頑張ろうね
「檜とスーイサイドは大丈夫ですか?」
今の季節、涼しくなってきたとはいえ、手術用の服は少し暑い。
そこにはセインもいた。
相変わらず、ガスマスクをつけており表情は分からない。
「大丈夫だよ〜。生命活性剤使ってるからね」
「………精神の崩壊……とかは……」
「使い方さえ間違わなければ、危険なものじゃない」
セインの声じゃない、重さのある声。
医療の神様〝救百亡故〟
何千の前から生き続けている名医だ。
生命活性剤を作ったのもこの神。
まさかあんな事になっていたとは思ってもみなかっただろうけど。
生命活性剤は濃い黄色のシュワシュワした液体。
魔術がまだ広まっていなかった時代には重宝されていた。
切断された肉と肉。
骨と骨を瞬時にくっつけ、細胞までもが完全に復活する。
ただし、使用する場合は特定の液体で薄める必要があった。
そのまま使用すると精神の崩壊を起こす。
セインを見ると、瞳孔のない目が沈んでいた。
「ごめんね」
「いいってば。お前のせいじゃないし」
「うん……」
言ってみたものの、少し気まずい空気が流れた。
僕は昔はもっと感情豊かだったはず。
だいぶん前の記憶だからあんまり覚えてないけど。
ある事があって、セインが僕に生命活性剤を使った。
そして、一部の記憶以外が全て無くなったに等しい。
最近は戻ってるっちゃ戻ってるけど。
にしても瀕死に近かった彼らが、みるみる回復する姿は嬉しい。
戦いが終わった後、本社に戻るとまぁ何とも血塗れなやつが少なからず居た。
セインにリムーヴァル、杉とフールにジンとフォールス、エンプティ、リバティ、プリヴェントは無傷か擦り傷程度。
燿爛とモルペウス、檜とスーイサイドは重症を負っていた。
今治療を受けている檜は搬入された時、両腕と左脚の膝から下が無かった。
恐らく腕は義手になるだろう。
スーイサイドは脚がぐちゃぐちゃだったが肉はあったので外見上、元には戻る。
ただし、動くかどうかは本人次第ってところか。
「リハビリ大変そうだなぁ」
ふと、口に出た。
「慣れたら違和感ないよ〜。何より、あの子の技術は凄いからねっ!」
自信満々に話すセインに亡故が釘を差した。
「檜君が終わったら、次は君だからね」
「…………おうち帰る」
「帰らないで」
「帰さねぇよ」
揃った。
2人して思わず「ふっ」と笑ってしまう。
「じゃあ、セインは借りるね」
「任せました。じゃあちょっと用事をこなしてきます」
それだけ言って、手術室を出た。
人間の街とはまた違った倫理観。
全く、文化も言語も違うなんて面倒くさすぎるな。
マスクと帽子を取り、廊下を歩き始めた。
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「フレア、さっきから何見てんだよ」
パソコンだけを見つめる彼は嬉しそう。
キモ。
「…………棗。4人目だ」
「はぁ?」
首を傾げる僕に、フレアは不機嫌そうに言った。
「スコーピオン。分かるだろ」
「久しぶりに聞いたな」
旧友を思い出す。
僕らの中で1番明るくて優しい。
機械が誤作動をおこした時にフレアが庇った少女。
魔道士としての技術は最高だが、それ以外が危うい。
毎度道に迷ってよく5階に来ていた。
下の階に行ってないだけまだいいのか。
「あの事件から何人が生き残ったんだろうな」
「俺ら含めて、分かる限りは11人」
「誘拐されたのは1000人とかじゃなかったっけ」
「地下の存在が大きいだろうな」
悲しそうな瞳は何かを見つめていた。
セインのことだろうか。
「お前はどこの階だっけ?」
「3階だ」
「そうだったな」
〝少年少女誘拐実験事件〟
およそ1000人が誘拐され、人体実験に使われた。
建物は5階から地下1階に分かれており、死ぬ確率は階層によって違う。
僕がいた5階は生存率100% 。
主に心理実験を行っており、精神を崩壊するやつが何人もいたが死にはしない。
正直見てて怖かった。
他の階については全くもって分からない。
生存者が少ないのと、何よりセインが話したがらないのもある。
