自由に殺ろう
フレアは特に何も言わなかった。
不意にレイラ言葉が脳裏を過ぎった。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
「棗は知ってるっけ?うちの教訓みたいなやつ」
「初耳」
「そっか。うちの教訓は〝自由〟だよ」
「なんで?」
「決まった形とかないからね」
「ふ~ん」
「あっ任務の時は結果さえ間違わなかったら、何してもいいよ」
「なにそれ」
「数学とかでさ、他の人とやり方違っても答えは合ってる時あるじゃん。あれだよ」
「あれか」
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
結果さえ間違わなければ、何をしてもいい。
走っていた足を止める。
僕はその場に座り込み、何かを探すふりをした。
前から誰かが近づいてくるのが分かる。
俗に言うイケボと言うやつだろうか。
「お困りですか?お嬢さん」
少し声を高くする。
「あっ、実は……耳飾りを落としてしまって……」
「…………そうでしたか。ワタシも探しましょうか?」
「本当ですか!?」
そう言って満面の笑みを向けた。
アルブスは一瞬、嫌そうな顔をする。
なんだろうか。
アルブスはこちらに手を差し出す。
僕はその手を上品に握った。
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15分ぐらい歩いただろうか。
その際、アルブスとは一言も喋ることなかった。
顔が緊張で強ばっているのか、難しい顔をしている。
そろそろ頃合か。
僕は気分が悪そうな演技をする。
「ゔっ」
「どうしたんだい?」
「ごめんなさい……体の調子が優れなくて……」
手で口元を抑える。
僕の予想では、アルブスは笑顔になると思ったのだが……。
どうやら、違うみたいだ。
アルブスの顔は恐怖で満ちていた。
期待外れか。
体を少し傾け、ポケットからサバイバルナイフを取り出し、アルブスの心臓目掛けて突き刺した。
アルブスはびっくりした顔をしながら、目を閉じた。
5本の黒いメッシュがあると言うのに、死は呆気ない。
いや……。
別人か?
「可愛い顔してさぁ……乱暴なんだね」
手を捕まれそうになり、後方に飛ぶ。
「あっはははぁ。凄いねぇ君。私の下僕にしてあげようか?」
口角を限界まで上げたような顔。
僕も同じように口角を上げた。
どうやら期待外れではなかったようだ。
「悪いけど、主人がいるからいいや」
首を傾ける。
「そんなとこ辞めちゃえばいいじゃん」
「こんな待遇いい所を離れるほど、僕は馬鹿じゃない」
「そっか、なら仕方ないね。……サング」
体の自由が効かなくなる。
また蛙が潰れたようなポーズになった。
アルブスが近づいてくる。
「もうちょっと遊びたかったけど……君がいると邪魔なんだ。じゃあね、棗くん」
目を瞑る。
息を思いきり吸う。
今。
急に体の自由がきいて、アルブスにサバイバルナイフを振りかざす。
腕が切れた。
血がドクドクと流れ出す。
「君の仕業かい?」
「なんの事だか」
アルブスは流れる血を押さえている。
ヴァンパイアは血液が無くなると、それを埋めようと種族関係なく襲う。
今の僕は間違いなく獲物だ。
木の間から、荒い息が聞こえる。
他のヴァンパイアか。
「殺す前にひとつ聞いておこう。君は何者かな?」
「ただの一般人だけど」
「っははは。嘘はつかないでおくれよ。君は〝盗賊〟だろ」
「見間違いが激しいのでは?」
「確かに見た目は盗賊向きじゃないね。でも反射力とか、素人じゃないと思うけど」
アルブスの口角がグッと上がる。
まるで勝ち誇ったような顔は、昔の僕とよく似ていた。
「殺す前に忠告しといたげる。自分を過信しすぎない方がいいよ。足元すくわれるからさ」
右手を高く上げた。
左手に魔導書を持って。
「フリーゲン」
気に食わないやつの声が聞こえた。
1歩前に跳んで、足に力を込める。
すると、身体は大きく宙に飛んだ。
視線をさっきの場所に移すと、そこは木がなぎ倒されていたり、地面に大きな穴が空いていた。
レイラに怒られなきゃいいけど。
そのまま降下する。
「シュヴェーベン」
体に浮遊魔術をかけて、落下の衝撃を無くした。
