一件落着?
「おい」
違法な薬の臭いが鼻を刺す。
それ以外にもアルコールの臭いと、淫らな行為をした臭いが入り交じる。
肩までの髪をかきあげて、目の端にエルフを捉えた。
片目が隠れており、僕から見て左頬に〝01〟と書いてある。
少年は何も喋らない。
どうでも良くなって、歩き出そうとした時。
袖を掴まれる。
「お兄さっ!かっ買って!私を!」
頭の中に考えたくないことが、顔を出す。
手を振り払い、
「生憎エルフを売買する現金は持ち合わせていない」
「安いからっ!凄い、やすい!」
たどたどしい人間語。
ボロボロの服から伸びる腕は骨と皮しか無い。
まるで昔の自分を眺めているようだ。
髪を掴む。
僕から見て右目がおかしい。
赤紫に腫れている。
「僕は君を買わない。だが、稼ぐ方法なら教えてやる」
その瞬間、キラキラと闇に光が差し込む。
「おねがす!します!」
コンクリートを突き破った雑草が、楽しそうに揺れていた。
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変わった姿で出会ってから1度も、赤紫に腫れていた眼球は瞬きをしていない。
乾かないのだろうか。
「レイ」
「久しぶりに呼んでくれたね。なぁにダーリン?」
頬を両手で包む。
左目は薄くなり、右目はくっきりと開いている。
不気味な雰囲気が足を掴む。
「君の目的は僕だけだろ」
「まぁね」
唇が三日月形になる。
「だったらここに連れてくるのは僕だけで良かっただろ?」
「確かに、魔族の子はちょっと誤算だったかなぁ」
ハート型のピアスが光を反射する。
椅子がガタッと音を立てる。
1歩1歩緩やかに近づく。
レイは僕と脚の爪先がピッタリ引っ付くまで身を寄せた。
そろそろ昔に出会ったからと言って同情する癖を止めたい。
1種の油断が命取りになる。
体が言うことを聞かない。
ふわっとしたカールの髪が額に触れる。
唇に柔らかい感触が後を残す。
「運命の相手と一緒に精霊に食べられると……某達は来世に綺麗なまま結ばれる」
自分より小さな手が首をつたう。
口を長い耳に付けるか、付けないかで止める。
ポケットに入った紙を取り出して、広げた。
「フェアリーレン」
レイの体がガクンと力を失う。
重厚そうな扉は見るも無惨に飛ばされてしまった。
ちょっとマズイ。
彼を米俵の容量で担ぐ。
「スコーさん、落ち着いて」
殺気立った音は止まることを知らない。
顔が素早くこちらを向く。
暗かった表情が一気に明るくなる。
「あっなーくん!ここにいたんだね!」
「そーそー。でさ、スコー。ちょっと急ごうか」
微かに低い唸り声が響き渡る。
タイムリミットは近い。
一瞬だけアイツの考えていることが、こっちにまで流れ込んできた。
まだ若干混乱はしているけれど。
チッチっと高い音が鼓膜を撫でる。
「ウィユ」
ヤバい忘れてた。
首元の毛に顔を埋めている。
出会った時よりも丸くなっている気がするのは、気のせいだろうか。
「この子は人の記憶を食べるからね。多分あたしのをせいかも」
「へぇ〜……あっハクってやつ知らない?なんか堅苦しそうな奴」
そう問うと彼女は首をぐねぐねと左右に動かす。
「分からない」
「そっか」
まぁ今はいいか。
壁を叩く。
中は空洞ではないみたいだ。
全体像は未だ掴めていないけど、何となく。
…………。
脱出方法が全く思いつかない……。
鼓動が速まる。
瞬間、建物全体が大きく揺れた。
大きなシャンデリアが長机に落ちる。
破片が舞い、脚に鮮血が滲んだ。
「スコー!平気か!」
「あたしは大丈夫!それより、簡単な状況説明だけ頼める?」
担いでいたレイを違う肩に変える。
「精霊の食材」
「食われる!」
「そーゆーこと。だが脱出する算段が全く思い付かない」
それはスコーも同じ事のようだ。
とりあえず出口を探すしかない……のか。
魔術って出口探知出来るっけ。
よくある魔力探知なら本にのっているけれども。
「スコー、出口探知使えるか?」
ヒビの入った天井から粉が空気と遊ぶ。
「任せて!」
気合いが入りすぎのは心配だけれども。
金属で出来た杖を床に打ち付ける。
「ソルティ」
魔法陣が浮き出て、1本の線を描き出す。
破片がドンっとぶつかり合う。