まぁ別にいいけど。
「あの方向音痴は直ってるかな?」
「さぁな。まぁその方向音痴がとんでもない物見つけるときがあるんだけどな」
「ふふっ。それじゃあ後は2人かぁ……」
うわ言のように空に浮かべる。
僕らは登録されたリストから選ばれていない。
旅で出会った偶然に似た必然で集められた。
「にしても色々教えないとだな……」
「後、昇級、昇段試験もね」
「セイン様!?」
「気づいてたくせに」
ガスマスクをつけた顔は不貞腐れていた。
3人で小さな画面を覗き込むせいで、空気が濁っている。
大きな欠伸を噛み殺してから、2人を見た。
「今回の収穫についてでも話すか?」
「博士のところには魔術師がいる」
セインは椅子に体を預け、首が痛そうな体勢になっている。
フレアは相変わらず姿勢がいい。
立って話すのも体に毒なので、ソファに寝転んだ。
ふかふかで目をつぶったら寝てしまいそう。
「洗脳が使えるってことは棗より強い」
「そうだね。他の種族で洗脳が使えるとしたら神様だ。でもそれだったら、既に味方にいる」
頭を上下に動かす。
「それ以外の情報は無い……か」
「依頼をこなすしかないですね」
「だねぇ〜」
その時、ピコンっと高い音が鳴った。
久しぶりに聞いたな。
フレアが音の正体に目を通す。
「新しい依頼ですよ」
その言葉に嬉しいやら悲しいやら、分からなくなった。
「次はどんな場所?」
セインが問うと、彼は穏やかに答えた。
「魔族の宝物庫です」
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「モルペウス」
傷ついた体は、治りかけていた。
彼は夢の神だから、寝ることで回復する。
その間は会話すら出来ない。
「ごめんね。モルペウス。自分のせいで嫌なことさせちゃって」
グラデーションがかった頭を撫でる。
指にカラフルな液体が付着した。
小さい頃に出会ったきりだった。
2人で好きなモノを語って、いつまでも心友でいようと誓った。
ある日。
なんの種族かも分からない人型に出会う。
それはとても力が強く、腕を簡単に折られてしまった。
痛くて痛くて、泣いて叫んだ。
そのままどこかに引きずられ、頭の内部に干渉を受けた。
気持ち悪くて吐きそうになる。
そこからの記憶は曖昧だ。
「ごめんね。ごめんね」
手を握り、おでこに当てた。
するとモルペウスは薄らとだが目を開ける。
「謝らないで……〝ヤドリギ〟」
蚊の鳴くような声だった。
それだけ言うと彼は目を閉じてしまった。
自分たちがした罪は許されない。
これから、犯した罪の分だけの拷問が行われる。
きっと辛くて怖いけど大丈夫。
ちゃんとケジメはつけなきゃね。
ニッコリと微笑んだ自分は、目を瞑った。
「頑張ろうね、〝皆で〟」
掘り下げたい子達が多すぎて、順番に迷っちゃいますね
良ければ評価やコメントをよろしくお願いします
【学んで楽しい種族図鑑】
3/妖怪
外見↓
髪の毛は左右で色が異なる。
瞳は網掛けのようになっており、どこを見ているかは分からない。
耳はあったりなかったりするが、音は聞こえている。
肌も妖怪によって異なりはするが、白っぽい肌をした者が多い。
能力↓
妖術のこもった言霊を言うと、発動する。
自身の妖力を使う場合と自然の妖力を使う2種類がある。
自身の妖力は努力の積み重ねによって、威力は上がる。
自然の妖力は生まれ持ってのセンスが問われる。
魔術師や魔法使いと同じく試験があり、Aから始まりFが最高。
自身▶椛、胡桃、檜、ヤドリギ
自然▶杉
自然の妖力は稀である。
寿命↓
大体1000年まで
性格↓
自身に満ち溢れた、正義感に強い者が多い。その反面、捻くれて悪感が強い者も多い。
生活↓
巨大な学校の中で生活している。
こちらと同じで授業もあり、サボってもお咎めはない。
ただし、皆との距離だけがどんどん離れていくが。
言語↓
こちらの世界で言うと中国語に近い。
政治↓
成績優秀者が理事長となり、学校を支配できる。
作中に登場する妖怪↓
椛
杉
檜
胡桃
ヤドリギ




