風邪を纏う
杉視点
おらは今逃げている。
燿には殺さなくてもいいと言われた。
が、本当にいいのだろうか。
だけどおらは多分殺せない。
この世界に入る前から分かっていたことだ。
いつかは殺らなくちゃいけない。
けど。
けどっ!
逃げながら頭の中で決心のつかない自分に腹が立つ。
いつも重要な時に出来ない。
出来損ない。
「あんまりさぁ……逃げないでよ?殺りにくいじゃんかぁ♡」
ニタニタと笑いながら、少し高いヒールをカッカと鳴らす。
不規則に放たれる魔法が頬を掠めた。
血が滲む。
「あれあれ、反撃してこないの?」
口を開くと、血の味がした。
恐怖で鳥肌が立つ。
「君ってさぁ……何か取り柄とかあるの?」
「ゲホッゴホッ……なん……のっ……話だ」
「あたしはね。発動速度が速いの。だから敵を仕留めるのに向いてる。けど君はさ、逃げてるだけの足でまとい。その逃げすらも のろまでさぁ……ねぇ〝何でここにいるの?〟」
目の前の魔族の言葉がグサグサと胸元に刺さっていく。
言い返せない。
ぐちゃぐちゃした感情の中フールが口を開く。
「無視?せめて命乞いぐらいしなよ〜♡」
杖の先がおらに向けられる。
白く光るそれは風で揺れていた。
このまま死ぬのは流石にかっこ悪いなぁ。
そう思いながら目を瞑る。
ごめん胡桃。
あんまりいいお兄ちゃんじゃないかも。
「疾風怒濤」
ーパキパキパキッ
ヒューっていう風の音が辺りに鳴り響く。
風が木の板やコンクリートを巻き込んで、高く高く吹き上がる。
1本しかない足に力を込めて立ち上がった。
目を開くと驚いた表情をしたフールの姿が目に焼き付く。
何を驚いているのだろうか。
軽く手を振り上げると、風は更に勢いを増した。
そのままボールを投げるみたいに腕を振る。
「ちょまっディファンス!!!」
フールは急いで防御魔導を発動したが、精度が低いのか、あっさり壊れた。
その隙を狙って、風の形をドリルのようにして襲いかかる。
「ディファンスっ!」
ーガッ
今度は中々割れない。
もっと力を込めるか。
拳を握る。
ーガガガッ
半分ぐらい淡い水色の防御壁が壊れていく。
「なんでっなんで急に強くなってんのよ!!!ふざけんじゃねぇよ!雑魚がッッッ!!!!」
「…………のろまに負けてどうすんのさぁ!?」
「えっなに」
「のろまなんだろっ!?俺は!!だったらさっさと負かして見ろよ!そんなに自信があるならさぁ!!!」
…………。
初めてこんなに大きな声を出した気がする。
肩が上下しながら、荒い息を吐く。
そうだった。
おらは通常の妖術は得意じゃない。
ちょっと特殊な妖術の方が得意だったんだ。
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「わっかぜつよぉい!」
目の前できゃっきゃっと喜ぶ妹を見ながら、口角を上げた。
「そうだなぁ。あっそうだ。ちょっと見とけよ?」
「?にいちゃ、なにするの?」
不思議がる妹に、おらは水を掬うようなポーズで口を開く。
「風光明媚」
すると風がパラパラと結晶化し、ハート型になった。
「胡桃。これあげる」
「わぁっ!すごいすごい!ハートだハート!」
「ふふふ」
「にいちゃはかぜさんとなかよしだねぇ」
「ん?」
「くるみねっ!ほんでよんだの!ようじゅつにはね、〝じぶんのようりょくをつかうとき〟と〝しぜんのようりょくをつかうとき〟があるんだって!」
「へぇ……胡桃は物知りだな!」
「えへへ〜♪」
「2人とも、何の話をしてるんだ?」
「あっ檜兄ちゃん。今、胡桃が妖術の話をしてくれてたんだ」
「うん!にいちゃはしぜんのようりょくをつかうんだよ!」
「へぇ……杉はちょっと特殊なんだな」
「特殊?」
「あぁ。自然の妖力を使うのは、自分の妖力が極めて低いときだからな……」
「………………」
少し自分が気まずくなった。
2人から目を逸らすと、檜兄ちゃんがおらの肩をガシッと掴んでくる。
「いいか杉。自然の妖術は使う場所が限られるが、妖力切れを起こさない。使い所によってはお前が1番最強だ!」
「にいちゃがいっちばーんっ!!!」
そう言ってニコッと笑う2人は、スーパーヒーローに見えた。