高低差のある音が混じりあって気持ち悪い。
膝に力が入らない。
今倒れたらダメだって分かっているのに。
いつもみたいに魔術をかけ直せば。
「なーくんっ!」
視界が暗くなる。
微かに声が聞こえた。
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少女の体と一緒に彼の体が地面に吸われるように近づいていく。
今になって思い出した。
なーくんは急な音の高低差が苦手だ。
あたしの目と同じように。
ふーくんもセーくんも。
崩壊は徐々に酷くなっている。
「スコーピオン様、走ってください。姫様と王子様は私にお任せを」
「あっハク…さん!」
「急いで」
彼は2人を腕に抱える。
ちょっとだけ不安を覚えたが、気にするのは後にしよう。
脚を前に出す。
短いから跳ねて、距離を伸ばす。
瓦礫で道はドンドン塞がれていく。
「あの!」
「なんですか」
こんなに走って息を切らしていないのが凄い。
あの日を思い出す。
皆で施設の庭を走った時。
セーくんが1番遅くてなーくんが1番速かった。
あんなしょぼしょぼになった彼は中々見れない。
面白かったなぁ。
「スコーピオン様、何か用が」
「あっ扉見えてきた!」
ぶち壊せばいける!
杖を構え、指に力を込める。
「リーニュ!」
扉が無惨に壊れ、暗かった室内に明かりが差し込む。
目の奥が痛い。
しかも木造扉の先には真っ白で何も見えなかった。
後ろを振り向く。
気づくと彼は居なくなっていた。
代わりにロイがいる。
彼女はあたしの手首を引っ張り、光の世界へと突き落とした。
彼と彼女も落ちてくる。
手を伸ばすが届かない。
冷たい水が首裏を触る。
すると引っ張られ、少し首が閉まった。
苦しい。
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「やっぱりあの子だったね」
深いため息が溢れ出す。
「あの子?」
「昔、手術した子だよ。ちゃんと忠告したのに守らなかった見たいだね」
クツクツと笑う。
至極済ました表情で口を開く。
「レイラ様と同じですね」
「私は先輩に許可もらって」
「ないです」
先輩とは医療の神、亡故。
彼の本職は医者で、何デも屋はそれの延長線に過ぎないと話していた。
延長線にしては強すぎるが……。
空気が押しつぶされたように、俺の髪や服が風に猛攻撃を受ける。
レイラ様も同じだ。
今回の事件の犯人である輝レイと何デも屋の2人は意識を失ったかのようにピクリとも動かない。
「ロイ。どうだった中は?………………へぇまるで童話に出てくる屋敷みたいなぁ……なるほどね」
彼女の声は聞こえない。
霊感があれば良かったのに。
冷たい手が触れる。
ぎゅっと握ると、握り返された。
……これは勘違いしてもいいのだろうか。
「ところでさぁフレア。あの子の問題どうするよ」
まるで死体のように眠っている彼女を指差しながら言う。
手が離れて、医者の顔になる。
「別に今解決しなくてもいいんじゃないですか」
「悩みの種は早めに潰すに限る。君も分かってるだろう?」
ガスマスク越しに見えた表情は不敵に微笑んでいた。
重大なミスをしてしまいました。ライではなくロイです。修正しきれてない箇所があれば教えてください。
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【おまけ】
『セインの仕事を邪魔するルイとロイ』
「ねぇセイン〜あそぼ、あそぼ〜」
「駄目だよロイ。セインは仕事中だよ」
「でもでも」
「ダメダメ、ロイ」
「じゃあ2人で遊ぶ?」
「いいね。じゃ鬼ごっこにしよう」
「久しぶりだ〜」
「じゃあじゃんけんで決めよう」
「いくよ〜最初はパチョー、じゃんけん」
(パチョー?)
「「ぴっぱー!」」
(ぴっぱー……)
「あぁまげだぁぁ……じゃあ1数えるね」
「はーい」
(????)
ーかたカタカタカタ
「セイン!」
「なになに?」
「ちゃんと探してくれなきゃダメじゃんか!」
「「ロイが探すんじゃないの!?」」
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パチョー▶パーとチョキの合体バージョン
ぴっぱー▶分からん




