ちょっとのどかなほうもつこ
「最悪」
目が覚めると、視界いっぱいに赤色が広がる。
のそのそと体を起こして辺りを見渡すが、そこに2人の姿はなかった。
メモには「出かける」と変なマークを添えて置いてある。
クラゲ型の髪を上で纏め窓を開けた。
気持ち悪い不協和音は終わっていて、どギツイ色合いだけが残っている。
「ーーー♪」
窓辺に腰掛けて喉を震わせる。
昔、研究所にいた時に皆で作った曲。
僕が歌いながら鍵盤を叩き、セインはリコーダーを奏でる。
スコーはカスタネットを楽しそうに鳴らし、フレアは不満そうにタンバリンをシャカシャカと震わせた。
コクリコは鈴を不器用に振り、嶰は小太鼓をドンドンと響かせる。
「久しぶりに聞いたな。それ。レイラ様はどこに行った?」
「さぁ。知ってると思ったのか?」
不機嫌な眉を一層 険しくする。
「探すか?」
「レイラ様は別に望んでない。それより」
いけ好かない顔を逸らす。
目線の先にはレイが居る。
目覚める気配はない。
「アイツが連れてきたんだろうな」
「1つ聞きたいことがある」
澄み切った声は、鼓膜を不愉快に触った。
「なんだ」
「彼女は何者だ?」
うんと大きく伸びをして、手を強く握りしめる。
乾いた喉をもっと乾かせた。
「僕の盗賊仲間と言えばいいか」
「盗賊仲間……」
慈悲を込めた視線は僕を心底不愉快にさせた。
「そういえば、お前ってなんで盗みを始めたんだ?」
「あー……」
ついに来たかと髪を解く。
窓を閉めて、一定の距離を保った状態でフレアを見下ろした。
「確か……何かを助けようとしてたんだよな」
「何か?」
「そーそー」
脚を移植されてからと言うもの、過去の記憶が曖昧だ。
そもそも何で移植されたんだっけなぁ。
「ちょっと聞いていいか」
「何だ」
ウィユオワゾが可愛らしい声で鳴く。
だがいい加減、耳の裏を突っつくのは止めてほしい痛い。
「僕の脚の移植理由分かるか?」
瞬間暗い顔になり、真剣な面持ちで口を動かした。
「薬品棚がレイラ様の元に倒れ込んで、それをお前が庇ったんだ」
あぁ。
霧ががった頭が一気に晴れる。
思い出した。
確かセインが薬品棚を整理していて、楽しそうに色々説明していた。
その時。
ガンっと嫌な音が鳴り、棚が崩れてきた。
身体は勝手に動いて。
セインを突き飛ばした。
そこからは意識が無い。
アイツ怒ってたっけな。
「なんで庇ったんだ」って。
今の僕には考えつかないような格好つけた台詞を吐いたような気がする。
モヤモヤした気持ちに自分らしく無いと思いつつ。
「僕らも外出るか」
「彼女は」
「ライが見張ってるから大丈夫だろ。頼んでいいか」
姿も音も聞こえないけど何となく安心感が体を支配した。
フレアは不審がりながらも、ベッドから腰を浮かせる。
扉をグッと押してその場を後にした。
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「お前とこうしてるのは久しぶりな気がする」
「最近はちゃんとした休憩無いしな」
ほぼ移動時間=休憩時間に成り果てている。
給料はクソほどいいが、勤務体制だけはアホみたいに悪い。
命がかかってる任務に作戦無しはマジで頭悪いと思う。
耳には相変わらず不協和音が鳴り響くが、魔術をかけているので少しは平気だ。
「おっ」
目にはウィユオワゾのキーホルダーだった。
そういや名前付けてないな。
頭に乗った鳥を指に移動させて、少し考える。
「なぁ」
「なんだ」
顔を気に食わない彼に向ける。
「お前、ネーミングセンスあるか?」
「レイラ様の本名をどう思ってるかによる」
そう言うとフレアは顔をぷいっと背けた。
確か施設にいた時、セインは番号で呼ばれてたんだっけ。
羨ましいと言われて、皆で案出して。
最終的にコイツの名前に決まったんだった。
「んー……」
「覚えやすいのでいいんじゃないか」
「じゃあクンペル」
「クンペル?」
小鳥も何だとでも言うふうに首を傾げる。
「人間の言葉で〝相棒〟って意味」
「相棒……」
「今日からちゃんと頼むぞ」
クンペルはチチチッと高く鳴いた。
背後から足音がする。
宿から向かって来ている。
バッと振り返ると、そこにはレイがいた。
肩から息をきらしている。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……龍……せん……」
「今の僕は棗だ」
「棗……先輩」
戦っていた時と随分様子が違う。
昔っぽい。
「あの……迷惑……かけて…………すいま……せ」
顔色が悪い。
ひとまずレイを近くの椅子に座らせた。
「水買ってくる」
「うぃ」
駆け足でフレアが離れる。
「せんぱい」
「何がどうで、あーなったんだ」
可愛らしい顔が、光に当たる。
「先輩から離れて……1人でやっていた時に怪我をしているシャドウを見つけたんです。あっシャドウって言うのは某と一緒にいる精霊なんですけど…………。そこからはその……」
ごにょごにょと口ごもる。
絡み合った指に力を入れて、
「先輩を好きな気持ちが暴走しちゃったんです!……恥ずかしい…………」
赤くなった顔を覆い隠す。
これは僕が鈍感だったということか?
にしてもどうして暴走なんか……。
「扱い慣れてなかったんだろう。輝さん、これ」
まるで脳を読み取られたように説明を挟みながら、透明な液体を手渡す。
彼はそれを受け取り、ゆっくりと嚥下する。
「扱い慣れてない?」
「精霊は魂に宿る。慣れるまでは1部の感情が暴走するとレイラ様から聞いた」
「じゃあアイツもなったのか」
「いや、レイラ様は意思が死ぬほど強すぎて跳ね除けた」
やめろ無表情で言うな。
クツクツと笑いが込み上げそうになって口元に手を当てる。
人に笑顔を見せるのは好きじゃない。
自分で好きになれないから見せたくない。
「仲良いですね」
「「仲良くない」」
「揃った」
レイが笑顔になる。
「「コイツが合わせてるだけだ」」
また揃って互いの眉間に皺がよる。
「きしょいんだよお前」
「お前の方こそ気持ち悪いんだよ」
毎回そうだ。
仲がいいと言われれば、全く同じ事を喋ってしまう。
それを見てセインがなんとも言えない顔をする。
フレアとは馬が合う時とそうじゃない時の差が激しい。
セインからは日常面でも仲が良かったらいいのにと、良く小言を吐かれる。
「あの棗先輩と……」
「神楽フレアです」
「神楽さん。少し聞きたいことがあるのですが……」
深刻そうな面持ちで僕らを見捉える。
乾ききった唇が開く。
「棗先輩に兄弟っていますか?」
執事やメイドさんっていいですよね。
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【おまけ】
『ローラースケートで遊ぶ棗とレイ』
「中々便利だな」
「せっ先輩!どうですか!」
「遅」
「いやだって止まれないんですもん!」
「いけるって」
「無理です!」
「……んー」
「!ありがとうございます」
「レイの手ってなんか独特な手触りするよな」
「えっ」
「楽しい」
「なら……いいのかな?」
「じゃあスピードあげまーす」
「えっあぁちょっ!?」
「しっかり捕まっとけよ」
「分かってます!分かってます!」




