憎い相手
こんな感じだっけなぁと。
クレイジー・ナードはボロボロになった廊下を踏みしめながら、サフランのことを思い出していた。
あいつはもう死んだだろうか?
別視点で見た時はボロボロだったけど。
そういえば、さっき水晶玉に写った中にスーイサイドとか言うやつがいたよな。
あれは……棗と仲が良かったんだっけ?
少し考えてから彼は逆方向に歩き出した。
棗とエンプティは仲が良かった。
エンプティはスーイサイドと仲がいい。
間接的に被害をくらったら嫌だなとか。
「あいつのパーツ持ってくんの忘れたなぁ」
何事にも興味がなさそうな表情を作る。
クレイジーは大抵のことに興味がない。
あるのはただ1つだけ。
いや、2つか。
そんなことを考えていると、瓦礫に挟まった獣人を見つけた。
魔術書を開けて、呪文を唱える。
「シュタルク」
一時的な身体強化の魔術で、次々と瓦礫を放り投げる。
反応がないから死んでいるのかと思ったが、背中の骨が上下していたから生きてるっぽい。
とりあえず外に放り投げといたらいいかと思って、腕を引っ張った。
重た。
やっぱし置いてくか。
パッと手を離すと、ドサッと音が鳴る。
「うっうぅ」
「あれぇ?起きちゃったか」
ーガンッ
そう言って無抵抗な頭を地面に落とした。
まぁ死にはしないだろう。
軽い腰をスっと上げた瞬間、銃弾がこめかみを掠めた。
「誰?」
返事はない。
次に肩に風穴が開く。
は?
えっ痛。
誰?
こんなことするなんてアイツしかいない。
「あぐっ」
首が締まる。
きゅううっと。
触られている場所が冷たい。
窒息するか、凍死するかどっちが先か。
一気に離されて、思わずむせた。
喉が壊れたみたいにゲホゲホとこぼれ落ちる。
「お互い邪魔しかしないよねぇ」
虚空を見つめて小さく呟いた。
ポケットに入れたいたスマホが揺れる。
イラつきながら応答ボタンをスライドさせた。
「俺、今ちょー機嫌悪〜い」
それだけ言って切ろうとしたが、あっちから止められた。
「至急戻って来いって、アルバートさんが」
はっきりした口調は棗が探しているスカビオサ。
「ほんとに至急?」
クレイはアルバートを信用していない。
散々呼び出されては、なんでもないと言われることが多いからだ。
100回中98回はなんでもないと言われて、帰された思い出が顔を出す。
「あの……すごく怒ってて……このままじゃ」
パリンっとガラスが割れる音がする。
他には職員の悲鳴や怒号や何やらが、鼓膜越しに伝わった。
これはやばいぞー。
仕方ない、棗を観察するのは諦めるかぁ。
グンと伸びをしてから通話を切る。
足がぐちゃぐちゃになった獣人を一瞥してから、クレイはその場から姿を消した。
彼に攻撃をした幽霊は、スーイサイドに憑依する。
這ってなら動けるから、とりあえずセインのところまで行こう。
たしかここと近いはずだ。
「あれ、ルイ」
「レーラ!」
「あらあら足がまぁ可哀想に」
見た目が違っていても、気づいてくれるのは嬉しかったりする。
彼はリムーヴァルを片手にスーイサイドの下半身を眺めて言った。
「これは義足になるかもね。せんせいに任せたら、治るかもだけど……どうやって運ぼうか」
顎に手をあて、考える振りをする。
周囲を見渡してから、バラバラになった木材を指差して。
「これとかどうかな」
「ん〜まぁいいか」
セインは簡易的な担架を作り、海水で体を作り上げた。
彼は怪力だ。
厚い板を簡単に折ってしまうのだから。
前は金塊をバコンっとやっていたなぁとか思い出しちゃって。
「じゃあ彼女は頼んだよ」
「うぃ」
体を半分に分けて、スーイサイドを担ぎ上げた。