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今は思い出に浸っている場合じゃないな。
顔を上げると、フールは妙に落ち着いていた。
おらも落ち着いている。
独特な空気の中で睨み合う。
フールが先にニコッと笑って口を開いた。
「急に攻撃されたからびっくりしちゃった!ねぇ、今の何?どうやってやったの?」
「……妖怪だけが使える能力だ」
「へぇ……発動条件は?」
「フールがおらを殺せたら教えてあげるよ」
「ってことはさ、あたしと殺り合う気があるんだよね?」
ギラギラと光る目には殺気を感じない。
ただ純粋に、試すように。
挑発するように。
模擬戦をやるみたいに。
魔法陣から放たれる攻撃のせいで、建物が崩れてきている。
このままだと、壊れるのも時間の問題だ。
中にいる燿とかが危ない。
「フール!外でやらないか!?」
何言ってんだおら。
言った後に馬鹿げた話だと気づいた。
フールは目を見開いたまま固まっている。
本当にやらかした。
視線が痛い……。
聞きたくない返答を待つ。
「いいよ」
「えっ」
「だってここじゃあ、フェアじゃないでしょ?」
「あっあぁ確かに!うん!」
声がうわずる。
「それじゃあ」と言ってグイッと手を引っ張られた。
力が強く、全く引き剥がせない。
あっという間に外に連れ出された。
来た時にも思ったが、ここはどこなんだろう。
妖怪の学校とは少し違う……。
隣って確か……エルフの
「よそ見しないでよ!」
「うわっ!?」
避けようとしたら、足が絡まり思いっきり転ぶ。
「やっぱり避けるのヘッタクソだね」
直ぐに体勢を立て直す。
初めての対戦相手がフールで良かった。
そうじゃなかったら今頃死んでいる。
「まだまだ新人でね!疾風怒濤っ(しっぷうどとう)!」
風が唸り声を上げながら、木々をなぎ倒していく。
大分妖力は薄いが、殺すつもりはないから無用な心配だ。
粘土を捏ねるみたいに風を操る。
1番創造しやすい巨大な手を作り、フールを追いかける。
最初こそすばしっこく逃げていたが、急に動きが遅くなった。
その瞬間にフールを掴み地面に叩き付けた。
ちょっと悪いことをしてしまった気がする。
風に乗って近くまで移動する。
事前にうのさんに聞いてて良かった。
「大丈夫?」
「まっじで……いったいん……だけ……ど……ゲホッゴホッ」
「命に別状は……ないみたい。良かった。軽い手当なら出来るから……ちょっと待ってね」
そう言って傷口に手を近づけた。
「ねぇ、名前なに?」
「今?」
「ここでは勝者は敗北者に名乗るルールがあるんだよ」
「……おらは杉。そっちは?」
「…………知ってるんでしょ。言う必要ある?」
「おらのリーダーはよく言うんだ。情報は1つだけを信用しちゃいけないって」
「あっそ。……活動名フール=ロイピュアル。本名エフェメラ」
「エフェメラ。君を拘束する」
エフェメラの目は冷たくも暖かみがあった。
手をリボンで拘束する。
手錠より頑丈で、外そうとしたら爆破し、肉片になってしまう。
「ねぇ……出所だっけ?したらさ、友達になってよ」
「……君がちゃんと更生したら考えとく」
「ふっ。じゃあ戻らなきゃ」
そう言ってエフェメラは安心したように眠った。
この前磁石で歯磨きする夢を見たんですよ。
ちっちゃい丸い磁石が歯ブラシの形してるだけです。
書いてて気分悪くなってきちゃった☆
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【唐突プロフィール】
名前/セロリ
誕生日/6月4日
好きなこと/紅茶を飲む
嫌いなこと/ペースを乱されること
趣味/掃除
種族/虫人
よく旅人にお守りを作って渡している。意味の無い曲がったことが嫌い。
名前/胡桃
誕生日/9月6日
好きなこと/お菓子作り
嫌いなこと/上から目線な態度をとる人
趣味/ぬいぐるみ集め
種族/妖怪
体が弱く、兄達が買ってくるお菓子をいつも楽しみにしている。笑顔が凄い可愛い。
名前/檜
誕生日/6月11日
好きなこと/家族で過ごすこと
嫌いなこと/家族を傷つけること
趣味/盆栽
種族/妖怪
The・正義派な兄貴だが、心は揺れやすい。誰からも慕われている。




