元に戻して ◤◢
「うわっ!」
壁から虹色の液体が針のように鋭くなる。
きっとボスの能力なのかなと脳が勝手に理解する。
彼と戦っている子が、誰かは知らないけど大丈夫だろうか。
そういえば桃ちゃんと炒くんはどこに行ったんだろう。
プレザントちゃんは大丈夫かな。
あんなに強かったんだから平気か。
不意に頭上を見上げる。
「止まって!!」
静止した瞬間、天井が崩れる。
鉄っぽい臭いが鼻を突く。
充血した目には血管しか見えない。
けれど涙でぼやけながら顔が見えた。
「スーイ……?」
「えっ」
僾ちゃんを抱えるトゥーリの腕に力が籠る。
彼女は血に塗れすぎてよく分からない。
手が変な方向に曲がっていた。
脚もなんだかおかしい。
ありえない方向に曲がって。
白い棒が柔らかい皮膚を突き破っている。
顔を触るとちょっとだけ冷たい。
なに。
なんなだろう。
目の前の状況が理解出来ない。
え。
えっえっえっ。
「スーイ?……スーイサイド?……スーイッ!」
彼女の体に乗った瓦礫をどかそうとするが、重くてビクともしない。
うらよりちょっとだけ太い手が、いとも簡単にどける。
「……置いていこう」
弾かれたように顔を上げる。
圞の表情は氷よりも冷たい。
触れた瞬間、凍ってしまいそうな。
「今、折れた四肢を固定する道具がないし、無理に動かす方が危険だ」
頭では分かっている。
分かってしまったから反論出来ない。
視界が揺れる。
ぐわんぐわんに揺れて。
「あっあぁぁっ!!!!」
言葉が形になる前に出ていく。
前が見えない。
苦しい。
破れた袖がびっしょりと濡れる。
喉がどんどん閉まっていく刹那、上から手が落ちてきた。
「ほんっっとに暴れまくって大変だったぁ!」
ボロボロになった機械仕掛けの体からは、バチバチと火花が散る。
にたりと不気味な笑みを浮かべて、何かを投げつけた。
「何」
「それいらないからあげる」
赤く染った白い歯を掴み、ポケットに押し込んだ。
そうか。
コイツがやったのか。
「圞、先に行ってて」
「ばっ何言って!!」
「いいから」
こんな事をしている間にも崩壊は続いている。
「リバティ!急がないと!」
トゥーリは呼び方が元に戻っている。
うらは3人を見て、笑顔で言った。
「ここはちょっと任せて」
不安そうな3人に微笑み続ける。
早くこの場から去って欲しいと願いながら。
彼らは心配そうにしながらも、足を早めた。
さて。
伸びた爪を肉に突き立てる。
血がドクドクと溢れ出し、それは機関銃の形を模した。
「遊ぼうか。サフラン」
引き金を弾く。
閃光が辺りを包み込む。
彼は避けるでも無く、身体中に受け続けている。
「どうして逃げないの」
いろんな線が剥き出しになって、いつ動作を終了してもおかしくはない。
するとサフランは優しい笑みを浮かべた。
「殺して欲しいからです」
「ー!!!」
ここに圞がいなくて良かったと思う。
けれどもう一度合わせてあげたいとも思った。
今の彼女は昔と変わらぬ雰囲気を纏っている。
クリーム色のストレートの髪は所々、焦げていたり変色していたり。
「エンプティさん。私はもう元には戻れないんです」
「どうして」
「あの人から聞いたでしょう。もう元には戻らないって」
「けど」
手が触れる。
酷く冷たい。
「私は元々、命を持たなかった人形ですから。また初めからになるだけ」
濃い黄色の瞳から雫が零れ落ちた。
「私はエンプティさんの大切な人を奪ってしまったから」
「スーイサイドはまだ生きてる」
「……何言ってるんですか」
あっ。
油断。
ーパァンッ
乾いた破裂音。
オブサーヴはうらに身体を預け、眠ってしまった。
まるで元に戻ったように。
ゆっくりと床に寝かせる。
いや、連れていこう。
こんな場所で埋められるなんて可哀想だ。
パーツをこぼさないように、持ち上げるが、意外と重たい。
そりゃ金属で出来ているんだから。
にしてもさっきの破裂音はいったい……。
「エンプティ、」
声のする方を振り向くと、そこにはスーイサイドがいた。
未だに血濡れの姿は変わらないけれど。
ぐちゃぐちゃになった手は綺麗に戻っている。
「なんっなんで……?」
「なんか急に力が湧いてきて……近くにこれがあったんだ。視界は血であれだったんだけど、光ったものが誰かに振り下ろされてたから。……良かった」
ふぅと力なく息を吐く。
いつもの彼女には見られない穏やかな表情。
その姿に腰が抜けてしまって。
どさっと音を立てて、座り込んだ。
「ねぇスーイサイド」
「なぁにエンプティ」
うらは手を握った。
まだ少し冷たい。
「うらの力ではこの瓦礫は持ち上がらないんだ」
「うん」
「だから…………」
「いいよ。置いて行っても」
真っ赤な薔薇色の眼球は凛としていた。
パラパラと粉が散る。
うらは立った。
「ねぇ、スーイサイド」
「ん?」
きょとんと目をぱちくりさせる。
「もし生きてたらさ。名前、教えてね」
「うん」
溢れる涙を堪えて、重たい彼女を抱えて、鈍い脚を動かした。
走り出した時、小さな小さな声が脳裏にべっっとりと張り付きすぎた。
「置いてかないで」
うらも小さな小さな声で呟いた。
「置いてかないよ」
もしスーイサイドが死んでしまうならば。
うらも後を追うから。
心配しなくてもいいよ。
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「ねぇお兄ちゃん!」
「えっと!どっちですか!」
「どっちも!」
足場の悪い道を何とか乗り越え、中の光とは違う光が見えた。
「あそこ!登れそう!」
「先に登れ!」
「はい!」
簡易的な梯子に手をかけ登り始める。
所々外れていて登りにくいが、なんとか地上までいけたようだ。
思い切り空気を吸い込みむせる。
人形に肺なんてのはないけれど。
そういえば。
「僾ちゃん。さっき何言おうとしたの?」
少女は自分より大きな手をしっかりと握り、大きく口を開けた。
「どうして違うお名前つかってるの?」
「このタイミングで?」
圞が呆れたような、安心したような、そんな声色で放った。
ちょっと悩んで、形のいい三日月を作る。
「皆、昔の自分を消しちゃったからだよ」
「どうして?」
純粋無垢な双眸が捕らえて離さない。
「思い出したら、それだけで暗闇に閉じ込められちゃうような……そんな感じになっちゃうからかな」
「トゥーリも?」
「うん」
急な呼び捨てに子供って分からないなとか思って。
ちょっとだけ過去に耳を傾けなきゃいけないのかもとか。
茜色のワンピースを着た少女と上に、地面に寝転んだ。
「今日はなんだか疲れちゃったな」
プロットを書かないからこうなります。ただ書いたところで暴走します。手綱がない!
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【小ネタ】
実はトゥーリの名前は朴木棗になる前につけらた名前です。つまり、前主人公の名前ですね……消してしまいましたが。なので絡ませたいなとか思いつつ……棗にその気がないのでどうなんだろうみたいな……。