怪我人はゆっくりかつ、迅速に。
足場は悪いが、なんの問題になりはしない。
ってか普通に真上に破壊した方が楽だなぁ。
でもそれをしたら怒られるしな。
伸びてくるカラフルな手をライが切り裂く。
彼女はオレと同じセインに仕えている亡霊だ。
魚人だった頃は、名前を聞いただけで誰もが震え上がるぐらい恐れられたもの。
オレたちの会話は誰にも聞かれていない。
「セインはどこに行ったんだろう?」
ライがそんなことを口に出す。
「さぁ?きっと誰かを救助しに行ったんだよ」
「もしかして外で戦ってた子達かな?」
「きっとね」
そんな会話をしつつも、彼女は軽やかに切り裂いていく。
流石鬼と言ったところか。
鬼、どこかではオーガという種族は剣技に秀でる者と、呪術に秀でる者の2種類。
彼女は前者だ。
確か嶰もそうだったかな。
同じ実験施設にいて、セインが1番興味を示した存在。
あの時の食いつき用は今では想像つかない。
「考えごとしてる暇があったら、足動かしてよ」
「ごめん、ごめん。ライのこと考えてた」
「可愛すぎるからってやめてよね」
調子のいいことを吐きながら、さっきより足を早める。
「ライって生きてた時と全く変わらないよね」
「ルイもでしょ」
「確かにそうだね」
「否定しないんだ」
あっ。
引き金を引く。
ーパァンッ
乾いた破裂音が響き渡った。
ドロっとしたものが辺りに跳ね飛ぶ。
「ほんと面倒臭いなぁ」
「ありがと。助かった……まぁ貫かれても亡霊だからあれなんだけど」
「確かにね。でもセインは意地悪だから」
「痛みを共有してくるね」
他人には無茶をするなと言うくせに、自分は無茶をする。
その度に倒れて、怒られて。
彼は失うのを恐れすぎている。
まぁ脱出させようとした子達を目の前で殺されたから、そうなるのも仕方ないけど。
だからオレ達は守らなければならない。
それがセインと交わした契約。
走っていると、目の前にヴァンパイアがいた。
確かエンプティとかなんとか。
「このまま行ったら怪しまれちゃうよね」
「まぁね」
傍から見れば、重症のスーイサイドが浮いているようにしか見えない。
「ねぇルイ」
「どうしたのロイ」
彼女はそこらじゅうに散らばった液体を体に塗り付け始めた。
「何してるの?」
「こうやったら、モルペウスが作り出したと勘違いしない?」
「危険だね」
「最悪体を乗っ取っちゃえばいいよ」
笑うロイに倣って、液体を手にすくった。
あいつが見たら死にそうだな。
「じゃあ行くよ」
「わかったよ」
さっきと同じスピードで横を突っきる。
3本線の黒いメッシュ髪が目を見開く。
あの速度なら大丈夫だろう。
ってかロボットなんか置いていけばいいのに。
ふとスカビオサの笑った顔がパッと浮かぶ。
セインも。
セインも皆の前で素の笑顔になれたらいいんだけど。
ブラッド編は英語名の子が多いので単語テストで役に立つかもしれません。
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【おまけ】
『棗にイタズラするセインと愉快な仲間たち』
「…………セイン」
「ん〜…私今スマホ見るのに忙しい」
「僕の部屋を脚が生えた鶴でいっぱいにしてたのにか?」
「フレアが」
「あいつがする訳ねぇだろ」
「ちぇっ」
「あの人んとこ連れてくぞ」
「まっ待って!待って!やだやだやだ!やーだー!」
「うっせぇ、部屋の鶴何とかしろ」
「えぇ〜……フレアにあげるか」
「その方がいいだろ。ところで、部屋にあった武器を持った亀はなんだ?」
「えっそれは知らない」
「…………アイツらかぁ…」




