。
棗と良く似た……いや、朴木棗、神楽フレア、セイン=ポドリファ、スコーピオン以外は気づけないぐらい精巧に模倣された全身。
棘は棗に執着しているが、フレアとは全くもって違う。
なんと言えばいいのだろうか。
そんな彼は今日も楽しげに施設を歩く。
アルバートのいる施設を。
辺りは血なまぐさい。
もう真っ黒になった液体を、汚れた靴でぴちゃんと跳ねながら1つの檻を覗き込んだ。
「やっほースカビオサちゃん!今日は棗に会ってきたんだぁ〜」
棘は床にドカッと座り込む。
スカビオサは黙ったまま伺うように視線を這わせた。
「そうなんだ」
「うんうん!でもあんまり実感ないんだよなぁ……ほんとに俺らって双子だったの?」
「彼からはそう聞いてきた」
ロボットだから声は震えない。
けれども思考の震えは止まらなかった。
棘は退屈そうに、錠の穴に鍵を差し込む。
スカビオサには訳が分からなかった。
ガチャリと扉が開き、手巻きされる。
「何……?」
「暇だから付き合って!もっと棗のこと聞きたい!」
その表情は酷く純粋だった。
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棗と棘は双子だ。
顔は全く似ていない。
どちらが兄か弟かは知らない。
彼らの両親は子供に興味は無く、近所のおばさんがよく食べ物を与えていた。
棘は体が弱く、ダンボールのベッドで眠っていた。
棗は病院に行かせるため物を盗んでは売ったり、情報を集めたり身を粉にして動き回った。
その時にスカビオサと出会った。
真面目な彼女は棗とは違ってよく働いた。
同じような境遇の彼らは直ぐに仲良くなって。
スカビオサは事故で死んだ。
そんなある日、彼は誘拐されてしまった。
「なんで生きてんの?」
正面を向いていた顔が、急にこちらに向いたから彼女はびっくりした。
目は生気を失っている。
そんなことはお構い無しに彼は言葉を続けた。
「だってスカビオサちゃんは死んだわけでしょ?つまりこの世から居なくならないといけない訳だ。なのになんで?」
「…………」
ロボットに呼吸は必要ない。
けれど首を掴まれたら、人間みたいに呼吸を停止する。
そう設計されているからだ。
「言わないならバラバラにしちゃうよ。もう二度と棗には会えなくなっちゃうよ」
「降霊術」
スカビオサは口早に答えた。
「は」
棘は思った。
なんて面白そうなことをアルバートはしたんだと。
彼の感情はただ1人に向けられていた。
「もっと棗のことを知らなくちゃ」
ヤバい奴らしかいない。
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【Happy birthday 1/27 神前シグナ】
『何デも屋を作る前の話』
「おめでとーございます」
「おめでとうございます」
「わぁ♪ありがとうセインちゃんとジンちゃん♪」
「シグナさん、ボクをここに入れてくれてありがとうございます」
「何々急に?かしこまっちゃってさ」
「誕生日なので、普段言わないことを言おうかと」
「なら俺は……そうだな。あの時守ってくれてありがとうございます」
「えぇ〜♪なんだか照れちゃうなぁ♪」
「照れろ、照れろ。照れまくってパイ投げられろっ!」
「うわっ♪2人して投げつけるなんて♪」
「いつもやられてばかりですからねっ!」
「くふふっ♪2人も中々上手くなってきたよね♪……それっ」
ーベシャッ
「「「あっ」」」
亡故の顔面にパイがベトリと張り付いた。
「よ〜し2人とも……逃げるぞ」
「うぃ」
「はい……」
「殺す」
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亡故は「頑張ろうね」、シグナは「楽しくなってきた」で登場してます。
彼らは過去編でよく出てくるでしょう。




