日常は続かない
多分日が暮れた気がする。
ヴァンパイアの洞窟は赤い霧のせいで、時間の感覚が無くなってしまう。
腕時計に目を向けると、丁度5時の針を指していた。
着いたのが大体2時ぐらいだから、約3時間経ったことになる。
まだレイラと王様は出てきていない。
スヴェンが大きく伸びをして、口を開いた。
「そろそろやりましょうか。2人とも、お願いします。」
「まだ出てきてないけど」
「レイラ様だったらもうすぐ来る」
フレアの話にあまり信じていなかったが、タイミングを見計らったかのように、2人が出てきた。
「すまない。話が長引いてしまった」
「いや~待った?」
「全然ですよレイラさ」
「待った」
口を割り込む僕に、フレアに足を蹴られる。
ここで相手にしたら後が怖いので無視だ。
王様はニコりと微笑み話す。
「ひとまず、大きいものから運び出そうか」
「よし、フレアと棗。頼んだ♪」
「いやレイラも手伝」
「私は小物類運ばなきゃだからさ~」
ったく。
傍から見たら、レイラは華奢でとてもか弱そうに見える。
その か弱さの裏に気づけずに、右腕を綺麗に折られてしまったのは痛い思い出だ。
人間の場合だったらトラックを使い、運び出すが、ここはヴァンパイアの洞窟。
ヴァンパイアは羽があるため、空が飛べる。
洞窟の入口はガタガタだ。
つまり手作業か、不可思議な方法を使う。
僕は魔導書を開けた。
手をソファに触れる。
「シュヴェーベン」
ソファが浮かぶ。
スヴェンの目はキラキラ輝いている。
フレアも杖でテーブルに触れた。
「フロテ」
テーブルもソファと同様に浮かぶ。
王様とスヴェンは目を丸くしていた。
そのまま少し小さな洞窟へと運び込んで行く。
1人を覗いて、僕らはまだ気づいていなかった。
誰かに監視されているなんて。
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「終わったぁ~!!!」
ソファにドカっと倒れ込んだ。
その上にフレアが上品に座る。
「お疲れ様です。シフォンケーキ焼いたので食べます?」
「頂きます」
「食べる食べる~」
「あっ私も欲しい」
「分かりました!切り分けますね」
スヴェンは鼻歌を歌いながらキッチンへと向かっていった。
キッチンと言っても皆が思い浮かべるような感じじゃない。
台があって、その下に戸棚がある。
ガスコンロも電子レンジもない。
……どうやってクッキーとか作ったんだろうか。
考えていると肩をつんつんとつつかれる。
「少しいいかな?」
つんつんの正体は王様のようだった。
「フレアどけ」
不服そうな顔をしてフレアが立ち上がる。
今日はあまり楽しくなさそうなことを感じたのか、レイラがガスマスクを取った。
顔は見えない。
フレアは元から少し赤い顔が、更に赤くなった。
「……ズルいですよ…………レイラ様」
「っははは。任務が終わったら、とことん甘やかすからさ。頑張れる?」
「…………はい」
本当、レイラはフレアの扱いが上手い。
上手いというか、依存関係があるから成り立つのか。
王様に目を向ける。
「要件はなんですか?」
「あっあぁ……実は気をつけて欲しいことがあって」
「何ですか?」
王様は髪を弄る。
ヴァンパイアの髪は基本白かグレーの髪色だ。
そこに何本かの黒い髪が生えている。
「ヴァンパイアの能力は〝血の通った生物を操る〟ことが出来る。操る能力もヴァンパイアによって違う。判断はこの黒い髪だ。最大5本まであって……」
間を置いて口を開いた。
「殺害依頼をかけたアルブスは5本。」
「それの何が問だ」
「サング」
ービタンッ
まるで潰れた蛙のような姿になってしまった。
顔すらあげることも出来ない。
「なんだっこれ……体が」
「動けない…………」
王様の声が聞こえる。
「これがアルブスの力だよ。術をかけられでもしたら、まず君達は殺られてしまう。だから、これが発動する前に倒せればいいのだが…………。………金髪の君からエルフの血の匂いがしたんだけど…………」
「さぁ……何故でしょうね?」
レイラと王様がどんな顔をしているか分からない。
「血の匂いって……鉄臭いだけじゃ?」
「人間はそうだね。けれど、エルフは甘い匂いがするんだ。例えるなら砂糖みたいな感じじゃないかな。」
にしても……またレイラに関して分からないことが増えてしまった。
「レイラ……レポートどうすんの?」
レポート。
傍から聞いたら何かの課題についての質問だ。
僕は否定の返事が返ってくると信じていた。
けれど。
「勿論するよ」
「……ですよね~」
レイラは僕らに何でもさせたがる。
いい迷惑だ。
「取り敢えず、もう少し固めようか。課題の提出にはまだ時間がある。シフォンケーキもまだ食べてないしね♪」
レイラがそう言うと体が軽くなる。
顔を上げると、テーブルにケーキとティーカップを並べているスヴェンの姿があった。
その表情は暗い。
「……あの……」
「どうしたスヴェン。具合でも悪いのか?」
「いえ。その」
スヴェンは目を逸らす。
たっぷりとした沈黙の後、口を開ける。
「アルブスさまが……亡くなったみたいなんです」
「なっ!?」
王様はかなり驚いていた。
僕とフレアも驚く。
殺害依頼を受けたヴァンパイアが死んでしまったのだ。
ってことは30万Gか。
せっかく2億手に入ると思ったんだけど。
つまらなそうな顔をして、レイラを見る。
レイラはいつの間にか、ガスマスクをはめていた。
少し考える素振りを見せた後、
「死んでないと思いますよ」
と言う。
僕はニヤリと笑った。
フレアは流石はレイラ様!みたいな顔。
王様とスヴェンは何を馬鹿なことを、的な感じかな。
「それは一体どうゆう!?だって洞窟の外で皆が」
レイラが1歩前に出る。
その瞬間、フレアと回れ右をして、洞窟の外へと走った。
ちらりと後ろを見る。
丁度レイラが、自前のナイフで心臓を突き刺した。
スヴェンの形をしていたものは、大柄な男の姿になる。
男はあっさりと死んだ。
塵になったと言う方が正しいか。
「前見ろ前」
「分かってる」
走りながら魔導書を開く。
「フェヴァンデイ」
髪が白くなる。
肌の色や服装なんかも変わった。
何回か練習はしてきたけど、こんなに綺麗に変身できるのは初めてだ。
フレアのとんがった耳が、人間みたいに丸くなる。
相変わらずの美人だ。
ヴァンパイアの能力はもう1つある。
自身の血を分け与えた相手を一時的にヴァンパイアにすることが出来る。
そう。
スヴェンから貰ったクッキーには血液が混じっていた。
そこだけ聞くと大分気持ち悪いが、ヴァンパイアの血は医療にも使われることがあるらしい。
味はちょっと苦いが、砂糖を混ぜると程よい感じになる。
「フレア。道はどっちだ」
「左」
「分かった」
そう言って僕は右に向かった。
頑張ります
良ければ評価お願いしますm(_ _)m
【唐突プロフィール】
名前(本名)/セイン=ポドリファ
名前(偽名)/レイラ・マグレーネ
誕生日/6月1日
好きなこと/人体実験←被験者…自分
嫌いなこと/つまらないこと
趣味/氷細工
種族/神
頭が良く、気づいたら駒にされていることが多い。息をするように嘘をつく。