「アルブスは?」
「倒したけど……被害出すぎじゃね?」
「…………すまん」
「謝るなキモイ」
「なんだと?」
「さぁ〜居なくなったスヴェンを探そ〜ね〜」
呑気に語尾を伸ばしながら、後ろを振り返った。
ヴァンパイアは塵になって消えるらしいが、装飾品は残るみたいだ。
アルブスがつけていたチョーカーの周りが、塵になっていることを確認する。
今回の仕事も成功した。
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「本当にいなくなったんだな」
王様はなんとも言えない表情で、口元を抑える。
何デも屋は基本前払いだ。
仕事を完了した後に逃げられるケースを避けるためだそう。
「ありがとう。また頼むことがあったら、よろしく頼む」
「いえいえ、こちらこそ。いつでもお待ちしております」
2人は握手を交わした。
こういうのを見ると、僕には絶対に出来ないと感じる。
見つかったスヴェンはずっと泣いており、フレアが慰めていた。
我慢していたであろう涙が、とめどなく溢れ出す。
話によると、茶葉がないから買いに行こうとしたところ、誘拐されたらしい。
で、成り代わったと。
危機感が無さすぎるな。
何故か都合よくポケットに入っていたソフトキャンディを口の中に入れる。
甘い。
だが、若干溶けていて気持ち悪い。
「そういえば本に書いてる人間ってなんですか?」
「えっ」
王様は驚いた顔をする。
「依頼が終わったら話すって。約束は守ってくださいよ」
「あ……あぁ!すっかり忘れてたよ。いやぁ、本では人間は非常にか弱い生物だと書かれていてね。それと、素直で優しいとか」
「とんだ勘違い書物ですね」
「やっぱり自分の目で確かめた方がいいね」
その後、僕らは飽きるで喋り続けた。
中でもスヴェンと王様が親子だったことが、一番びっくりした。
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「そういやレイラ……ルイか、サンキュな」
僕はレイラに向かって話す。
レイラは主に4つの亡霊を従えており、名前はライ、リイ、ルイ、ロイと適当そのものだ。
レイラが人の形を作り、そこに憑依する的な感じらしい。
ルイは冷静な判断で戦闘をサポートしてくれるので、とても助かっている。
一瞬隙が出来たのもルイのおかげだ。
「ルイも喜んでるよ」
ニコニコと笑うレイラは嬉しそうだ。
「そういえばレイラ様、いつお帰りになりますか?」
「ん~……明日の朝かな」
「分かりました。何か手配しましょうか?」
「ここら辺は馬車だっけ?」
「そうですね」
「じゃあお願い。頼りになるね」
フレアはニマニマと嬉しそうだ。
不意に首が取れるんじゃないかと思う勢いで、レイラが振り返る。
そこにはヴァンパイアの男がいた。
「何デも屋の人たち?」
「そうだけど。仕事?」
そう問いかけると、男はこくこくと首を振る。
「ボクの名前はエリンギ。害虫駆除は君たちと合同みたいだから、挨拶しとこうかなぁと」
「……害虫駆除って何?」
レイラの方に首を向ける。
彼は不思議そうに、最悪のことを言ってのけた。
「あれ?言ってなかったっけ?ヴァンパイアの後、害虫駆除キツいね~って」
わー聞いてないー。
「辞退は!?」
「1か月前くらいから了承してるから無理だろ」
その言葉を聞いた僕は、頭の中で思っていたことが口から流れ出た。
「……今日が命日だ」
投稿頻度多くしたい……
良ければ評価お願いしますm(*_ _)m
【唐突プロフィール】
名前/スヴェン・コークリア
誕生日/9月30日
好きなこと/裁縫
嫌いなこと/絵を描く……特に模写
趣味/ヘアアレンジ
種族/ヴァンパイア
優しく、人が喜ぶことは何でもしてあげたい。世間知らずなところがある。
名前/デロイド・コークリア
誕生日/10月31日
好きなこと/皆とお喋り
嫌いなこと/犯罪
趣味/娘と裁縫したり、料理したりすること
種族/ヴァンパイア
公私がはっきりしている。少し優柔不断な時がある。
名前/アルブス・ラーベル
誕生日/1月16日
好きなこと/お金を数える
嫌いなこと/綺麗事
趣味/ギャンブル
種族/ヴァンパイア
顔は美人である。だが、性格はクズそのものだ。